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【番外編】遥かな世界の物語

 えーん! えーん! えーん!




 ざわざわざわ



『困ったわ。』

『困ったね。』

『あの子誰かしら。』

『とんでもないものが紛れ込んできたね。』

『ビリビリする~。』

『近づいたら消滅しちゃうよ。』

『どっかに行ってくれないかな。』




「皆何をそう騒いでおるのだ。」




『女王様!!』

『魔人の童が紛れ込んでいます。』

『せっかくの私たちの森なのに。』

『お気に入りの湖なのに。』

『弱い精霊は、近づいただけで消滅してしまいます。』

『困ったわ。』

『困ったね。』




「魔人の童?」




 妖精たちが良く遊びに来る遥かな世界のお気に入りの森の近くの湖のほとりで、一人の子どもが先ほどからしゃがみこんで泣いていた。


 どうやら魔人の子らしい。

 どこから流れ着いてきたのやら。

 きっと次元の狭間に落ちてきてしまったのだろう。




「このように自然の魔力溢れる場所で元気に泣き叫んでいるとは。末恐ろしい童だの。」




 そう言うと、お気に入りの森にたまたま遊びに来ていた妖精の女王は、魔人の子どもに向かって歩き始めた。


 その子供の魔力はすさまじく、小さな妖精など吹き消してしまいそうなほどだ。

 妖精たちが、遠くから恐る恐るその様子を見守っていた。




 えーん! えーん! えーん!




「これ童。お前はどこからきたのだ。」




 えーん! えーん! えーん!




「これ、泣くでない。困ったのう。」




「えーん!えーん!気が付いたらここにいたの。僕、お父様に捨てられてしまったの?」


 魔人の子どもは、やっとの事で顔を上げた。


「そうではあるまいよ。きっと次元の狭間に落ちてしまったのだ。」


「・・・・あなたは誰?綺麗だね。妖精の女王様みたい。」

「ほっほっほ。その通りじゃ。」




 魔人の子は、妖精の女王様みたいに綺麗だと言いたかったようだが、正にその人物こそが妖精の女王だった。




「これ童。ここにいられると妖精たちが騒いで仕方がない。一緒に行ってやるからあっちへ去れ。」


「う、うわーん!えーん!えーん!」

「あ、これ。泣くな。困ったのう。お前の父親とは誰なのじゃ。」

「えーん!えーん!わ、分からない・・・。」




「この魔力の強さ。ただ者ではあるまいな。魔王の子か?それとも魔王の子どもの時か。・・・いや、あの魔王が子供の時とはいえこのように素直で可愛かったはずなかろう。・・・・次元の狭間に落ちて渡ってきた者は、時間もねじれくれておるからな。」




