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mission 49 コイントスの結果

「という訳なので、ノアはイザベラを誘ってくれる?」




イザベラとのお茶から帰ってくるなりノアの部屋へ押しかけたシアは、ものすごく重苦しい顔で、嫌そうに言った。


「良いよ。」

「良いの!?イザベラとパートナーになったら社交界で噂になるかもよ。」

「それは別に良いけど。」

「良いのか・・・・・。」




コイントスで負けて、ノアに打診するように(あくまで打診。誘うのではなく、誘ってくれるかの打診。申し込むのは男性側なので)イザベラに頼まれたシアだったが、本心を言うと、ノアが了承するかどうかは五分五分だと思っていた。


今まで従兄の王子達(中でも年齢の近いアラン王子がほとんど)くらいとしか踊ったことのない箱入り公爵令嬢が、いきなり辺境伯の跡取りと卒業パーティーのパートナーになったとなれば、少なくともこれからの1年は周囲がうるさくなることだろう。


イザベラのことは嫌いではないようだけど、特別に好きというわけでもなさそうなノアが、そのイザベラとパートナーになるかどうか。

断られても仕方ないと、イザベラも覚悟はしていたようだった。



「なんだかいっぱいミッションをこなして、魔力も体力も強くなってくるとさ。社交界の噂とか評判とかどうでもよくなってきたんだよね。」

「そ、そうなんだ。」

「うん。失礼な奴がいても、『こいつ角ウサギより弱そうだな』って思うと、まあどうでもいいかって。」

「分かる。」




シアにも思いっきり心当たりがあるので、深く頷く。




「だからイザベラを誘うのは構わないのだけど。シアは大丈夫?誰か他にパートナー候補いる?」

「あああーーーーーーーーーーー。」



いたらこんなに苦労はしない。コイントスなどしないで、快く親友にノアを譲り、協力をしたことだろう。


「もうルーカスに頼んでみるしか・・・・。」

「今日聞いたんだけど、ルーカスって好きな人がいて、卒業パーティーに誘うって心に決めているそうだよ。」

「・・・・そういうことだったのね。」




どうりで最近、ルーカスに距離を置かれているわけだ。

いや、避けられたりするのではないけれど、あくまで雇用主の娘という態度を全く崩してくれなくなったのだ。

ノアとは気安い友人関係のようにしているのに。腑に落ちなかった。



でも好きな人が出来たというのならば納得だ。

好きな人がいるとなったら、雇用主の娘と言えど、特別扱いをしたり不必要に近づかないように気を付けるだろう。それでなければ好きな相手に誤解されてしまう。





「・・・・別に、パートナーは学園外の人でも良いんだけど。」

「学園外。」

「最悪お父様という手も。」

「それはイヤ。」



学校のパーティーに親を連れていくなんて、自立ができていないというかなんというか。




学園外の人で良いといっても、病弱(という設定)で領地に引きこもっていたシアの知り合いなど、王都にきてから知り合ったキーン様やウェスリー様くらいか。




女性人気が高いのに、女性を近づけないウェスリー様と一緒に卒業パーティーになど出席したら、戦争が起きそうだ。


あ、でもキーン様はお姉様の婚約者だから、身内のようなものだし意外と良い案かもしれない。

イザベラに頼んでもらえば、よほどの用事がなければ了承してくれるだろう。



あと他には―――――――――







******







「直前にすまなかったな、スカーレット。お前も他に一緒にパーティーに出たい相手がいたんじゃないのか?」

「いいえ。今年は家同士の関係が複雑なので、マリウスと姉弟一緒に出ようかと相談していたところです。」



アラン王子は、マリウスの姉、スカーレット・オーレンドルフを王宮に招いていた。

水色の髪はマリウスそっくり。いや髪だけではない。

性別と身長以外はマリウスそっくりだ。



それに親近感を覚えるような、マリウスと踊っているようで落ち着かないような不思議な感覚があるのだが、古くからの正妃派閥筆頭家であり、父方・母方双方の縁戚であるスカーレットには、これまで何度もダンスの相手になってもらっている。



今日は2人で衣装選びだ。

お揃いにする必要はないが、バランスを考えて色や素材を選んだり、小物をそろえたりはしなければならない。



王子とそのパートナーの衣装といえば、普通はもっと何か月も前から用意していてもおかしくないのだが、色々と考えているうちに、衣装を仕立てるギリギリの時期になってしまった。



「イザベラが他の奴と出席したいと言いだしてな。」

「ふうん?アラン様にイザベラ以外にパートナーになりたい人がいたのではなくて?」



当然スカーレットの耳にも、アラン王子の本命は辺境伯の娘ではないかという噂は届いている。

届いているというか、何曲も楽しそうに2人で踊り続けていたところを、イーストランド家のパーティーにいたスカーレットは実際に目で見ていた。



マリウスとはお互いに利用しているだけだとか、信用できないとか言いつつ常に一緒にいて、どう見てもあなたたち仲良しでしょ!という状態だったアラン王子だが、基本的には人間不信だ。あとはイザベラとスカーレットがたまにパーティーで踊るくらいで、今まで他に人を寄せ付けたことはなかった。



