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mission 23 王宮図書室

「す、すごいわ。さすが王宮の図書室。」


 その景色は正に壮観だった。

 見渡す限りの本、本、本。


 その本が収められている棚も、自然の木目を生かしたセンスある無垢材で出来ており、長い年月が生み出す色味の深さが重厚感を醸し出している。

 きっと何百年も前の棚や資料もあるのだろう。


 入り口からは部屋の全貌が見えないほどに広い。



「そうか?俺にしてみたら図書室といったらこれだからな。良く分からん。」



 今日はアラン王子に頼んで、皆で王宮の図書室にお邪魔していた。

 セオ曰く、王宮の図書室であればカトレア王国の創成期からのほぼ全ての本が所蔵されているらしい。

『プレイヤー』の事が直接的に書かれた本は恐らくおいそれと読めないようになっているだろうが、それでも長い歴史の中、『プレイヤー』と思われる人物を描いた記述や、もしかしたら『プレイヤー』にしか分からないメッセージが数多くあるだろうとのことだ。


「趣味で歴史書を読み漁っているだけの私のような者ですら、その違和感は分かるようになりましたから。」


 とのことだ。


 歴史書や、その時代その時代の言い伝え、文学作品などに、この世界の理から外れた行動をとる人物の描写が出てくる。

 そのような人物は、物語を書いている人物、時代、地域が全く異なるにも関わらず、似たような共通した行動を取っている。


 まるで同じ習慣を持った同じ民族のようだと。



 この王宮の図書室にくれば、長い歴史の中に現れたであろう『プレイヤー』のこと、『光の勇者』『光の聖女』のこと、そして『闇の竜』『黒い魔力』への対抗策が見つかるかもしれない。


 いえ、きっと見つかる。


 そう思って、アラン王子にお願いして連れてきてもらったのだ。



「それで?あれだけ俺たちを避けてくれていたのに、急に王宮の図書室に案内しろというからには、何か理由があるんだろ?」

「・・・静かな部屋をお借りできますか?」


 その理由を聞くまで絶対に帰さないとばかりのアラン王子。

 だが聞かれるまでもなく、今日はアラン王子とマリウスを、ミッション仲間に引きずり込む気まんまんで来ていた。









 話は図書室の奥の閲覧室のうちの1つにシールドを張って行われた。

 情報遮断に特化しているセオとクロエのシールドだ。

 このシールドを破れる者はいないだろうし、破られたらすぐに分かる。

 ―――もしかしたら、S級の伝説精霊獣、ギャビンには破れるかもしれないけれど。




「転生者・・・・・シアが。」


 一通りの説明が終わると、アラン王子がしみじみとつぶやいた。


「荒唐無稽な話だが、不思議と納得できるな。お前たちの魔法はそうでもないと逆に説明がつかない。」

「それに、ミッションクリアによる魔力量の上昇とやらに心当たりがありますね。以前一緒に魔獣狩りをした時に。・・・もしかして、鎧アリゲイル5匹を退治するといったミッションがありますか?」

「あ、そうそう。鎧アリゲイル5匹倒すミッションは、いつでもあって、いつやっても良いミッションなんだ。あれ、でもミッションクリア!って思わないと魔力量上がらないはずなんですけど。もしかして心の中で、『よし!5匹クリアだぜ!』とか思ってました?」



「・・・・・・・・・・・・。」

 無言でアラン王子の方を見つめるマリウス。視線を逸らすアラン王子。


 うん、大体分かった。



「シールドを張っていただけの私の魔力量も上がるんですか?」

「協力してこなしたミッションは、参加した全員の魔力量があがるよ。」

「・・・そうですか。」



「も・・・問題は、5年後から始まる闇の竜にとりつく黒い靄ということだな!」

 アラン王子が一番の懸念事項について、切り込んできた。

 何故か少し動揺している様子だけど。


「黒い靄というのは、シア達の話からいってもこの世界に必ず生まれる清浄な魔力の正反対の汚れた魔力で間違いないですね。」


「そんなものがあるんですか?必ず生まれるのであれば、逆に何故今まで見たことがなかったんでしょう。」


 セオがマリウスに質問する。

 この二人はなんだか気が合いそうだ。


「この世に大量の魔力が生まれるように、同じだけ生れているはずの大量の汚れた黒い魔力。それを吸い取ってくれている存在があるんです。あまりこの情報は知られていませんが。」

