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mission 37 対話

「長年の願いとは何ですか?」


狩られるのを待つ獲物のように、魔人の動きを待つしかなかったシア達の耳に、聞き慣れた落ち着いた声が流れ込んできた。

こんな時でもいつも通りな、思わず安心して気が抜けてしまいそうな声。


魔人はまさか話しかけられるとは思わなかったのか、キョトンとした顔をした。

まるで小さい子が初めての物を見つけた時のような。



「なぜ私たちがその願いの邪魔をすると思うのですか?もしかしたら、逆にお手伝いできるかもしれないですよ。」



セオだった。

いつも通りの冷静さで。

シアに何かを言い聞かす時のような声音で。


「え?ああ、そうか。話すよな、人間て。初めてだ。」


魔人も驚いている。


そうだ。話すんだ魔人は。

だったら対話できる。当たり前の事だ。

勝つか負けるかだけ考えていた。

邪魔だと言われたから、これから攻撃されるとしか――――



「私はセオと言います。あなたのお名前は?」

「レジーだ。」


魔人に名前が付く。

それだけで少しだけ恐怖が和らいだような気がする。


本能は相変わらず黒い魔力の塊を警戒し続けているが。


「良い名ですね。」

「大切な人が、付けてくれた。」


「大切な人とは?」

「それは・・・・お前面白いな。死なすのが惜しくなってしまいそうだ。」




穏やかな会話。微笑み。

でもドクンと心臓が鳴る。

やっぱり、私たちを殺すつもりなのか。


「あなたの願いと、その大切な人というのは関係があるんですか。」

「あるよ。」



レジーと名乗った魔人はあっさりと答えてくれた。


「あの弱ってきている闇の竜を、もうそのまま死なせたいんだ。生まれ変わらせることなく。お前たち、あの竜を浄化してやるつもりなんだろう?」



きっと私たちに事情を話そうがどうしようが困りもしなければ何の影響もないと思っているのだろう。

レジーの敵になるほどのものでもないと。


「あの竜が黒い魔力を吸い取るせいで、僕はこの世界にやってこれなくなった。もう何千年もだ。やっと弱ってきて、この辺りだけならなんとか来れるようになった。」



竜が黒い魔力を吸い取る前。

何千年も前、魔人はこの世界に自由に来ていた。


そんな話は初めて聞いた。

乙女ゲームにそんな設定あったのだろうか。



「もう何千年も、あの人に会えない。―――――だから死んでもらうよ。ゴメンな。」


セオにだけ、魔人は謝った。

他の人間のことはどうでも良いようだった。


ドンッ!!!



魔人の手から放たれた小さな黒い球がシア達のシールドに当たる。

シアとマリウスとセオが張った何重ものシールドが、音もなく消えていく。



しかし一枚一枚シールドに当たる度に、シールドが消えるたびに、ちょっとずつ、ほんの少しずつ勢いが消されていく。

ついにモモちゃんの張った最後の一枚のシールドが、辛うじてその攻撃を止めた。


――――モモちゃん、シールドの威力が上がってる!?


数日前までのモモちゃんのシールドに比べて明らかに威力が上がっている。

まさか、魔力を帯びた鉱石をいっぱい食べたから?


思い当たる節はそれしかない。



「うわ。まさか人間に止められるなんて。本当にすごいな君たち。でもさ、三人がかりで全力でそれ。無理だよ。」


魔人は特に、シア達に憎しみや恨みはないようだった。

対話のおかげか、少しの親しみさえ感じている様子だ。


でもただ邪魔だから排除する。それだけ。




バタンッ。


その時いきなり後ろで誰かが倒れる音がする。

思わずレジーから視線を離して後ろを振り返ると、レンが倒れていた。

ルーカスが受け止めて辛うじて地面に叩きつけられてはいないようだ。



「その子は闇だね。僕の魔力を吸い取りきれるわけがないのに。」


レンは、この魔人の魔力を吸い取ろうとしてくれていたらしい。



「大切な人とは!誰ですか。」

セオが声を張り上げる。

この状況でも会話を続けるのか。

いや、この状況だからこそか。


「うーん。別に言っても良いけど。・・・やっぱり教えない。ちょっと恥ずかしいから。」

「この世界の人なんですか?」

「いや、妖精界の人だよ。色んな世界が混ざるここでしか、その人に会えない。」


「その人の事が、好きなんですね。」

「うん。」



嬉しそうに、懐かしそうに、切なそうに、悲しそうに、魔人は笑った。


「それだけ好きな人と、何千年も会えないなんて、辛いですね。」

「・・・・・・・・うん。そうなんだ。」


それだけ大切で好きな人と、何千年も会えない辛さを、シアは知らない。

もし何千年ぶりにやっと闇の竜が弱ってもうすぐ会えるという時に、その闇の竜を浄化しようと頑張っている人間たちがいたら・・・・・・・・?



