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mission 34 風の魔剣士

晴天なり。


本日はなんと、学年に拘らず学園のごく一部の生徒で、魔獣の縄張りに魔獣狩りの演習に来ていた。


一部の生徒とは具体的に言えば、アラン王子にマリウス。ノアにルーカスにシア。

そして―――転校生の闇の魔術の使い手、レンである。


なぜよりによってこのメンバーかと言えば、魔獣狩りの演習なんて危ないもの、学園が実力を認めた一部の者しか参加できないからである!!!



というかこの実習は乙女ゲームにもある由緒正しい(?)学園イベントなのだ。


『実力で選ばれたメンバー』


その都合の良い一言で、何百人といるはずの生徒の中から攻略対象と主人公だけが選ばれて魔獣狩りへ行くというご都合主義が実現する。


―――まあ今は主人公いないけど。あと私たち攻略対象でもないけど。





そしてこの実習の特別講師としてやってくるのは、皆さんお分かりですね?


ってああ、誰も分かるわけないわね。


このイベントの講師として初登場する人物と言えば、ハルセカやっている人なら誰もが知っている。

それこそ数野すみれすら知っているほど有名なものですから。


その人物とは・・・・・。



「近衛騎士団副長のウェスリー・ロッドだ。本日はよろしく。」


風の魔剣士、ウェスリー様!


ストイック!大人の魅力!カッコいー(キラキラ)


ゲーム開始時で確か27か28、だったかしら。

キーン様とどっちがどっちだっけ。


という事は、今は22か23歳のはず。


すっかり12歳の感性になっているシアにとって、大分年上のお兄さんに感じてしまう。

ゲームでは団長だったけど、この時まだ副長なのね。


騎士らしく短く切りそろえた髪は少しくせ毛なのかツンツンしている。

いかにも真面目に職務を忠実にこなしていると言う感じで、女性に対して見向きもしない。


それが逆に格好良い。



前世のゲームでは攻略対象放置だったすみれだが、それは王都の学園に入学しなければほとんどの攻略対象と出会う事すら難しいからだった。


平民の主人公では社交界に出る事もないし、暗殺者も狙ってくれない。


しかしやたら自由度の高かった『ハルセカ』は、学園に入学しなくても十分にその世界を楽しめてしまったため、攻略者の誰一人と出会うことなく乙女ゲームを満喫できるという不思議な現象が起きていた。



でもさすがにゲームのメインストーリーである闇の竜ミッションには攻略対象を連れて行くしかないとなった時、一番に連れて行きたいと思っていたのがこのウェスリー様だ。

あ、あとシールド要員としてマリウスもね。



ウェスリー様を連れて行きたいと思ったその理由とは・・・。


「君たちはとても優秀だと聞いているので、今日は中級魔獣の巣に連れてきた。一人につき10匹、倒してもらう。単独行動は非常に危険なので、騎士が見守る中一人ずつ順番にやって見せてもらう。危険だと判断したら私や他の騎士がすぐに助けに入るので安心するように。出番以外の者達は、王宮魔術師達の張っているシールド内に固まって、決して外には出るなよ。」



うんうん。

なにせメンバーには王子様もいるからね。

それくらいの安全対策は当然のことだろう。


さきほどから貫禄のあるローブを羽織った魔術師さん達がシア達学生のためにシールドを張ってくれている。

五人来ていて、交代で常に三人ずつがシールドを張ってくれているようだ。


でも―――狭い!

狭いわ!


このシールド狭い!

