mission 12 新たな仲間
「ありがとうございました。」
失礼なオジサン2人がうちの護衛に取り調べされ始めると、絡まれていた男の子が話しかけてきた。
貴族相手に気後れすることなく・・・しているのかもしれないけど、それでもしっかりと自分なりのお礼を言って、ピシッと頭を下げている。
この子が有名なコソ泥だなんて、信じられない。
『街の男の子の無実を晴らそう』というミッションが思い浮かぶ。
この子の事だよね?
だとしたらこの子は無実ってことだ。
「頭を上げてくれ。当然の事をしたまでだよ。」
ノアがそんな人生で一度は言ってみたいセリフを言っている。
天使の微笑みで。
これ相手が女の子だったら確実に惚れてるわよ?
それにしても、男の子のせっかくの綺麗な売り物がグチャグチャになってしまっている。
中には踏みつぶされた物もある。
可愛いビーズで作られたチャームやペンダントなど。
丁寧に作られているのに勿体ない。
「あ、そんな。俺がやりますのでほっといて下さい。」
私が拾い始めると、男の子が慌てて止めてくる。
「ううん、手伝わせて。私はシアと言うの。あなたの名前は?」
安心させるように笑いかけると男の子は何故か真っ赤になって焦っている。
「あ、お、俺は、ルーカス、と言います。」
「確実に惚れてますね。」
「あー、だな。」
セオとノアのそんな声が聞こえる。
だよねー、私もさっきそう思った。
ノアがあんな格好良かったんだから、相手が女の子だったら確実に惚れるとこだったわよね。私もそう思ってた。
セオもノアも、ミッションの男の子はこの子だと思ったのだろう。
今日は店じまいしてもらって、話を聞かせて欲しいと頼む。
壊れたもの含め、売り物の大半を買い取りたいと申し出ると恐縮されたが、屋敷の皆のお土産にしたいからと言ったらじゃあせめて修復してから売らせてくれとのことだった。
話をする為と売り物の修復の為、今なら誰もいないというルーカスの家にお邪魔することになる。
広場から少し裏通りに入った、小さくて古いけれど、しっかりと掃除がしてある気持ちの良い家がルーカスの家だった。
「なんのお構いも出来ませんが。」
同じくらいの年なのに本当にしっかりしている。
こんな少年がコソ泥扱いとは。
いったい何があったんだろう。
「ねえ、何であなたはコソ泥なんて言われているの?本当にはやっていないんでしょ?」
もしこの少年がミッションの無実の男の子じゃなかったらコソ泥の可能性もあるが、まあそんな確率逆に低いだろう。
「いえ、俺も良く分からなくて。叔父さんに家の物がなくなったから盗んだだろって言われて。あいつはすぐ物を盗むって・・・そしたら誰かが何かなくしたらすぐあいつだってなるように・・・。」
「叔父さん?」
「俺両親がいなくてさ。小さな頃から父親がいなかったんだけど、2年前に母親も病気で死んじゃって。叔父さんに住ませてもらっているんだ。」
「・・・・・・・そっか。」
どうやら昨日今日急にコソ泥扱いされたのではなくて、長い間そういう扱いを受けてきたようだ。
そんな状況から無実を晴らすことなんて、出来るんだろうか。
そして気になる事が一つ。
なんでこの子を救う事がミッションになっているんだろう。
どこにでもいる普通の男の子に見える。
起きている問題も、魔獣被害とか呪いの魔具とかじゃなくて人間関係のいざこざ?
「ねえ。その小物の修復、私が手伝っても良い?」
「ん、もちろん。新しいのを作ってみても良いよ。母さんが以前良く作ってて、作り方教えてくれたんだ。」
小物の製作者は驚いたことにルーカス自身だった。
手伝うつもりだったけど、最初からそんなに綺麗にはできなくて、結局作り方を教えてもらって作らせてもらったと言う感じになってしまう。
申し訳ないけど、楽しかった。
セオなどは器用で細工物の修理の戦力になっているようだ。
ガチャッ
「おい!ルーカスいるのか!?何サボってんだ。」
楽しく皆で小物を作っていると、突然ドアが開いて男の人が入ってきた。
この世界では珍しい黒髪。
先ほど話していたルーカスのオジサンだろうか。
外を警護していたはずの護衛も、家の持ち主が入る事を阻まないだろう。
「あ?なんだ?誰だお前ら。」
その男は昼間から酔っぱらっているようだった。
アルコールを飲んだ者の匂いがプンプンしている。
「叔父さん。・・・ノア様とシア様だよ。俺を助けてくれたんだ。」
「は?なんだお前またどうせ何か盗んだんだろ。」
「だから盗んでないって。」
「嘘つけ!!じゃあなんであの時計なくなったんだよ!」
「時計は叔父さんが呑み代の為に売ってたじゃないか!」
「ウルサイ黙れ!!」
叔父さんとやらはとてもルーカスを大事にしているようには見えない。
まるでワザとルーカスを悪者にしているようだった。
「あーお坊ちゃん、お嬢ちゃん。せっかく来ていただいたのに残念ですが、こいつはどうしようもない盗人でして。かかわらない方がよろしいですよー。」
ワザとらしく丁寧な言い方をしてくるオッサン。
・・・・・・・ねえ、これってさー。
「セオ。お願いがあるんだけど。」
「何ですか?」
「うち従者だか見習いだかって募集してない?ルーカス連れて帰ろう。」
「・・・・・無実を晴らさなくて良いんですか。」
「良いのよ。だって・・・。」
だってこれ・・・・・・・。
「だって分かってるじゃないコイツ。ルーカスが盗んでない事なんてコイツが一番。自分が情けなくて無くしていった物、全部ルーカスのせいって事にしたいだけでしょ。」
「はあ!なんだとこのガキ!!」
「何よオッサン!!!!来なさいよ負けないわよ私!酔っ払いなんかに!」
言っておくけど護衛頼りなんかじゃないからね。
今の私ならこんな酔っ払い、本当に物理的に一ひねりなのよ。
ミッションがクリア出来ないのもどうでも良い。
たかが☆5のミッションなんて、これからいくらでも湧いて出てくるわ。
自分が呑み代払えなくて、売り払って、無くして、失った物。
自分がそんな最低な奴だという事から目を逸らすために。
こんなに良い子を悪者にするなんて許せない!
