mission 15 不機嫌な冒険者
一方のノアとルーカスは、ノアの風を利用して正に飛ぶようなスピードで駆けていた。
邪魔をしようとする魔獣はルーカスが攻撃魔法で一掃するので一瞬も止まる事はない。
すぐに前方に冒険者らしき二人連れが見えてきた。
夥しい数の魔獣に取り囲まれている。
冒険者たちも頑張って攻撃しているようだが、あれでは身動きが取れず、いずれやられてしまうだろう。
「あれだ!攻撃当てるなよルーカス。」
「当然だ。」
とある理由からシアにはカチコチな対応をするルーカスだが、同い年で同じ学校に通っているとあって実はノアとは気安く接している。
シアと離れて王都で暮らしたここ1年は、二人で組んで魔獣を倒しているので息もピッタリだ。
ノアは同級生なのだから対等に接しようと何度も言っているのだが、ルーカスは使用人としての態度を崩さず魔獣討伐でも必ずノアを守ろうと前に出る。
ノアとしてはそれだけが不満だった。
キュイッ!!
一緒に付いてきたシアの契約精霊獣、モモちゃんが、誰だか知らない冒険者二人をシールドで囲んでくれた。
元から冒険者たちも自分でシールドを張っていたようだが、強度が分からないため不安だったのだ。
モモちゃんのシールドなら信頼できる。
「ありがとうモモ。おかげでやりやすくなった。」
クゥゥ~ン
モモちゃんはシアを除いては誰が見ても明らかにノア贔屓だ。
褒められて嬉しそうに鳴いている。
ノアがシアに似ているから好きなのかもしれない。
すかさずルーカスが腕を突き出す。
―――――――バアァァァンン!!!!
光の後、一瞬遅れての爆撃。
冒険者たちはシールドで囲われているとはいえ、一応当たらないように外して打ったので、蹴散らした魔獣はまだごく一部だ。
しかし早くも逃げ出す魔獣もではじめて、数は大分減った。
冒険者が既に倒していただろう魔獣の死骸ももの凄い数だ。
一体何が起きているのか。
バアァンン!バアァンン!バアァンン!
ルーカスが連射したところで、ついに冒険者のところにたどり着く。
冒険者側から見れば、突然の爆発の後に風のように誰かが現れたように見えただろう。
どこにでもいそうな、この国で一番多いブラウンの髪の冒険者二人。
その顔を見て、ノアは一瞬驚いたような表情をして、無言でフードを目深に被った。
ルーカスの攻撃魔法から運よく逃れた魔獣を、ノアの精密な風の刃が一頭一頭丁寧に切り裂く。
逃げようとした魔獣の動きを読んでいるかのように、風の刃は正確に追い詰め仕留めていく。
動く魔獣が完全にいなくなるのに時間はかからなかった。
「お疲れさまノア、ルーカス。私たちの出番はなさそうね。」
ちょうど魔獣が片付いたかと思ったところ、気が付けばシアとセオが到着していた。
「モモちゃんのおかげだよ。ありがとう、シア。」
シアがシールドを広げて、冒険者含め全員分の安全地帯を作る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
こういう時、立場的に大体ノアが代表して話すのだけど、何も言わない。
「・・・助かりました。ありがとうございます。」
冒険者の一人、ブラウンの長髪に眼鏡をかけた知的そうな男が口を開いた。
男といっても思っていたよりも随分年齢が若い。
ノア達と同年代くらいだろうか。
「大変でしたね。こんなに魔獣が集まるなんて、何があったんだろう。」
ノアが話したくなさそうなので、シアが代わりに答える。
「分からない。どんどん魔獣が増えてきて、倒しても倒しても寄ってきた。こんな事は今まで経験がない。」
もう一人の冒険者の方が少し不機嫌そうな声で言った。
このような目に遭っては、機嫌も悪くなるだろう。
「お前らが来たら魔獣が散り散りに逃げて行った。それまでどれだけ攻撃しても逃げなかったのに。悪いが信用できん。礼はするがすぐに失礼する。」
「えー・・・はあ。まあ良いですけど。」
随分と疑い深いらしい。
まあ突然集まってきた魔獣の大群を一瞬で蹴散らした知らない集団というのも怖いものかもしれない。
しかしお前ら扱いはいただけない。
「礼はこれで良いか?」
不機嫌な冒険者が何かを探すような仕草をした後、差し出されたのは見事な宝石の付いたペンダント。
付けやすそうな小ぶりなものだが希少な色なので高いだろう。
5000万リル位だろうか。
命の値段としては高くはない。
「はい。」
躊躇なく手を出す。
すると男はウっと一瞬戸惑った後、名残惜しそうにネックレスを渡してきた。
隣の長髪の男も何となく焦っている気配がする。
え?本当は大事なものだったのかな?返そうか?
そう思ったら、男たちはもうすでにシア達に背を向けて歩き始めてしまった。
「おい!このシールド外せ!シールド位自分たちで張れる!!」
しばらく歩いていたと思ったら振り向いて大声で指示してくる。
せっかくサービスで草原を出るまでシールドを張ってあげようと思っていたのに。
シアのシールドは単純に攻撃を跳ね返すだけでなく、音や匂いや気配まで遮断する。
その為そもそも魔獣に見つからなくなる優れモノだった。
でもここまで言われるともう完全に失礼だ。
襲われて可哀そうタイムは終わりました。
「はいはい分かりましたよー!」
負けじと大声を出して答え、シールドを消した。
「なにアイツら。名乗りもしないで失礼しちゃうよね!」
「何かに警戒しているみたいでしたけど。でもあの態度はちょっと酷いですね。」
シアの愚痴に答えたのは意外にもルーカスだけで、セオとノアは何とも言えない表情だ。
「・・・・・・・・・おいそれと名乗れない立場の人なのかもしれないよ。・・・というかルーカスなぜ気づかないんだ。」
「え、何それ。ノア知っている人?」
「あーうん。シアは社交界に全然顔出さないからなぁ・・・。」
そんな事を話しながら、さて今日はこれからどうしようと相談していたら。
ドオォォォン!ドオォォォン!ドオォォォン!
二人が歩き去って行った方角から、また攻撃魔法の音が聞こえてくる。
「・・・・あの二人、また襲われてたりして。」
「・・・・・・・・・・。」
冗談で言ったつもりだったが、ノアとルーカスが無言で走り出した。
「・・・我々はゆっくり追いかけましょうか、シア様。」
「そうだねセオ。」
だからせっかくシールド張ってあげていたのにー。