シア達学園の生徒と、騎士と魔術師達がギュウギュウに詰めなければならないほど狭い。


さり気なくノアやルーカスがシアの側に立ってスペースを確保してくれているけれど。


しかも気配は遮断できないのか、好戦的なタイプの魔獣達がシールドの外に群がってきてしまってうっとうしい。

自分でシールド張っちゃだめかしら。




「それではまず始めに私がやってみせよう。」


そう言うと、ウェスリー様は一人シールドの外へと歩み出た。


そして腰に差した剣を鞘から抜き出し両手で上段に構える。



―――ウェスリー様をミッションに連れて行きたいと思ったその理由。


やっぱりコレ!ファンタジーと言えば剣と魔法の世界でしょう。

剣!冒険には剣が必要なのよ。

ビジュアル的に。


遥かな世界のゲームでは魔法が強すぎて便利すぎて、レベルを上げていくとそもそも接近戦になることすらもほとんどなくなる。

ゲームを始めて最初のうちは物珍しさから剣を買ったり、珍しい剣が手に入るミッションをするのだけど、そのうち誰もが使わなくなってしまうのだ。



それはこちらの世界に転生してからも同じことだった。

騎士団もあるし剣士も剣を持つ冒険者も沢山いるけれども、魔力量が多い者はほとんどが剣を持っていない。

重い剣をぶら下げていてもどうせ使わないからだ。


そんな中、世にも珍しい魔法を纏うことのできるオリハルコンの剣を持っているウェスリー様は、ストイックに剣を使い続けているのよ。

ロッド家に代々伝わる伝説の剣だ。


ウェスリー様の得意魔法属性は風。

風と言えば刃との相性は抜群だ。


ただでさえ随一の切れ味を誇るオリハルコンの剣に、更に風の刃を纏わせる。


そして魔獣たちの群れに飛び込んでいくと、まるで野生動物のようにしなやかに美しく舞った。


剣の刃先に触れた魔獣の首が、全く抵抗なく落ちていく。

音すらしない。

触れた瞬間切れている。ほとんど血も飛び散らない。


その動きは、そこに魔獣などいないのかと錯覚すらするほどだった。



「すごい。格好いいな。」

ノアの興奮した声が聞こえた。

きっと同じ風魔法の使い手として、憧れるものがあるのだろう。



そう思って顔を見上げると、ノアに限らずルーカスもアラン王子も、マリウスすらも、キラキラした目でウェスリー様を食い入るように見つめているではないか。


やっぱり男子って剣とか好きなのねー。



「ノア。オリハルコンの剣、いる?」

「え!いる?って。あるの?」

「うん多分。オリハルコンが取れる場所分かると思うよ。」


何を隠そう、すみれが前世のゲームで荒稼ぎできたのは、オリハルコンの鉱脈で一山当てたおかげだった。

ゲームが進むにつれてどんどん増えて押し流されていくミッションの中、大分レベルが上がってきた時に今更感満載で現れた☆1の胡散臭い投資話が気になって。


頭ボサボサの小汚いオッサンが「絶対もうかる!時間がないんだ頼むから信じて金を俺に預けてくれ!」などと言ってくる。


明らかな詐欺。

それにネタ気分で投資してしまったのだ。


ちなみにその投資話、メチャクチャ高かった。

1000万リル。

当時のすみれの全財産でギリギリの値段だった。


ぶっちゃけ寝不足の頭で値段を見ないで投資した。

まさか☆1ミッションで財産根こそぎ持っていかれるとは、夢にも思わなかったのだ。


残金が2000リルほどになったことに気が付いたすみれは本気でゲーム会社にクレームを送ろうかと考えた。

ゲームが好きすぎて、万が一にも運営を怒らせてアカウント凍結されたりしたら死ぬので思いとどまったけれど。


お金を受け取った怪しいオジサンはあっという間に消えていなくなった。


そしてしばらくは何も起こらなかった。


完全に騙されたと思ったすみれは絶望した。


ネットで情報を集めようとしたけれど、どうやらそのミッションはほんの数分しか表示されなかったものらしい。

ほとんどの人が気が付きすらせず、気が付いた少数が、一瞬こんなミッションあった気がするけど気のせい?などとコメントを残すのみだった。



そしてきっかり一か月後、オジサンはやってきた。

お礼に大金を携えて。


服装に気を遣わないオジサンは、実は高名な考古学者だった。

長年現場に自ら足を運び、あらゆる場所の石を持ち帰って分析・研究するうちに、必ずオリハルコンがあると確信した場所。

その土地の権利を買い取りたい。

今なら領主が売ってくれると言っている。

その為の資金だったらしい。


焦っていたのでゆっくり説明できなくて悪かったねと。(そんなことある?)