「シア様とノア様が本気でお願いされれば、お父様とお母様も断れないでしょうね。従者見習いの教育の方は私にお任せください。」
「よし!うちの屋敷に行くわよルーカス。こんなところ二度と帰らないと思って、大事なもの全部持ってきて。」
「おいおいおい誘拐か?どこのお貴族様だよ。」
「どうしようもない盗人なんでしょ?連れて行って良いじゃない。伯爵家で働いてもらうだけよ。」
「いやどうしようもないヤツですけどね。これでも一応可愛い甥っ子なんですよ。育てるのにお金も掛かってますし。」
ははーん。そういう事。
「いくら?」
「へ?」
「いくら欲しいの?」
「へへへ。コイツには色々と盗まれてますし。・・・まあ小金くらいは稼ぐんでね。いなくなると困るんで・・・・・・・3000万リルほどは・・・。」
「3000万リルねぇ・・・・・・。」
「1リルだって払うかバー―――――――カ!!!!」
「はあ!?何だこのクソガキ!!」
前世の小説とかでも良くこういう「連れて行きたいならいくら払え」みたいなのあったけど、常々何で言い値を払うのよ!って思っていたのよね。
払わなくて良くない?いらなくない?
お金ならいくらでもあるけど、コイツに払う金はない!
「ルーカス!あなたの意志で、伯爵家で働く?使用人部屋もあるし勉強もできる。もちろんお給金も出す。あなた自身が決めたならコイツがどんなに騒いでも、知ったこっちゃないわ。」
「・・・・・・・・・・・働く。」
ルーカスは、少しだけ迷ったようだったが、力強く頷いた。
その瞳の輝きに曇りはない。
彼の評判は傷つけられても、内面を傷つける事は誰にも出来なかったようだ。
「叔父さん。今までありがとう。俺、このお嬢様たちに付いていって、出来る限り働いてみるよ。2年間育ててもらった分は、お給金を貰ったら俺が少しずつ返すから。」
そう言ってルーカスは、荷物を手際よく纏めていった。
荷物を纏めながらも、同時にその辺の物を片づけたり、洗濯物を取り込んだりもしている。
―――この清潔に保たれた気持ちの良い家は、これからきっと、見る影もなく汚れていくのだろう。
あっという間に荷物をまとめたルーカス。
鞄もないようで、大きめの布に包もうとしているところを、護衛が袋を取り出して貸していた。
家を出てみるとビックリ。
聞き耳を立てていただろう人たちが家を取り囲んでいた。
ざっと見ただけで20人以上くらいはいそう。
人の怒鳴り声って、意外と外まで聞こえるのよね。
ましてやこんなに壁の薄い家だったら、やり取りは丸聞こえだっただろう。
「・・・・まあそういう事ですので。」
聞いていたなら事情は分かっただろう。
誘拐とは間違われないはずだ。
「・・・あの、ルーカスは本当はとても良い子なんです。うちの前まで掃除してくれて。」
気の弱そうな初老のご婦人が、おずおずと言ってくる。
今まで言えなかったんでしょうね。
責める気はないわ。
「そうですか。」
「はい。なので・・・よろしくお願いいたします。」
「ルーカス!いつもありがとうね。」
「庇ってやれなくてごめんな。」
口々にそう言い出す人たち。
そりゃそうよね。
分かる。
ルーカスが良い子な事くらい、今日会ったばかりの私でも分かるんだから、この街の人たち、皆分かっていたでしょうよ。
それなのに、都合よく何か無くしたことをルーカスのせいにしたり、罪を押し付けた人も中にはいたのかもしれない。
ミッションクリア!
ダメ元で心の中でつぶやくと、クリアマークが点灯した。
「ノア様とシア様のそばにずっといたいなら、死ぬ気で自分を鍛えて守れよ。あのお二人は、この世界を救う方たちだ。」
「・・・・はい。命に代えても。」
セオとルーカスがそんな会話をしていた事を、シア達は知らない。