「ねえ、どうせ君たち人間は、放っておいても瞬きする間に死んでしまう。それが今でも良くないか?昔はこの世界は、妖精界の魔力と魔界の魔力が混じり合う世界だった。人間界から流されてきた君たちは、その数を減らしたり増やしたりしながら、それでもしぶとく生き抜いていた。それに戻るだけだ。あの闇の竜だって、もう解放されたいだろう。」



そう聞くと、この世界の理を曲げているのはあの闇の竜だという気すらしてくる。

あの闇の竜が不自然に黒い魔力を吸い取って。


でもそうしてもらわないと、人間たちはあっという間にその数を減らしてしまうことだろう。



「レジー、あなたに大切な人がいるように、私にも大切な人がいるんです。」

「あー、うん。何となくわかるよセオ。君の立ち位置で。そこの子だろう。・・・あとその子も、かな?似てるけど双子?兄妹?」



セオがレジーとの会話をつないでいる間に、シアとマリウスがシールドを張り直す。全力で。

レジーが言ったように、こんなこと何度も持つはずがない。

でも止める訳にはいかない。

止めた時が死ぬ時だ。



「・・・負けたよセオ。僕は段々君の事が好きになってきたみたいだ。分かった。じゃあ君と、そこの二人は助けてあげる。どうせ光の才能はないから。生かしておいても大丈夫。」




セオとシアとノアは生かしておいても良い。光の才能がないから。

その言葉に逆にほんの少しだけ希望の光が見える。


では光の才能を持つ者がいるんだ!この中に。




ドンッ!!!



また黒い塊が来た。

今度は少しコツを掴んで、黒い塊付近に集中してシールドを補強する。


今度はモモちゃんのシールドに到達する前に、マリウスとシアのシールドだけで止めることができた。


「この諦めの悪さはすごいな。そういえば人間ていうのは、とても脆くて弱いくせに、絶対に全滅しないでいつの間にか増えていくんだった。」



絶対に諦めない。


そう思いたいけれど、冷静な状況判断も必要だ。

あと一回。多くて二回。

止められるのはそこまでだ。


これまで様子をうかがっていた攻撃魔法担当に視線を向ける。


ルーカス、アラン王子、そしてウェスリー様は、シアの気持ちを正しく受け取ったようで、深く頷いてくれた。

防御が限界なら、攻撃するしかない。



「この二人を見逃してくれるというのはありがたいです。都合の良い話で恐縮ですが・・・私の事は結構ですので。もしあなたに手も足も出なくて私たち全員が死んだ時、この二人のことだけは助けていただけますか?」


「いいよ。」

あっさりと、レジーが答えた。


「うん、分かった。分かるよ君の気持ち。すごい分かる。その二人ならどうせ生き残っても闇の竜を救うことはできない。グリフォンはそっちの子の精霊獣かな?きっと寿命で死ぬまでは、その二人は守られて無事に暮らしていけるだろう。それでいいね?セオ。」


「はい。」

「セオ!?」


良くない。

良いはずがない。

私とノアだけ生き残っても、あなたが、あなたたちが死んだら――――



「よし、話はまとまったな。じゃあやるか。」

アラン王子が前に出る。

続いてウェスリー様。

レンを後ろにそっと寝かして置いてきたルーカスも。



「後悔するなよ?魔人。こいつら二人、見た目に騙されるけど、この中で一番やっかいなやつらだからな。生き残ったら絶対になんとかするぞ。」

アラン王子が言う。


「ははは。その二人がこの中で一番才能がないよ。大丈夫。」




「見る目がないな。ほんの少しの時間一緒にいただけの私でも分かる。事情は全く分からないが、この二人がいれば、後は何とかなるだろう。」

オリハルコンの剣に手を掛けるウェスリー様。

出会ったばかりだと言うのに、アラン王子よりも私たちを後ろに回す。



「まあ俺は元々、この二人が無事ならなんでも良いんで。」


そう言ったのはルーカスだった。


「ルーカス!」

「良いから下がってろノア。」




「それでは出来る限りのことをやってみますか。」


最後にそう言ったのはセオで―――――


言うと同時に、その手にずっと握り締めていたオリハルコンの塊を、モモちゃんのほうに放り投げた。


キュイッ!


オリハルコンを見事空中でキャッチしたモモちゃんは、美味しそうにバリバリとそれをかみ砕く。






眩い光が、モモちゃんを中心に広がり、シアたち全員を包み込んだ。








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― 新着の感想 ―
[一言] 闇の竜が悪い存在でないなら何と戦っていたのか、奴がその答えですか ちゃんとストーリー追っていれば対策できたろうに・・・
[気になる点] モモちゃん!?
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