mission 35 演習
「えー、ゴホン。さて、では誰から挑戦する?」
悪いが全員に誓約魔法を掛けさせてもらい終えると、気持ちを切り替えるようにウェスリー様が声を張る。
そういえば、魔獣を10匹倒す演習にきていたのだわ。
いけないいけない。授業中だ。
「じゃあ私行きます!」
狭いギュウギュウ詰めのシールドに参っていたシアは、他の誰かが名乗り出る前にとさっさとシールドの外へ出てしまう。
心なしか皆「ヤラレタ!」という表情をしている気がする。
「あ!おい勝手に出るな危険・・・。」
言いかけたウェスリー様のセリフが途中で止まる。
シアが一瞬で張ったシールドを見て。
今まで狭かった分、一人分にしては広々としたスペースのシールドを張る。
はあー、落ち着く。
「・・・君は確か水魔法が得意だったな。素晴らしいシールドだ。良いだろう、そのまま続けたまえ。」
良かったお許しが出た。
ちょうど良く魔獣達が群がってきている。
先日成功したウォーターカッターを使おうか。
うーん、でもあれすごい珍しいから。
魔術師さん達に騒がれたら後が面倒くさい。
あとレンから雇い主に伝わっても増々目を付けられるだろう。
仕方ない。あまり気はすすまないけれど。
大きな水の球を作り、比較的小さめな魔獣を狙って体ごと閉じ込める。
―――頭部だけ水で包んで窒息させても良いけれど、それだと体が暴れて大変なのだ。
水球に包まれた魔獣達は水の中でしばらくバタバタと暴れ、そのうち動きを止めた。
・・・ミッションクリア。
「・・・良いだろう。次は誰だ。」
「ああ、じゃあ俺が。」
シアと同じく狭いシールドに不満そうな顔をしていたアラン王子が返事も待たずにさっさと出てくる。
今度は出し抜いたというよりも、皆一応王子に先を譲ったのだろう。
シアはシールドに戻らず、自分のシールドに入ったままだったが、ウェスリーは何も言わなかった。
「アラン王子は確か火魔法だったな。魔術師がいつでもシールドを張れるように付いて行くので少し待っ・・・・・・・。」
チュド―――――――――ン!!!!!
ウェスリーが言い終わる前に、アラン王子の攻撃魔法が、前方の魔獣達を薙ぎ払う。
元々異常に強かったけど。一緒にミッションをこなすようになってから更にものすごいレベルアップした攻撃魔法。
すでにルーカスと並ぶほど。
・・・いやもうルーカスを越えてるかも。
本当に、こっちは子どもの頃からコツコツと少しずつレベルを上げているというのにイヤになってしまう。
この才能の塊め。
「ん?何か言ったか。ウェスリー副長。」
「い、いや。・・・・・何匹倒した?」
「えー、12匹ほどですね。」
「お、じゃあクリアだな。」
どうやって数えていたのか、マリウスが答えた。
戻ってきたアラン王子は、魔術師さん達の張っているシールドではなく、シアの方のシールドに寄って来てコンコンとノックするような仕草をする。
仕方がないのでシールドを広げて入れてあげる。
「・・・・・・で、では次の者。」
「では私が行っても良いですか。」
マリウスがそう言うと、また返事も待たずに外へ出てしまう。
そりゃあ残りの生徒の中では侯爵家子息のマリウスが一番爵位が上だけど。
いつもアラン王子始め結構皆のフォローに回ってくれるマリウスが、こうやって出し抜くような真似をするのは珍しい。
まあ真っ先に抜け駆けしたシアが言えることではない。
・・・実はシアが言い出さなくとも、皆どうせレディーファーストで譲ってくれただろうけど。
マリウスはどうするのかな。
やっぱり窒息?
先ほどのアラン王子の攻撃のせいで、群がっていた魔獣達が、我先にと散り散りになって逃げ始めている。
これは順番が後ろになればなるほど10匹倒す事が難しくなっていくかもしれない。
そう考えながらマリウスに注目していると、逃げ出した魔獣達の前に突如として水の壁が現れて逃げ道を阻む。
壁にぶつかってはじき返され転がる魔獣達。
更に後ろから次々と後続の魔獣がやってきて、ぶつかるは踏みつぶし合うはでもう大混乱だ。
そうやって集まった魔獣達を、大きな一つの水の塊が一気に包み込む。
包み込んだかと思うと、一瞬で小さく収縮して、魔獣達をつぶして圧死させてしまった。
すごい!逃げようとする魔獣を集めてくれたんだ。
「・・・・・・・・・・・次。」
段々と言葉少なくなっていくウェスリー。
「ノア、先行くか?」
「私は魔獣が散らばってても倒せるから。集まっているうちにルーカス行って来たら?」
「ありがと、じゃあお言葉に甘えて。マリウス様もありがとうございます!!」
シアのシールドに合流したマリウスが、ルーカスの言葉に軽く手を上げて応える。
―――――――バアァァァンン!!!!
マリウスの作り出した混乱が収まらない魔獣達の塊に、ルーカスの情け容赦ない攻撃が襲う。
シアにも分かる。
確実に10匹以上いた。
もうすでに影も形もないけれど。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ついに何も言わなくなったウェスリー様。
「君、先にやる?」
下級生のレンにノアが聞く。
レンは無言で首を横に振る。
その様子を見たノアが、シールドの外に出る。
マリウスの順番が終わった時、既に水の壁は消えている。
壁がなくなっていることに気づき始めた魔獣達が、再びヨタヨタと逃げ始める。
スパン!スパンスパン!!
散り散りになってようやく地獄から逃げ出せたはずの魔獣達を、無情にも一匹ずつ丁寧に追尾する風の刃。
ノアお得意の超高精度風の刃だ。
年々その繊細なコントロールの精度が上がってきている。
ウェスリー様の剣舞も見事だったけど、この風の刃の舞も何度見ても惚れ惚れとする。
あっという間に10個の首が地面に落ちた。
なんかもう、魔獣達が可哀そうになってくる。
残った魔獣は、混乱しているのか、何もできずにその場にボケーっと突っ立っているだけだ。
当然のようにシア達のいるシールドに帰ってくるルーカスとノア。
最後に、レンが無言でシールド外へ歩み出た。
そうして相変わらず感情の読めない無表情で手を前に突き出すと。
残り少なくなった魔獣達はパタリパタリと倒れていき、見る見るうちに干からびて動かなくなった。
そうして見渡す限り、動く物はなくなった。