子どもの頃から信用した相手に暗殺されかかったり、裏切られたりを何度も繰り返していたので無理もない。



けれども最近では信頼できる友人が何人かできたようだし、シア・イーストランドと踊っている時は本当に心から楽しそうだった。


「いや、あいつと卒業パーティーでパートナーになったら、もう婚約内定と思われるだろ。」

「それが何か困るの?」



別に婚約内定と思われても何が困るというのか。・・・・もしも本当に婚約したいのであれば。



――――まだ結婚を申し込むほどの気持ちはないということかしら?それとも度胸がないだけ?



スカーレットが不思議に思っていると。



「王子が誘ったら、受けざるを得なくなる。受けたら婚約者扱いされる。・・・・それじゃフェアじゃないからな。」

「フェアじゃない。」


フェアじゃないとは一体誰と。

シアが断れない状況にするなんてフェアじゃないということかしらと、スカーレットは思った。


「あの人には世話になっているし。権力とか使って勝負をしたくないんだよ。」

「ふうん?」




あの人。あの人って誰だろう。シアのことではなさそうだ。








「それよりスカーレットがマリウスと出る予定だったんじゃ、今頃マリウスが相手に困っているんじゃないのか?まああいつのことだから、うまい事バランスの良い相手を適当に見つけてそうだけどな。」

「それが、こんなに直前に困りましたねー仕方ありませんとか言いながら、嬉しそうに人魚姫を誘っていたのよ。」

「アーウィナを?人魚なのに踊れるのか?」

「なんでも人魚はとっても長生きで、アーウィナさんは人間のフリして生活していた時期もあるくらいらしいの。」

「へーそうなのか。」









*****








「だから、アラン王子やマリウスを誘う訳にもいかないでしょう?」

「そうですね。」

「ノアはとられてしまったし。」

「はい。」




――――だからセオ、一緒に卒業パーティー出てくれないかしら?




その簡単な一言が中々言えず、ギリギリもギリギリ。本当にもう今日決めないと衣装も何も用意できないというところまで、シアは追い詰められていた。

伯爵令嬢が既製品のドレスを着て卒業パーティーに出席するなんてこと、親の名誉にかけてできない。



もう今日中に誰と出るか決めないと、パパが一緒に出るからな!とお父様に宣告されてしまった。




イーストランド家の従僕なんだからセオで良いやーと思いついてから数週間。

なぜ、この簡単な一言が言えないのか。


「お兄様に頼みましょうか?」と言ってくれるイザベラに、心当たりがあると言って断ってしまったことを後悔している。




そんな期限ギリギリの最終日に、休憩時間にクロエと庭で遊んでいたセオを自分の部屋の窓から見つけて、シアは急いで駆け付けた。


周りには誰もいない。こんなチャンスは二度とこない。

というか、今日中に決めなければお父様と卒業パーティーに出ることになってしまう!!!




「それは困りましたね。」

「そうなの、困ったの。それで・・・それでね。」

「では私でよろしければ、ご一緒しましょうか。」

「え?」

「私はイーストランド家の従僕ですから。今年は派閥関係が複雑なので、家の者と出席する方も多いらしいですよ。使用人同士の情報によると。」

「ああ、そう!そうなのね!う、うん。とっても助かるわ。」

「・・・・男性から誘うのですよね。」



そう言うと、セオはおもむろに膝を付き、シアに手を差し出した。


「一緒に、卒業パーティーに出ていただけませんか?シア様。」

「・・・・喜んで。」




言えなかったこの数週間が嘘のように、あっさりとセオが一緒に出席してくれることに決まった。

シアは嬉しくなって、セオが差し出した手を両手で握り締めた。





「嬉しい。ありがとう、セオ。さすが、従僕。誘い方も完璧なのね。」

「最近、貴族のマナーや仕事を、一から学び直しているんです。」

「・・・・大丈夫?色々と忙しすぎない?」

「シア様達のように学園に通っている訳でもありませんから、その時間に。仕事もかなり免除していただいて、勉強させていただいていますので。」

「そうなのね。」





なぜイザベラに今からでもキーン様を誘ってもらうよう頼もうと思わなかったのか。

それは誰にも分からない。シア自身にも分からなかった。





誰と踊るかというここ最近の悩みから解放されたシアは、久しぶりにスッキリとして、それから心置きなく、モモちゃんとクロエと、遊ぶことができた。セオと一緒に。







その楽しそうな光景を、遠くから微笑ましそうに、イーストランドの使用人や、ノアや、そして伯爵夫妻が見守っていた・・・・・・のかもしれない。








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