mission 48 覚悟
セオと一緒に伯爵夫妻に呼び出されたと聞いた時、ルーカスは特に何も疑問は持たなかった。
ノアとシアと一緒に行動しているセオとルーカスに、2人の様子を聞きたいのか。それとも何か注意したいことでもあるのだろうと、なんとなく思った程度だ。
呼ばれた部屋に入ると、なんとセオと伯爵夫妻は既に揃っていた。
しかもセオは伯爵夫妻と対面の席に着席しているではないか。
伯爵夫妻を待たせてしまった。
「やあ、待っていたよルーカス。学園から帰ってきたばかりなんだろう?大丈夫だから、落ち着いて座りなさい。」
「え、あ、はい!」
――――――座りなさいって、伯爵の真正面に?
今日のイーストランド伯爵はおかしい。これは使用人に対する態度ではない。
せめて伯爵夫人の前の席のほうが少しは気が楽なのだが、そこには既に涼しい顔をしたセオが座っている。
この状況にルーカスは一気に緊張して、訳も分からず固い動作で用意された席に座った。
「さて、君たちにはいつも、ノアとシアがお世話になっているね。ありがとう。」
「ありがとうございます。もったいないお言葉です。」
「めっそうもありません!俺・・・私のほうが、2人にはとてもお世話になっていて、感謝をしているぐらいです。」
ルーカスが座ると同時にかけられた伯爵の言葉に、恐縮するルーカス。
ノアとシアは、ルーカスを泥棒扱いされる日々から助けてくれて、意外な才能を見つけて伸ばしてくれた。学園にまで通わせてもらって、お礼などいくら言っても言い足りないくらいだと思っていた。
冒険に付いていって用心棒をするくらい、お返しにもならない。一緒に行動すればするほど魔力量や体力がどんどん上がっていくのだから、こちらがお礼をしたいくらいだ。
しかも冒険で得たアイテムや素材は、全てルーカス自身がもらっていいときた。
命がけで守ってもお釣りがくる。というか、あの二人が敵わない相手はどうせルーカスだって敵わない。
「あなたたちがいてくれるだけでどんなに安心か。本当に感謝しているのよ。」
「ありがとうございます。」
「・・・・・・ありがとうございます。」
夫人にも微笑みながらお礼を言われて、今度はルーカスも素直に言葉を受け取る。
「それでね、今日2人を呼んだのは、大切な話があるからなんだ。・・・・・先に言っておくと、本当にただの可能性の話なんだ。可能性がないならないでそれでいい。少しでもその可能性があるなら、今から準備をしておいて欲しい。でも決定でもなんでもない、ということなんだけど。」
「あなた、そんな言い方では、2人が混乱してしまうわ。」
「ああ、そうだね。本題を先に言わないと。」
一体なんの話が始まるというのか。
ルーカスは緊張して、ますます心臓の鼓動が速くなっていく。
「まずルーカス。」
「は、はい!」
いきなり名前を呼ばれて、ドクンっと心臓が跳ねる。
「貴族というのはそのほとんどが、魔法を使えることで活躍して、リーダーになったり富を築いたりしたのが始まりだというのは知っているね。」
「はい。」
それはルーカスが庶民の頃から知っていたことだし、学園に通い始めてからは、より詳しく歴史として習っている。
「そして今でも、平民出身であろうと才能があるものは取り立てられることもあるし、養子や結婚というかたちで、貴族家に取り込まれていく。」
「はい。」
それほど魔法の才能とは重要なことなのだ。
貴族は魔力を使って、魔獣から魔力量の少ない領民たちを守らなければいけないし、この魔法の世界においては魔力がないと手に入れられない物、威力が発揮できないアイテムなどが山ほどある。
そのため魔力量が少ない者が続けて生まれたりすると、弱小貴族家だと家が存続できなくなって消えてしまう。
「ルーカス。君の魔法の才能はすばらしい。今はイーストランドの所属になっているけれど、他の貴族家も君の事をいつまでも放っておかないだろう。正式に、うちの家族の一員になる気はあるかい?」
「家族の一員・・・・。」
「つまりシアと結婚する覚悟はあるかな、ということだ。」
「シア様と結婚する覚悟!!!???」
全く考えもしなかったことを言われて、相手が伯爵であるにも関わらず大声で聞き返してしまう。
