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mission 50 長いため息

「いやいやいやー。先輩モテすぎでしょう。打診されまくりでしたね。私がパートナーになっていじめられませんかね。」

「・・・・・・・・・。」




女の子だと判明してから、学園へも普通に女生徒として通い始めたレン。

今日は女の子らしく可愛らしい、黄色のフリル多め、フワリと広がるプリンセスラインのドレスに身を包んでいた。


曰く「ドレスと言えば、プリンセス!憧れてたんですよねー。」だそうだ。

嬉しそうにターンをしたり、クルクルと無意味に回ってスカートの動きを楽しんでいる。

少し子供っぽいかもしれないが、まだ第1学年だし、小柄なので似合っている。



「先輩ってなんだ。」

「ルーカスの事ですよ。先輩じゃないですか。あなた第2学年。私は1年。」



予想外にも・・・・いや、ある意味予想していた者も多いかもしれないが、卒業パーティーの相手として一番女生徒からの希望が殺到したのがルーカスだった。


男性から誘わなければならないという慣習上、直接の誘いはないものの、ほぼそれに近いようなことを、ありとあらゆる方法でされていた。

まあ要するに「私を誘って!」というアピールだ。


昼食時は王子達ご一行のガードが固いので、王子達のいない授業中に話しかける、隣に座る、一緒に課題をするといった熾烈な争いを繰り広げられた。

目の前で落とし物をする、つまずいて支えてもらう、なぜか道行く先で泣いている女生徒がいる。

手紙を渡す、花を渡す、ハンカチ、お菓子、などなどなど。





言わずと知れた王子のアランや、侯爵令息のマリウスなどは憧れている者も多いが、雲の上の存在だ。

下位貴族などでは、自分から話しかけることすら難しい。


けれど平民出身のルーカスであれば、遠慮はいらない。

第2学年でありながら攻撃魔法が既に学園一と名高いルーカスとお近づきになって、もしも将来結婚でもすれば、その家の繁栄が約束されたも同然だ。



というか優しくて強いルーカスは始めから普通にモテていた。

いつもノアや王子達と行動しているので分かりにくいが、ずっと前からモテていたのだ。


イーストランド伯爵が、シアとの結婚の可能性を聞いたり、卒業パーティーには好きな人を連れてくるように指示したのは、このへんの事情があってのことだ。





さて、誰かをイーストランド伯爵に好きな人と偽って紹介しなければならないルーカスにとって、選びたい放題なのだから嬉しいかと言えば、当然そんなわけない。



ルーカスとレンと、数人の魔力の才能がある者。そして一握りの裕福な平民を除いてあとは全員が貴族。

男爵令嬢だって、庶民のルーカスにとったら、普通に会話もできないようなお方たちなのだ。

誰かを適当に誘うなど、できようはずもない。




「私を誘う人なんていないだろうから、卒業パーティーの日は1日寝てようかと思ってたんですけどねぇ。・・・・・まあある意味助かりましたよ。」



同じ理由でレンにも実は色々なお誘いがあった。

考えてみれば、世にも珍しい闇魔法の使い手。しかも手練れ。レンは女性なので、あからさまに直接的に誘う男性が多くて大変だった。



ルーカスに「想い人の振りをしてくれ!」と頼まれて、ホッとしたくらいだ。


それにしても「想われている人」の演技とはなんだとなり、そんなのは無理だという結論に至った。

そこでルーカスの完全な片思いで、レンはルーカスの事を友人だと思っているという、なんだか甘酸っぱい設定になってしまった。



想い人が平民のレンだからドレスが用意できない(ので卒業パーティーには行かない)とイーストランド伯爵に伝えたルーカスだが、誘うように言ったのは私だからと言って、伯爵にあっさりレンのドレスと、ついでにルーカスの衣装も用意されてしまった。


さすがにギリギリすぎたので既製品だが、ピッタリと身体に合う気に入ったものが見つかって、レンは嬉しそうだった。




ルーカスの想い人がシアとも友人で、平民で魔力の実力もあると分かって、イーストランド伯爵も安心したようだ。







*****







いろんな思惑やらが入り混じり、なんとか本番を迎えた卒業パーティー。

合図がされて音楽が始まると、まずは最終学園の印であるコサージュを付けた生徒たちがホールに歩み出る。


今日の主役は彼ら、彼女たちだ。

恋人同士もいれば、婚約者同士も。友人同士や家の者など、下級生たち以上に色々なドラマがあっただろう上級生たちだが、傍から見ているとそんな事情は一切感じさせず、優雅に楽しそうに踊っている。