 妖精の女王はすっかり困ってしまった。




「まあ良い。とにかく魔界に送り戻しさえすれば、お前が誰だか分かるだろうよ。このような魔力を持つ子ども。何年前の子でも何年先の子でも、きっとすぐ分かる。」




「ぼ・・・僕。お父様のところに戻れるの?」

「きっとな。さあ童、行くぞ。」



 妖精の女王が差し出した手を、魔人の子は素直に握った。


「わらべ?僕はわらべっていう名前なの?」

「そうではない。お前には名前はないのか?」

「分からない。」


「うむ、そうか。童と呼び続けるのもなんだのう。」




 妖精の女王に手を握られて、魔人の子どもはゆっくりと歩き始めた。




「では、魔界に着くまでの間だけ呼ぶ名前を考えてやろう。・・・・ふむ、レジーだ。」

「レジー!格好いいね。」

「そうであろう。」




 そうして二人は、ゆっくりゆっくり時間を掛けて、魔界に繋がる場所まで一緒に歩き続けた。

 魔力を使えば一瞬で移動できただろうが、何日も掛けて歩いて行ったのは、妖精の女王の気まぐれだった。


 妖精の女王にしてみれば、1秒でも数日でも同じこと。同じ一瞬だった。

 それでも、この自分の手をしっかりと握る小さな手を、ほんの少しの間楽しみたい気分だったのだ。

 要するに暇だった。




「あれは何?」

「魔獣の巣だな。魔界の魔力に満ち溢れておる。」

「あなたは近づいて大丈夫なの?」

「ほっほっほ。私を誰だと思っておる。妖精界の女王だぞ。」




 意外な組み合わせの二人連れに、すれ違う妖精たち、魔獣達は心底驚いたような表情を向けてきた。

 それがその二人には面白くて仕方がなかった。




「あれは?」

「あれは人間の村だな。黒い魔力に触れたらすぐに死んでしまうほど脆いのに、不思議と気が付いたら一番増えておるのだ。」




 二人の旅はあっというまに終わってしまった。



「ほれ、ここだ。さすがに私でもこれ以上は近づけない。魔界の魔力で満ち溢れておる。あそこの森に入ったら、きっと魔人の一人や二人、遊びにきているだろうよ。」


「・・・僕戻らない。女王様とずっと一緒に暮らす。」

「無茶なことを言うでない。自分では気が付いてないようだが、お前は大分弱っている。魔界に戻って元気になったら、またたまに遊びにくるがよい。」

「本当に!?また遊びに行っても良い!?」

「ああ、良いよ。大きくなったらまたおいで。他の妖精たちにもレジーの事を伝えておこう。」





 *****








『ビリビリする!』

『ビリビリだわ。』

『あの子よ。』

『あの子がまた来たわ。』

『え、どこに?子供なんていないよ。』




「これこれ、何をまた騒いでおる。」

 魔人の子を魔界につながる森まで送って帰ってきてすぐの事。


 妖精たちがまたざわついていた。

 あの日のように。




『女王様―またあの魔人の子供が来てます。』

『困ったわ。』

『困ったね。』

『だから子供なんていないよう。』

『あの子がいると、湖に遊びに行けません。』




「何、レジーが?さっき送り返したばかりであろう。」

 妖精たちに泣きつかれて、妖精の女王はまたすぐ湖を見に行くことになった。

 送り返して、さっき戻ってきたばかりだというのに。




「ケイトリン様!お久しぶりです。」



 そこにいたのは確かにレジーのはずだった。

 しかしなんと、もう妖精の女王よりずっとずっと背が高いではないか。

 先ほど別れた時はあんなに小さな子供だったのに。




「久しぶりだと?先ほど別れたばかりであろう。」

「何を言ってるんですか。もう1年も経っています。」

「だから1年しか経っておらぬだろう??」




 1年など妖精の女王にとってはほんのさっきのことである。

 それなのに、すっかり外見は大人になったレジーに、女王は驚いた。




「しかし元気なようでよかったの。お前はどこの何者だか分かったのか?」

「はい!魔力の質から、多分今の魔王が将来的に生みだす子だろうということでした。」

「ほうほう、未来から。難儀だの。」




 多くの魔力を持つ子供は、その力をコントロールしきれていない。

 垂れ流した状態の力が循環して他の世界に流れる時、引っ張られて他の世界に連れていかれやすい。

 そのせいで、妖精界でも力の強い精霊獣の子ほど行方が分からなくなることが多いのだ。


 きっとレジーもそれで飛ばされてきたのだろう。




「せっかく遊びにきてくれたが、妖精たちの文句がうるさくてな。また送ってやるから、ここから離れろ。」

「はい!!」



 レジーは嬉しそうに返事をすると、女王にその手を差し出した。



「・・・これはなんじゃ。」

「・・・手を繋いでくれないのですか?」

「もうお前は小さな童ではないだろう。私よりよほど背が高い。」

「??僕まだ1歳ですよ。」

「・・・そうなのか。」




 少しだけ考える様子だった女王だが、1歳と聞いては生まれたばかりも同然だ。

 そう考えて差し出された手を握り返した。