「黒い魔力を吸い取ってくれている存在。」


「それが闇の竜ですね。」


 闇の竜が、汚れたあの黒い魔力を吸い取ってくれる存在。

 そんな情報は初めて聞いた。

 乙女ゲームでもそんな説明はされていなかった。


「ちなみにこの情報は、国家の重要機密扱いだからな。誰にも言うなよ。」

 とはアラン王子。

「どうしてこの情報が国家機密なんですか?」


 シアが聞いた。

 秘密にしろと言われればもちろん秘密にするけれど、その理由も知っていた方が、うっかり誰かに話してしまうという事を防げるだろう。



「まずなぜ闇の竜がそこまでしてこの世界を助けてくれているのか不明なんだ。いつでも妖精界に移動できるだろうに。一匹で東の山岳地帯に籠って常に黒い魔力を吸い取り続けてくれている。もしもこの情報が他国に漏れでもしたら、魔力に満ち溢れるカトレア王国の地・・・半島を狙う国々が闇の竜を狙う可能性がある。・・・闇の竜が黒い魔力を吸い取ってくれなければ、滅びるのはカトレア王国だけでなく世界全部だというのにな。歴史上そういう事もあったらしい。」


 そうだ。この世界の竜はS級の精霊獣に分類される。

 その精霊獣が、なぜ人間界に留まって、黒い魔力を吸い続けてくれているのか。



「あのぅ、闇の竜って、何千年も生きているんですよね?何千年も、一人で黒い魔力を吸い取り続けてくれているのかしら?」



 それはカトレア王国の歴史書には、必ず書かれている事だ。

 東の山岳には、何千年も前から闇の竜が住み着いていると。

 実際に一番古い歴史書にも、闇の竜らしき記述があるらしい。

 といっても、一番古い歴史書であってもせいぜい2000年前くらいまでなのだけれど。

 しかしいくらなんでも、何千年も一人で?

 歴史書は2000年前までのものしかないのに、何千年というのはどうして分かるの?


「それも国家機密なんだがな。実は闇の竜はずっと同じ個体なのではなく、大体1000年弱くらいの周期で生まれ変わっているらしい。」

「生まれ変わり。」

「前の竜が年を取って、新しく生まれた次の竜に引き継ぐという事だな。これも新しく生まれた竜が小さいうちに、他国に攫われでもすれば大変な事になる。絶対に、誰にも言うなよ。親兄弟でもだ。」



「はい。」

 王家は代々その情報を秘匿しながら受け継いできたのか。

 まだ13歳とはいえ、アラン王子も王家の一員。

 早くもその情報を知らされていても不思議ではない。

 それにしても・・・・。


「でもなぜマリウスも知っているんですか?」

「あー、まあ良いんだよこいつは。どうせ俺の側近になるから。」


 とのことだ。




「あとこれが一番の秘密なんだけどな。正直まだ俺も父上から話されていないほどだ。・・・今の闇の竜は、すでに900年以上生きている。今まで1000歳を超えた竜はいない。600~700歳で死んだ竜も多いらしい。つまり、今の竜はすでに寿命を迎えようとしている。」


「・・・・・・・・え、話されていないのに何故知っているんですか。」

「王の子であれば12歳から入れる禁書庫がある。そこで勝手に読んだ。禁書庫に入れる身分で、興味があって読む分には情報を与えても良いという事だろう。逆に読まない者には、王位継承でもしない限り、知らされないのかもしれない。・・・いや、知らない者が王位に就けるかどうかは分からんが。」


「アラン王子は禁書庫の本を読んでいるんですね。すごい。」

「王子にしか読めない国家機密の宝庫だぞ。読んでみたくもなるだろう。まだ何分の一かしか読めていないが。・・・・ちなみに暇があれば入り浸っているが、禁書庫で兄上達に会ったことは一度もないな。」



 ああ、この人が次の王様なんだな。

 シアは・・・この場にいた誰もが思った。


 次代の王となる自覚があるんだ。

 この俺様王子には。



「・・・では、5年後に黒い魔力が溢れ出てくるというのは。」

「闇の竜が、吸い取り切れなくなるのかもしれない。つまり、もう限界なんだろう。」

「じゃあ今回深緑の森に溢れてきた黒い魔力は・・・。」

「吸い取る力が既に弱ってきている・・・・のかもな。」

「そんな・・・・・。」


 そうとは知らず、溢れ出てくる黒い魔力の流れに蓋をして、追い返してしまった。

 でもそれをしなければ、靄はどんどん広がって、世界滅亡とまではいかなくても、広大な地域が汚れた魔力に飲み込まれてしまったかもしれない。



「今、俺たちに出来る事を考えよう。まず王宮の図書室で役に立つ情報を探すのは有効だ。俺は禁書庫の本から探すから、お前らは手分けして図書室の本を読んでいけ。禁書以外にも貴重な資料は一杯ある。時代によって禁書に指定されなかっただけの禁書級の本だってあるだろう。俺が自由に出入り出来る許可証を出す。少し待ってろ。」