「さすが上級生!優雅で綺麗ね、セオ。」

「そうですね。もちろんシア様もお綺麗ですが。」


あまり夜会などに出席しないが、運動神経の良いシアのダンスは、見応えがあると評判なのだ。



「ふふふ。ありがとう。」

「・・・さあ、もうすぐ卒業生だけのダンスは終わりそうです。お手をどうぞ。」


ニコリと微笑んでお礼を言ったシアを見て、ほんの一瞬だけ眩しそうに目を細めたセオが、すぐにいつも通りの落ち着いた仕草で手を差し出す。



最近、ウェスリーのところで鍛えているせいだろうか。以前よりもその手が固くなっているように、シアは思った。




「では参りましょう。」










シア・イーストランドと踊っているのは誰だ?立ち居振る舞いは騎士のようだけど。

イーストランド家の従僕ですって。

ああ、アラン王子は諦めて家の者にしたのか。

アラン王子を射止めたのは結局スカーレット様。順当だな。

じゃあシア・イーストランドは王子にふられたのね。

まあ当然だな。






―――――ねえ、でもシアたちを見て!あの2人、とても楽しそう。







子どもの頃からダンスの練習相手をして勤めてくれていたセオ。一番踊り慣れている。

シアがふざけて無駄な動きをしようとしても、アラン王子のように対抗するでもなく、包み込むようにして、いつのまにか優雅な踊りに戻してしまう。


一瞬ムッとした様な表情をしたシアだが、またすぐに、どうしても笑顔になってしまう。

ここが学園のダンスホールであることなど忘れてしまいそうに、シアは安心して、心からダンスを楽しんだ。

まるでイーストランドの庭で、子どもの頃、みんなでピクニックしていたあの時のような気持ちで。








「おい。2曲で交代だ。」

曲の切れ目に、誰かがセオの肩に手を置いた。


「アラン王子?セオは従僕だから、3曲以上踊っても大丈夫じゃないですかね。」

突然のアラン王子の登場に驚いたシアがそう答えるも。




「俺がスカーレットと3曲以上がまずいんだよ。」

「そうなんですか。」


なぜか不機嫌そうにそう言うアラン王子。日頃お世話になっている仲間だし、人間不信のアラン王子には他に誘う相手もいないのだろうと、素直にダンスの相手を交代する。





まるで待っていたかのように、アラン王子と交代すると同時に次の曲の演奏が始まる。






―――お、きたわね。



今度は大人しく普通に踊ろうと思っていたシアだったが、アラン王子が自分からダンス勝負を仕掛けるかのように、必要以上のスピードでターンをして回転を増やしてきた。

当然、余裕でついていくシア。



初めてこの2人の踊っているところを見た生徒やその関係者たちは、その動きに目を見張る。

最初はハラハラしながら見たり、優雅さに欠けると密かに苦笑する者も多かったが、徐々にその動きに魅了されていく。





すごい!さすがアラン様だわ。なんてすばらしい身のこなしかしら。

激しい動きなのに、まるで羽根の様に軽く踊られるのね。

シア・イーストランドって、体が弱かったんじゃないの?なんだあのキレのある動き。

おい!アラン様が笑っているぞ。






あっと言う間に2曲が終わる。



「さて、2曲終わりましたね。」

「そうだな。」



今度こそ失敗しないぞと、アラン王子とのダンスはお終いとばかりにホールドを解こうと力を抜くシア。

しかしアラン王子は、シアの目を見つめたまま、その手をほどこうとしない。


「え、ちょっと、アラン王子?2曲、終わりましたけど。」

「分かっている。」




―――え、なになに。なんでアラン王子、ホールドを解こうとしないの?あ、12歳はセーフになったから?でもそれってホームパーティーならという感じで、あまり公の行事では―――



混乱するシア。アラン王子がいいならいいってことなのかしら、などと前世日本人らしく、流されてまあいいのかという気になってくる。




ザワザワザワ。




心なしか、ホールが緊張感に包まれている・・・気がする。



曲と曲の合間にしては不自然に長い時間を置いていた演奏家たちがお互いの顔を見合わせ、ついに覚悟を決めたかのように、楽器を構えようとした、その時。








「アラン王子!2曲、終わりましたので。」


そう言って、今度はアラン王子の肩に力強く手を置く者がいた。





ノアだった。





確か、ノアはイザベラと2曲踊った後は、奥のほうで人ごみを避けて休んでいた様子だった。ホールの反対側の、しかも人ごみを抜けた奥のほうで休んでいたはずのノアが、いつの間にかこんな近くにいたことに、シアは驚いた。




王子の肩に手を置く者がいる状態では、音楽は始まらない。




「ノアか。・・・・・分かっていたさ、俺はな。こいつだって、もう知っているだろう。」

「シアは意外と押しに弱いところがあるんです。アラン王子がいいならいいってことなのかなーとか思っているだけで、深く考えてはいません。」

「え、なんで分かったの。」



先ほどまでの考えをノアに言い当てられて、驚くシア。




シアのその様子を見てアラン王子はフッと力が抜けたように笑うと、やっとシアの手を離して、離れていった。



代わりに差し出されたノアの手を握るシア。


「ノア、手に汗をかいているの?」

手袋越しにもなんとなく伝わってくるほどの湿り気。

よく見れば顔も少し汗ばんでいる気がする。



「誰の・・・・・せいだと。」



ようやく始まった楽団の演奏に紛れて、ノアが苦々しく絞り出すかのような声で答える。

当然シアはノアとも踊り慣れていて、一緒に踊るのは好きなのだが、なんというか今日のノアのダンスは気が抜けていて、適当に流しているような気がする。



「ちょっとノア。身内だからって、適当過ぎない?」

「緊張が解けて力が入らない。やる気も出ない。・・・もう帰って寝たい。」

「えー、なになに。イザベラと踊ったのが、そんなに緊張した?」

「・・・・・・・・・・・はーーーーーーー。」





見た目だけは取り繕って踊りつつ、ノアは今にも倒れ込みたい衝動を、なんとか長いため息に変えた。









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