mission 5 親子の対話
何だかんだで今日は随分長い間日向ぼっこをしてしまった。
セオに怒られそうだ。
部屋に戻ったらもうすぐ夕食の時間。
着替えと少し休憩する時間くらいしかない。
コンコンコン
「シアお嬢様。よろしいでしょうか。」
セオだ。
「どうぞー。」
まだ着替え始めていないので気軽に返事をする。
クロエが嬉しそうに走りより、最後はジャンプしてセオの腕に飛び込んだ。
ジャンピング抱っこ良いな~。
今度モモちゃんとやってみよう。
「精霊獣と契約されたそうですね。」
「うん!モモちゃんというの。可愛いでしょ?」
モモちゃんを抱き上げセオに見せびらかす。
「・・・見た事のない精霊獣ですが、可愛らしいですね。」
そう言ったきり、セオは何となく何か言いたげな顔をしているが、結局何も言ってこなくなった。
「何か用?」
「・・・・・・・いいえ。もうすぐ夕食ですが、まだ病み上がりですのでゆっくりご休憩なさっていて下さい。」
そう言って、セオはクロエと部屋を出て行った。
うーん。何をしにきたんだろう?
クロエを迎えに来たのかな?
でも今じゃなくても良かったような。
クロエに何か用事があったのかな。
何だかちょっと気になったけど。
言われなくても疲れていたので、夕食まではゆっくり休んだ。
服を着替えて食堂へ移動すると、私が最後だった。
お父様とお母様とノアが既に待っている。
お姉さまは既に王都の学園に戻っている。
あの話、しろよ?
そんな思いを込めてノアの方を見ると、気まずげに視線をそらされてしまった。
大丈夫かな?
「シア。今日は精霊獣と契約したそうだね。」
お父様が嬉しそうに聞いてきた。
メイドか護衛から既に報告がいっているようだ。
お父様は私と同じ金髪の巻き毛。
確かまだ30半ばくらい。
とてもお姉さまのような大きな娘がいるようには見えないが、貴族の結婚は早いみたいなので、これが普通らしい。
「はい!呼んでも良いですか?」
「もちろん!」
一応食堂なので許可を求めるが、断られるとは思っていない。
本当にシアには甘いのだ。
ノアが複雑そうな表情をしている。
「モモちゃんおいで。」
そう言って呼ぶと、光の球が・・・・生まれることなく、食堂の扉から飛び込んできた。
物理移動!
部屋で待っているかと思っていたら、そこまで付いてきていたのね。
キュイ!
自慢げに見上げてくるモモちゃんの頭をナデナデする。
「まあ可愛らしい。」
モモちゃんをみてお母さまがはしゃいでいる。
お母様も30歳越えているはずだが、童顔でとても可愛らしい。
サラサラのブルネット。
ブルネットはこの世界で一番多い髪色だ。
「7歳で精霊獣と契約できるなんて、シアはすごいな!」
お父様もご機嫌だ。
「でもノアは勝手に契約してはいけないよ。きちんと勉強や修行をしてから、しかるべき召喚をしなければいけない。」
デレデレの顔から一転して、お父様が厳しい表情でノアに注意した。
確かに跡継ぎの嫡男が勝手に精霊獣と契約しては、伯爵家の今後に少なからず影響があるだろう。
でもなー。
「そうよ。女の子は可愛い精霊獣でも良いけれど。ノアはもう少し能力も考えて契約しなければね。」
お母様も厳しい表情だ。
ノアは何もしていないのに、何だかしかられているような雰囲気になってしまった。
これがいつもなんだから、妹に八つ当たりの一つもしたくなるだろう。
まだ8歳だしね。
こんな事が小さい頃から続いていたら、「言っても無駄」と考えてしまうのも分かる。
「なぜ、シアは良くて僕はダメなんですか。」
言った。
ノア頑張った。
「ノア?お前は跡取りだぞ?跡取りには責任があるんだ。自分勝手に何もかも決める訳にはいかないだろう。」
「そうよ。キチンとお父様と相談してから決めなさい。」
お父様とお母様は語調を強めて窘めている。
・・・普段は優しいお父様とお母様なんだけどね。
・・・・・・ん?優しいか?これ。
「あのー。伯爵家を継ぐのに有利な精霊獣と契約してほしいという気持ちは分かるのですが、だったら最初から『相談してほしい』と言えば良かったんじゃないですか?お父様とお母様はお兄様に厳しすぎると思います。」
既に下を向いてしまったノアに加勢をする。
別に今日言って今日解決するなんて思ってなんかいない。
でもこれが。今日が第一歩。
「子供には分からない事情があるんだよ。」
思わぬシアからの反論に戸惑ったのか、お父様は適当に話を終わらせてしまった。
覚悟していてね。
これからもおかしいと思ったら、何度でも言い続けてやるんだから。
「シア。さっきはありがとうな。」
セオと一緒に部屋へ向かっていると、同じように2階の自室へと移動中のノアが話しかけてきた。
「当然です。お兄様もとても格好良かったです。」
本当にそう思う。
実は抗議しろと言っておいて、本当にすぐするとは思っていなかった。
勇気がいったことだろう。
「いや。今まで言っても無駄だと思っていたんだ。2人を説得するのは僕には無理だって。でもシアに、別に分かってもらえなくてもとりあえず言っておけと言われて気が楽になったよ。」
ノアはちょっと誇らしげだった。
「確かにな。何も言わずに我慢しているより、『僕は言ったからな!』って思っていた方が、気分が良い。」
「そうでしょ?今後もおかしいと思ったら、2人でどんどん言ってやりましょう。」
「おう!」
そう言ってニカリと笑ったノアは、年相応の子どもみたいで可愛かった。
「それじゃあセオ。ありがとうね。」
部屋の前まで送ってくれたセオにお礼を言って中に入ろうとすると、ガシッと肩を掴まれる。
「・・・・少しお話しましょうか。シアお嬢様?」
やっぱり?
・・・・・・・・・なーんか、さっきから、何か言いたげだとは思っていたわよ!