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mission 21 出会い

「酷いな。」

 呟いたのは誰だったか。


 森は完全に黒いモヤに覆われていた。

 念には念を入れて、シアとモモちゃんで二重のシールドを張った。

 魔力も何も全て遮断しているはずが、重くドロドロと何かに圧される気がして息苦しい。


 動く物は何もない。

 風も止まっているし、生き物も全く見かけない。


 慎重に歩みを進めていく。


 ところどころに、生き物の死骸が転がっている。

 お互いを守るかのように寄り集まって、そして冷たく固まっている小動物を見て、心は痛んだが先に進む。


 鷲の雛らしき亡骸も、ポツポツと見かけた。

 でも、大半の動物は動けるうちに逃げたようで、数はそれほど多くはない。



 きっと素晴らしい森だったのだろう。

 散らばった落ち葉と枯れた草花を見てそう思う。

 枯れる前の素晴らしい森を見てみたかった。




 キュッキュッキュ!

 キュイッ!!


 その時、クンクンと警戒しながら進んでいたモモちゃんとクロエが騒ぎ出す。


「どうしたの?」


 伝説級のS級精霊獣でもなければ言葉は話せないけれど、契約した精霊の気持ちは何となく伝わってくる。


「クロエ、何かいるのかい?」

「こっち!モモちゃんが行きたがっている。」



 二匹に案内されて山中をどんどん進んでいく。


 キュイッ!!


 モモちゃんが忠告するように鳴く。

「この先は切り立った崖になっているみたい。気を付けてだって。」



「ここは鷲の生息域だな。」

 地に落ちて転がっている大量の巣を見て、眉を顰めながらノアが言った。


 クロエとモモちゃんは、今は何かを探すかのように周囲の匂いを嗅ぎながら、ゆっくりと進んでいた。



「なあ、あれは?」

 ルーカスが指さす方を見る。

 真っ黒な靄に覆われた何かが、そこに落ちていた。

 黒くて大きい塊の中に、ほんの時折白い部分も覗いている。



「・・・黒い魔力に完全に覆われてしまっていますね。」

 こうなってしまってはセオにも正体が分からないようだ。

 慎重にシールド毎移動して近づいていく。



「これは・・・・・鷲!?」

 塊をシールドの中に取り込むと、どうやら巨大な生き物だったようだ。

 翼を広げれば1m以上はありそうだ。

 もう生きてはいないだろうが・・・・。


 いや。


「生きている・・・・。」

 ノアが呟いた。


「えっ。」

 シアは生きている事がとても信じられず、思わず疑うような声を発してしまった。


「少しだけど、風の魔力を感じる。ただの鷲じゃない。精霊獣だ。」

「そんな・・・。」


 鷲と言えば、かなり高位の精霊獣だ。

 それがなぜこんな事になっているのか。

 いつでも妖精界に逃げられるだろうに。


「シア頼む。回復を。」

「うん!」


 慌てて水の魔法で回復をかける。

 やらないよりはマシかと、光の浄化魔法も掛けてみるが、悲しいほどに変化が見られなかった。


 少しずつ回復はしているようだが、黒い靄はどうしようもない。



 グ・・・・・グァ・・・・・


「危ない!」

 少し呻いたかと思ったら、手をかざすシアを追い払うかのように翼バタつかせた精霊獣。

 すかさずセオが間に入ってシアをその背に隠した。

 まだ元気がないおかげで、嘴や鉤爪があたらなくて良かった。


 シールドの内側に入り込んでいる物からは普通に傷つけられてしまう。

 油断していた。



「動いちゃダメ!モモちゃんこの子に伝えて。体力が・・・・。」


 何とか動こうとする鷲の精霊獣を心配して、シアがモモちゃんに頼む。

 キュー!キュー!!


 モモちゃんとクロエが必死に訴えるが、鷲は混乱しているようで増々激しく暴れるだけだった。


 バサバサッバサッ


 どうしよう。どうしたら良いんだろう。

 今にも死んでしまいそうなのに。

 少し体力を回復させても、黒い靄がすぐにそのほんの少しの体力すら奪うだろう。



 どうしようもなく暴れる鷲を見つめるしかなかったその時、意外な行動に出た人物がいた。

 ノアだ。

 首にかけた風の魔石を、鎖を千切って手に持つと、鷲の後ろから近づいて抱き上げてしまう。

 素早い行動に止める間もない。

 前に回した腕に鉤爪が食い込んでいるが、ノアは気にせず抱きしめている。


「ノア・・・・痛いんじゃ。」

「・・・後で回復すれば良いから。風の魔石で魔力を補充すれば、きっと元気になると思う。」

 そう言いながら、ノアは自身の魔力も注いであげているようだった。








「地図によると、この近くに山小屋があるみたいです。移動しませんか。」

 ノアが風の魔力を注ぎ続け、鷲の精霊獣も諦めたのか、それとも力尽きたのか大人しくなってきた頃を見計らって、セオがそう提案した。

 ノアの腕には血が滲んでいる。


「ノア様とシア様は山小屋でその精霊獣と休んでいて下さい。私がルーカスと、森の探索を続けます。」

「うん。ありがとう。」





 幸いにも山小屋は綺麗に整備されていた。

 一つしかないベッドに、ノアが鷲の精霊獣を抱きしめたままお行儀悪く腰掛ける。

 シアも隣に座って、精霊獣とノアの二人に回復魔法をかけ続けた。



 モモちゃんを連れたセオとルーカスが探索に向かっても、二人はずっと魔法をかけ続けた。
















 暗い暗い世界に一体どのくらいの時間いたのだろうか。

 もう意識が戻る事はないと思っていた生き物―――鷲の精霊獣は、自分が目覚めたことに驚いていた。

 二度と目覚める事はないと思っていた。

 暖かい光が注ぎ込まれ、安心感に包まれる。



 苦しさに暴れても、その爪が食い込んでも、その暖かな何かは生き物を包み込むことを止めなかった。

 生き物は、その生を受けてから、このような暖かさに包まれた記憶がなかった。

 暖かさの正体が知りたくて、まだ重い瞼を無理やり持ち上げる。


 そこにいたのは人間だった。

 あの二足歩行の魔力の乏しい動物。


 でもこの人間には、生き物の好きな風の魔力が満ち溢れていた。

 キラキラと輝く金の毛が、太陽のようだと思った。

 緑がかった水色の瞳は深くて広い湖のようだった。

 大好きなそれらの色に包まれて、生き物は安心してまた目を閉じた。




 今度また目が覚めた時には、その色をまた見られるような、そんな予感に包まれながら。


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