「ありがとうございます!」

 王宮図書室のフリーパスと聞いて、マリウスやセオが嬉しそうだ。



「それと並行して、やっぱり全員が光の魔術の特訓が必要だな。得意な系統でないなりに、誰がどの程度使えるようになるか分からないから。やってみるしかないだろう。あとは全体的な魔力量の底上げとして、ミッションをどんどんこなしていく。・・・もちろん俺たちも連れていくよな?」

「当然よ。もう嫌がっても連れていくつもりだったので。」


「望むところだ。あとは・・・・ノア、お前が契約したと言う精霊獣と話すことはできるか?」

「ええはい。ギャビン、おいで。」


 ノアの呼び声に、精霊獣が移転する時特有の光の球が現れる。

 契約者に呼ばれれば、精霊獣はシールドの中だろうがなんだろうが入ってくることができる。

 ギャビンが本気になれば、シールドを破って入ってくることも可能だろうけど。



『ノア!ノアご用事終わったか?終わった?』


 あの巨大なグリフォンが出てきたらどうしようと一瞬思ったけれど、現れたのは鷲の姿の方のギャビンだった。

 こちらの姿にも自由になることが出来るのか。

 では乙女ゲームで鷲の精霊獣と契約していたプレイヤーの中には、実はグリフォンと契約していた人もいたのだろうか。

 ・・・・・ずっと鷲だと思ってグリフォンだと気が付かない人もいたんだったりして。



「ギャビン。来てくれてありがとう。ギャビンに紹介したい人がいるんだ。」

『誰?シア知ってる。セオとルーカスも知ってる。』


「こちらはアラン王子。この国の王子様だよ。こっちはマリウス。水の魔法が得意なんだ。」

『本当だ!人間にしては魔力が高い!ノアの方が高いけど。ノアの友達?』

「そうだよ。大切な友達だ。」


「よ・・・よろしくギャビン。アランだ。」

「私はマリウスです。よろしくお願いします。」


 ノアに大切な友達と言われて、嬉しいのかちょっと赤くなるアラン王子。

 本当にこの人考えている事丸わかりなんだけど大丈夫かしら。

 笑顔になるのが抑えきれないのか、口の端がピクピクしている。



「ギャビン。聞きたいことがあるんだが、君は汚れた黒い魔力を浄化する事はできるか?」

『無理。ギャビンの魔力で浄化出来ない。跳ね返す事は出来る。』


 それは既にシア達がギャビンから聞き出していた事だった。

 S級の実力をもつギャビンだけど、魔力の質が浄化に向いていないのではどうしようもない。


『黒い魔力が溢れても、ノア達が住むところはギャビンが守るよ。』

「・・・どのくらい守れる?」

『ノアが死ぬまでずっと。ノアの家の領地くらいなら。』

「イーストランドの領地だけか・・・・・。」


 イーストランドの領地は、辺境なのでだだっ広い。

 もしかしたら、カトレア王国の人たち全員が領地に避難することが可能かもしれない。

 でもそれも、ノアが死ぬまでの数十年の延命に過ぎない。



「ギャビン、光の勇者か聖女について知っているか?」

『光の勇者??聖女??なにそれ。』

「ギャビンは気が付いたら人間界にいたようで。まだ若いし何も知らないみたいなんです。」

「・・・そうか。」


 精霊獣の中には何百年も生きていて、色んな知識を持つ者もいるらしい。

 しかしギャビンは若い上に気が付けば親とはぐれていたそうで、人間界どころか妖精界の事すら何も知らない。

 クロエとモモちゃんに案内されて、最近やっと妖精界への行き方を覚えたくらいだ。



「では今からやる事としては、資料を探す。光魔法を特訓する。魔力量全体を底上げする。・・・もしもの時の避難の準備をする。こんなところか?」


「あともう一つ。光の勇者と光の聖女を探しましょう。もし勇者か聖女が見つかって、レベルを上げることができれば、このミッションは簡単に解決するはずよ。」

「・・・なるほど。ではそういう事で。ミッションは全員が参加できなくても、シアが出来る日は行けるメンバーだけでもどんどんこなすぞ。」




「「「「「はい!」」」」」







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[良い点] 新章の始まり、ワクワクします〜! [一言] 王子、一度懐に入れた相手にはガバガバなんでしょうか。かわいいです(´▽`)
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