mission 16 再会
シアとセオが追いついた時には、また既に魔獣は追い払われていた。
「こんにちはー。先ほどぶりです。」
モモちゃんの張ったシールドに囲まれて悔しそうな顔をしている二人に挨拶をする。
もっと嬉しそうな顔とか、申し訳なさそうな顔しても良いのよ?
ミッションをやる前はもしかしたらルーカスの時のように、良い出会いがあるのかもしれないと思っていたけど、こいつ等はもうどうでも良いや。
この場だけの付き合いって事で。
あ、そういえばミッションの『冒険者』ってこの人達のことでいいのかしら。
ミッションクリア!
心の中で念じると、クリアマークが点灯した。
これで良かったらしい。
「そうそう、また会えて良かった。このペンダント大事な物なんでしょ?返そうかと思っていたの。別にお礼が欲しくて助けたんじゃないし。ハイ、どうぞ。」
「一度やったものを受け取れるか!!」
「あ、そう?」
「えっ。」
ペンダントを引っ込めようとすると、小さく驚く声が聞こえた気がする。
「・・・やっぱりいる?」
「いらん!」
私はあまりこういう人の気持ちの裏を読んだりするのが得意でないというか好きじゃないと言うか。
言いたいことがあれば言え!言わないなら内心どう思っていようが態度に出さないでくれっていうタイプなのよね。
「最後に聞きますけど。本当にいらないんですね?いるならいると自分でしっかり言って下さいよ?頭を下げてこちらからどうぞ受け取ってくださいなんてしませんよ?」
「・・・・・・・・大丈夫だ。」
「はい分かりました。」
もうこの件は気にせず気持ちよくいただくことにしました。
微妙に趣味じゃないペンダントなので、売り払っても良いかもしれない。
長髪の方がワタワタと焦っているみたいだけど知りませーん。
「・・・それは売り払うのは止めておこうな。シア。」
ノアが声をひそめて言ってくる。
なんで考えている事が分かったのかしら。
さすが私のお兄様だわ。
「では改めましてサヨウナラ。草原出るまではシールド張っていますので、ご安心ください。」
シールドはもう問答無用で張らせてもらう。
この人たちがまた襲われたらまた助けに走らなきゃならないので許可を取るつもりはない。
失礼な冒険者二人が魔獣の草原を抜けて、さらに念のため少し離れるまで、しっかりとシールドを張り続けさせてもらいました。
クロエに頼んで映像転送してもらいながらの遠隔操作。
実は超高等技術なんだからね。
5000万リルでも安いくらいよ!
冒険者救援ミッションはクリアしたけれど、他にも「毒狼10匹」とか「一角ウサギ50匹」とかのミッションは沢山あるので、その日は四人で久しぶりに心ゆくまでミッションをこなした。
魔獣が過密状態で危険だったので、間引きの意味でも手あたり次第狩りまくって、大分スッキリした。
「魔獣が増えすぎて、そこら辺の冒険者では危険で入れなくなって、そのせいでまた魔獣が増える・・・そういう事がたまにあるみたいですね。恐らくあと少しで国による大規模な討伐がされるところだったんじゃないですか。」
とはセオの予想だ。
それから学園の入学式の日まで、また四人で王都周辺の森や草原で討伐や採集のミッションをしたり、観光をしたり、充実した日々を過ごしたのだった。
そして待ちに待った入学式の日。
「シア、立派になったね。」
「本当!素敵なレディになったわ。私も着たその制服、シアが着ている姿を見られるなんて。」
シンプルながら気品のあるグレーの制服姿にやたら喜ぶ両親。
私小さいころ死にそうだったものね。
もう12歳だし、一人で参加している子も結構いる中、うちの両親はバッチリ二人して参加してくれる。
私とノアが小さいころは主に領地を拠点に仕事をして社交シーズンだけ王都に滞在していたが、子どもが全員王都に住むことになるこれからは王都を拠点に必要な時だけ領地に戻るスタイルになるらしい。
小さい時のちょっとした親子のすれ違いはあっという間に溶けてなくなった。
私たちと一緒にミッションをする方が楽しくなったノアが、両親の事なんてどうでもよくなってしまったらしい。
そうなると逆に両親の方からノアに「最近しっかりしてきたねー。何をしているの?」なんて言って、 歩み寄ってきたのだから人間というのは不思議なものだ。
今日は在校生は基本的に休みだけど、ノアは両親と一緒に私の入学式に付いてきてくれている。