 外見はどう見ても青年だったが、動物や精霊獣も外見の成長は早いものなのだ。



「では行きましょう女王様!僕、行ってみたいところもあるんです。この世界には海と言うものがあるとか。」

「ふむ、海か。私もここ最近は見ておらぬ。少し回り道して行こうかの。」




 そうして、今度は回り道をして。

 二人は海岸沿いの道をゆっくりゆっくり旅して行った。


 ちょうど喧嘩をしていたセイレーンと人魚が、手を繋いで歩く妖精の女王と魔王の子を見つけるて口をポカンと開けて見送ってくる。



「ほっほっほ。人魚たちの顔。傑作だの。」

「あっちがセイレーンで、あっちが人魚ですか。見分けがつきません。」








 *****






『ビリビリするー。』

『またあの子よ。』

『キャービリビリ。』

『キュンキュン。』

『キュンキュンするわね。』

『キュンキュンだ。』




「また何を騒いでおる。」




『女王様!またあの子です。』

『ビリビリだ。』

『キュンキュンなのです。』




「・・・キュンキュン?なんじゃそれは。」




『キュンキュンとは、心がキュンキュン鳴るのです。』

『心の中がこうなのです。』

『こんな花が咲いているみたいなの』




 こんな感じーと言いながら、妖精のうちの一匹が光の花を生み出した。




『そうそう。』

『心にこんな花が咲いた感じ。』

『違うよ、こんな感じの花だよ。』

『キュンキュンだね。』

『キュンキュンだー。』




 集まった妖精たちが、一斉に光の花を咲かせていく。

 いつの間にか、妖精の森近くの湖には、無数の花が咲き乱れていた。




「お前たち。魔人の子が怖いのではないのか。」





『慣れました。』

『近づいたら消えるけど。』

『このくらいまでなら平気。』

『ビリビリ慣れた。』

『キュンキュンだし。』





「ふむ。良く分からぬが。妖精が消えるのは困るよの。」




 そうつぶやくと、女王はまた魔人の子の方へと向かった。





「ケイトリン様。・・・・会いたかったです。」

「先ほど別れたばかりだがの。」

「僕は2歳です。生れてから2年しか経っていないのに、そのうちの1年も会えなかったのです。」


「そうかの。」




 外見はとても2歳には見えないが、そう言ってふくれて見せる様子は確かに子どものようだった。



「ケイトリン様、綺麗ですね。光の花だ。妖精たちが咲かせてるんだね。」

「うむ。いきなりキュンキュンだなんだと言って咲かせよった。何がしたいのかさっぱり分からぬ。」

「キュンキュン・・・なんでしょうね。」




 先ほどまで明るかったが、その花を見ているうちに、段々と夜の帳が降りてくる。


 辺りが暗くなるにつれて、光の花はどんどん増えていく。

 もう周り中が花だらけだ。



「綺麗ですね。」

「綺麗だの。」




 二人は一晩中その花の景色を楽しんだ後、また手を繋いで、魔界へ繋がる森までゆっくりと歩き始めた。










 *****







『女王様、キュンキュンです。』

『キュンキュンなのです。』

『今年はとってもキュンキュンだ。』




「ん?またあの魔人の子が来たのかえ?」




『違います。人間です。』

『魔人の子はもうずーっと来てないよ。』

『今日の人間はすっごいキュンキュンだね。』




「ずーっと来てない?そうだったかの。」




 何度送り返しても、またすぐ妖精の森に現れた魔人の子。

 確かに最近は見ていない気がする。

 いつからだったろうか。


 さすがの妖精の女王ですらも、懐かしく感じるぐらいの時間がいつの間にか経っていた。




『キュンキュンー私も行こ。』

『僕も。』




 魔人の子が湖に現れて3年目からは毎年見ていた光の花。

 いつから見ていなかったか。


 ふとまた見たい気分になって、妖精の女王は湖のほとりに向かう。



 どうやら『キュンキュン』の人間が何人かいるようで、レジーが来ていた時と同じぐらいの大量の光の花が咲いていた。




「ふむ。綺麗だの。」




 いつ見ても綺麗なはずの光の花。

 でも少しだけ物足りないような。

 繋いでいない手が寂しいような気がして。



 妖精の女王は首を傾げた。






これで第二章は終わりです。

二章はモモちゃん覚醒予定だったのでシアが活躍する予定でしたがあまり活躍させられなかった(;'∀')

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第二章完結おめでとうございます٩(*>▽<*)۶ [気になる点] パワーアップモモちゃんの全貌が今後詳しく出てくるのでしょうか。わくわくです。 [一言] きゅんきゅん!そりゃ好きになるやろ…
[一言] 辛い・・・みんなただ大切な人と一緒にいたり、大切な人の為に何かしてあげたいだけなのに、それらすべてが相容れることはないのが辛い・・・
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