初めて会った時、雲の上のお姫様だと思ったシアと。
イーストランド家に雇われて、一緒に行動するようになって、貴族令嬢とは思えないくらい気さくに接してくれたけど、やっぱり自分とは住む世界が違うと思っていたシアと、結婚。
そんなことを伯爵から聞かれるなんて、夢にも思わなかった。
シアと結婚する覚悟。
少し前なら、「ある」と答えたかもしれない。ずっと憧れていたから。
でも今は、その憧れがただの憧れだと分かったし、シアと同じようにノアのことも大切に思っていて、それが恋愛感情ではないということに気づいている。
いやでも、憧れていることには違いないのだから、もし結婚できるのなら、と考えないこともなかったかもしれない。
――――もしセオさんがいなかったら。
伯爵夫妻にバレないように、伏目がちにして、横のセオを見る。
セオの横顔は、一見いつもと変わらない冷静な様子だった。
でもいつも一緒に行動して、一緒にノアとシアを守ってきたルーカスには、セオが冷静を装っているのか、本当に冷静なのかが分かるようになっていた。
なにがどうと理由が説明できるものではない。
顔色も普通だし、汗をかいているわけではない。
でもきっと、動揺している。
「ありません。」
考えるよりも早く、あっさりと、その言葉が口から出ていた。
「そんな気持ちは全くありません。」
自分でも意外だった。もっと迷うかと思っていた。憧れのシアと結婚できる可能性があるのだから。
でも不思議と全く迷う事はなかった。
―――――憧れだけで、あのシア様と結婚する?そんなことをしていいわけがない。
あの大恩人の女の子には。あの子には、あの子の事を本当に心から想って、大切にしてくれる人と結婚して、世界一幸せになってもらわないといけない。
そのためだったらなんでもする。
――――でも結婚相手は俺ではねーよ。
ルーカスの言葉を聞いた伯爵夫妻は、驚いたような表情をして、お互いに顔を見合わせている。
「・・・・そうなのか。いや、意外だったな。君は・・・親の私が言うのもなんだけれど、シアに好意を抱いているようにみえたから。」
「もちろん、心から感謝をしていて、とても大切な方です。シア様も・・・・ノア様も。」
「そうかい?なにも今すぐ結婚しろと言っている訳じゃない。恋愛感情じゃなくても好意があるなら、貴族の勉強だけでもしておいたら。もちろん他にも候補はいるし、もしかしたら、高貴な方から申し込みがあるかもしれないからどうなるかは分からない。可能性があるなら、ということなんだ。」
高貴な方、・・・アラン王子のことだろうか。
「いいえ本当に。大切な方であることには違いないのですが。何と言えばいいのか・・・えーっと、好きな人とは別と言いますか。」
「好きな人は別。ああ、他に好きな人がいるのか。」
なぜこれほど感謝をして大切に想っているのに、結婚する気は全くないのか。説明がうまくできないルーカスからとっさに出た言葉に、イーストランド伯爵が「なるほど!」と納得している。
他に好きな人がいる。
それはちょっと違うのだが、違うと言うとまた説明が難しいので、これでいこう。
――――そうルーカスは思った。
「はい!そう、そうなんです。ですので。」
「ああ、そうか。それは困らせて悪かったね。他に好きな人がいるのに、シアと結婚する可能性があるから勉強しておこうとはならないよな。なるほどなるほど。」
「そんな感じでして。」
別に他に好きな人がいるわけではないけれど、シアと結婚したいという気持ちがないことはしっかりと伝わったようだ。良かった。
「でもこれだけ魔力量の高いルーカスが誰と付き合うのか。雇い主として一度確認しておかないといけないな。今度の卒業パーティーのパートナーに誘って、相手をうちに連れて来なさい。」
「え。」
「さて、次はセオに同じ質問をするよ。君にシアと結婚する覚悟は――――――――」
え。
今度の卒業パーティーのパートナーに誘って、相手をうちに連れて来なさい?
誰をだ。・・・・好きな人をか。
―――――そんな相手いねーーーーー!!
少しばかり説明する手間を省いたばかりに、無理難題を抱えてしまったルーカスだった。