そのミッションにすみれの他に投資した者がいたのかどうかは分からない。

しかし運営発表のユーザー資産家ランキングの2位まで一気にすみれが躍り出たところを見ると、きっといなかったのだろう。

チャンスの女神には前髪しかないのである。



ちなみにそのオリハルコンの採れる場所とは、なんと闇の竜の渓谷のごく近く。

つまりイーストランドの領地の中。

自由に採り放題だ。


「今度一緒に採りに行く?オリハルコン。」

「行く!絶対行く!」


最近はすっかり大人っぽくなり頼りになるお兄ちゃんという感じだったノアが、小さな子供に戻ったかのように嬉しそうに頬を染めている。

前世で怪しいオジサンに投資しておいて良かった。


「お、俺も行っても良いですか?」

ルーカスが遠慮がちに名乗り出る。


「もちろんだよ。いつも通り、一緒に行こ。」

何年も一緒にミッションに行った仲間だ。

言われなくても一緒に行くつもりだった。


「私も一緒に行きたいです。お願いします。」

「お、俺も!頼む!金なら払う!」

「そんな。別にオリハルコンいっぱいあるのでお金とかいらないですよ。労働で返してください。」


いつになく素直に頼んでくるマリウスとアラン王子。

もちろんこの二人も常日頃ミッションに協力してもらっているのだから、来たいというなら大歓迎だ。

結局ミッションメンバーのほとんどで行くことになりそうだな。



そう思っていた時。


「私も行っても良いだろうか。」


一瞬誰だろうと、声のした方向を見ると、そこにいたのはとっくに魔獣10匹を倒し終えていつの間にか戻ってきていたウェスリー様だった。

めちゃくちゃ真剣な表情で食いついてきている。


「あ、はい是非。」


攻略対象は貴重な戦力。

恩を売っておいて損はない。

というか、これを機にお近づきに・・・・。



「・・・・・僕も。」


・・・すっかり存在を忘れかけていた人物の小さな声。

闇の暗殺者レン。


そうよね。雇い主に私たちに近づくように言われているんだろうから、そりゃこんなチャンスに付いてくるに決まっているわよね。


好感度を上げておきたいこちらとしても、断る理由はない。


しかし問題が一つ。

暗殺者組織や雇い主(多分第一王子派の誰か?)にオリハルコンの情報を漏らされてしまっては困る。


「・・・・沈黙の誓約魔法を掛けさせてもらっても良いかしら。」


掛けた本人が指定した人物以外の前で、指定した情報を漏らせなくなる誓約魔法。



そういえば防音もしないで勝手に話したこっちが悪いんだけど、一緒に来ていた魔術師さんや騎士さん達にも、オリハルコンの事は他言無用の魔法を掛けさせてもらった。


ゴメン!






****恋愛パートに全く興味がなかった数野すみれが読むはずのなかった『遥かな世界』キャラクターファンブックより****


《風の魔剣士 ウェスリー・ロッド》

茶髪に碧眼。風魔法使い。攻撃型。

【攻略ポイント】近衛騎士団の団長で伯爵家出身。先祖代々伝わるオリハルコンの宝剣を持つ魔剣士。剣に風魔法を纏わせて戦うスタイル。

部下には厳しく職務に忠実でストイック。女性に興味はなさげ。しかし好きになった相手の事は溺愛する。学園の特別演習の講師としてやってくる。真面目に演習に取り組む姿を見せると自然と好感度は上がっていく。


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[気になる点] これで攻略対象全員揃いましたか 物語はここからはじまる!のか?
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