同じように兄弟の付き添いの在校生はチラホラ見かけて、先ほどから「ノア君だ~。」などという声がするのを私は聞き逃さないわよ。
やっぱりモテているのね。
この学園には今、王子様も通っているらしい。
ノアと同じ第二学年に。
乙女ゲームのメイン攻略者である『火の王子』ってやつね。
もうどんな顔だったのかもよく覚えていないけど。
確かゲームの知識によれば『水の宰相令息』も同じ学年のはず。
まあ係わることはないでしょう。
そんな事を考えているうちに、式次は進んでいく。
新入生代表挨拶。
よく転生チートで新入生代表やったり、テストで一位を取ったりという話もあるけど、私は言っておくけど頭の出来は並みだから。
もちろん知らない誰かが務めていた。
在校生代表は第六学年の成績優秀者が。
そしてそれとは別に、第二学年ではあるけど、王子様からもご挨拶があるみたい。
ふーん、王子さまって、色んなところで挨拶やらスピーチやらしなくちゃいけないのね。
大変。
その王子様の挨拶の順番が回ってきた。
どんな顔だっけ?と見てみると・・・・うーん、何となく・・・・見覚えが・・・・。
短く切りそろえた赤い髪に、切れ長の鋭い目。
俺様系で、打ち解けるとヤンチャな一面も・・・・だっけ。
もう遥か昔の事に思えるけれど、深夜の電車で揺られながらタップした、あの王子様の顔がそこにあった。
乙女ゲームの絵よりも少し幼くしたらこんな感じね。
だけど・・・なんだかもっと最近・・・この顔を見たような・・・どこで??
「っぁ(ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!)」
っぶない。
思わず大声を上げるところだった。
ほんの少しだけ漏れたけどセーフセーフ!
あの間抜けな冒険者のうちの一人だ!
不機嫌で無礼だった方。
髪の毛の色、魔法で変えてたのね。
いやこっちも変えていたんだけど。
そんな事を思いながらジロジロ見ていたのが悪いのか。
それまで講堂全体を見渡しながら、流れるように堂々と挨拶していた王子と一瞬バッチリと目が合ってしまう。
「この学園のでんと・・・・!!!!を受け継ぎ、諸先輩方の教えを・・・・・。」
おおっ、一瞬途切れたけど持ち直した。
って今向こうも気が付いたよね。
うーん、まあ別にあの時助けたのが私たちだってバレたところで、困る事もないか。
お互いに変装していたのだから、知らないふりするのがマナーよね。
王子様なんて気にせず、これから学園生活、楽しむぞ――――!
「アラン王子がお待ちです。お時間いただけますか。」
入学式が終わり、講堂を出た私を文字通り待ち構えていたのは『水の宰相令息』マリウスこと、間抜けな冒険者のもう一人。
長髪知的眼鏡で対応が丁寧だった方・・・だった。
この人も髪の毛の色変えていたのね。
本当の髪色は淡い水色だった。
「兄のノアも・・・一緒で良いかしら。」
今はセオもルーカスもいないので、ノアを巻き込むことにする。
「ノア―――――ノア・イーストランドか。という事は君はシア・イーストランド?」
「はい、そうです・・・。」
全く何の用事なんだか。
やっぱりペンダント返して欲しいのかしら?
****恋愛パートに全く興味がなかった数野すみれが読むはずのなかった『遥かな世界』キャラクターファンブックより****
《火の王子 アラン・リヒラート》
赤髪に赤い瞳。火魔法使い。攻撃型。
【攻略ポイント】王位継承争いに疲れて警戒心が強い。最初は塩対応だけど、諦めずに何度でも話しかけているうちに、少しずつ優しくなっていく。優しくなってきたところで手作りクッキーなどをあげると好感度UP!
好感度80%以上で一定の条件を満たすと、王家に代々伝わる貴重なペンダントをプレゼントしてくれる。
《水の宰相令息 マリウス・オーレンドルフ》
水色の髪と瞳。水魔法使い。守備型。
【攻略ポイント】火の王子アランと同じ年なため、よく一緒に行動している。
最初からとても人当たりが良い。そのため女生徒に人気がある。すぐに仲良くなれたように見えて、実は全く好感度が上がっていない。
冷たくあしらわれるようになってきてからが勝負。勉強などを教えてもらおう。
精霊獣が大好きなため、精霊獣と契約してから話しかけるとデートイベントが発生する。