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64 海賊襲撃―1

 一旦船室へ戻ったカテリーナが、剣を何本も抱えて戻ってきた。


「沿岸警備任務で使う剣です。これならソーサリエ生の力にも耐えうるはず。……ロザリーさんの膂力ではわかりませんが」

「十分です。お借りします」


 ロザリーがまず一本選び、他の三人も一本ずつ手にする。

 ヒューゴは自前の剣があるので手に取らなかった。


「ロザリーさん。さっきの話だと、海上で戦える使い魔は使役していないのですよね?」


 ロザリーは答える代わりに、ヒューゴの顔を見た。

 ヒューゴはふるふると首を振り、言った。


「沈むのも浮くのもいるけどネ、どちらにせよ戦闘能力を維持できない。飛行できる死霊(アンデッド)がいればいいケド、(しもべ)では墓鴉(ハカガラス)くらいダ」


 ロザリーがふと気づく。


「そういや、幽霊みたいな(しもべ)っていないね?」

霊体型(ホーント)って見た目だけじゃなく、存在自体がおぼろげで儚いのサ。【葬魔灯】で受け継ぐ前に消えていくから、欲しいなら自分で使役してくれ」

「なるほどね……」


 カテリーナがロザリーに問う。


「下の骸骨さんも、船上なら戦えますよね?」

「もちろん。二万までなら追加もできます」


 カテリーナは苦笑した。


「あまりたくさんは追加しないでください。船が沈んでしまいます」

「あ、そっか」

「ロザリーさんも大立ち回りはなさらないでください。船を守ることが第一ですわ。下の骸骨さんたちがいれば撃退可能ですから」

「わかりました。……なんかカテリーナさん、慣れてますね。全然慌てる素振りもないですし」

「あら、伝えてませんでしたか?」


 カテリーナは胸を張って続けた。


「私の本業は、海賊対策船の船長ですわ」


 ラナが目を丸くした。


「海賊狩りが仕事ってこと?」

「ありていに言えばそうです」

「意外! じゃあ、腕っぷしのほうも?」

「魔導を持つ皆さんほどではないですが」


 カテリーナは剣を持ち、力こぶを作る真似をした。

 そのとき。ロブロイが声を荒らげる。


「おい! 歓談中悪いけどさ!」「すぐそこまで来てるぞ! こっちの船はこのままでいいのか!?」


 前方から迫る三艘の海賊船は、はっきりと視認できるほど近くまで来ていた。

 船影は見る見るうちに大きくなる。

 カテリーナが叫ぶ。


「二号さん! 下の骸骨さんたちに全速前進と伝えてください!」


 マストから降りた二号はコクコクと頷き、パタパタと船室へ駆けていった。


 しばらくして。

 五段櫂船がぐうんと前方へ進み始める。

 ラナが慌てる。


「ちょっと! 海賊船のほうに進んでるけど!?」

「これでいいんです。こちらは大型船ですから、転回すればその間に食いつかれます」


 カテリーナはそう言ってから、前方を指差した。


「全速で突っこめば、相手は小型船ですから避けてくれます」

「避けられた後はどうするの?」

「そのまま直進です。相手は転回して再加速する必要がありますから」

「そっか。その隙に逃げるのね」

「すれ違う瞬間も大事です。敵の顔と人数を知ることができます。対して海賊は、こちらの漕ぎ手が戦闘可能な骸骨さんだとは知りようがありません。逃げるにしても戦うにしても、有利に働きます」

「ほー、さすが本職」

「ですから皆さん。ニアミスの瞬間は敵船に目を配ってください」


 ロザリーたち四人は頷き、船首の手すりに掴まった。

 ヒューゴだけは腕組みして、甲板に直立している。

 五段櫂船の速度がさらに上がった。

 三艘の海賊船も速度を緩める様子はなく、真っ直ぐにこちらへ突っ込んでくる。


「カテリーナ女史!」「衝突コースだぞ!」


 ロブとロイが悲鳴のような声を上げるが、カテリーナは前方を見据えたまま。


「いいえ! 相手は必ず避けます!」


 敵船上で海賊たちが動き回っている。

 その表情まで見えるかという距離まで来て、両端の海賊船が左右に散った。

 真ん中の一艘だけは、そのまま突っこんでくる。

 海賊旗のどくろ(・・・)もはっきり見えてきた。

 海賊船の舳先には一人の海賊が立っていて、それが女性だということもわかる距離まで来た。

 一つ呼吸する間に、もう目と鼻の先。


「ぶつかるっ!」


 思わず手すりにすがり、目を伏せるラナ。

 しかしすぐにカテリーナの声が飛ぶ。


「目をそらさないで! 瞬きも禁止です!」


 瞬間、海賊船の帆が大きくはためいた。

 海賊船の船首がぐるんと向きを変え、五段櫂船のすぐ横をすり抜けていく。

 舳先に立つ女海賊と、カテリーナの視線がぶつかる。


「やっぱり……! ナスターシャ!」

「あんた、カテリーナかい!」


 邂逅は一瞬。

 互いの船はすれ違い、瞬く間に距離が離れる。


「知り合い!?」


 ラナが短くそう問うと、カテリーナは怒りを滲ませて答えた。


「ポートオルカ史上、最高金額の賞金首です!」


 ロザリーは自分の賞金首の張り紙を見た時のことを思い出した。


「極悪非道、血も涙もない女海賊――それが彼女のことね」


 カテリーナは右舷に回り、船の後方を覗き見た。

 先に離脱した二艘は、はるか後方で円を描いてこちらへ向きを変えつつあった。

 女海賊ナスターシャの船は、まだ船尾が見える。

 対して五段櫂船は、速度を保ったまま前進中。


「こりゃあ――」「――逃げきれそうだな」


 ロブロイがほっとした顔でそう感想を漏らしたが、即座にカテリーナが否定した。


「いえ! ナスターシャは追いついてきます!」


 カテリーナの言葉は、すぐに現実となった。

 ナスターシャの船は楕円を描いて鋭くターンし、先に転回した二艘に先駆けてこちらを追い始めた。

 その速度は全速力の五段櫂船より明らかに速い。


「なんだよあの動き!」「どういう仕組みの船だよ!?」

「違うのは操船の腕です! ……相変わらず、腹が立つほど風を捕まえるのが上手い!」


 カテリーナは歯ぎしりしながら敵を称えた。

 そしてロザリーを見る。


「骸骨さんたちに戦闘準備をさせてください」

「ボクが行くヨ」


 ヒューゴが請け合い、漕ぎ手のいる下層へと向かう。

 ロザリーたちが見守る中、海賊船が迫る。

 まずナスターシャの船が追いつき、五段櫂船の横に並んだ。

 船の舳先に立つナスターシャが叫ぶ。


「カテリーナ! ガキを連れてピクニックかい?」

「手を引きなさい! ナスターシャ!」

「はんっ! 獲物を前にして手を引く海賊がどこにいる!」

「この海域に潜む化け物のことは、あなただって知っているでしょう!」

「それがどうした! あんたらの悪条件(バッドコンディション)はウチらの好条件(グッドコンディション)さ!」

「相変わらず口の減らない……っ!」


 そこでふと、ナスターシャの顔に笑みが浮かぶ。


「そうか、わかったよ。あんた、町長の船を探しに来たんだね?」

「知っているの!?」

「知ってるよ。聞きたいかい?」

「教えなさい!」

「ああ、教えてやるよ。……あははっ、その化け物に食われたのさ!」

「嘘よ!」

「本当さ! この目で見たからね! あの化け物は町長みたいなノロマじゃ逃げきれない。どうせなら私に襲われたあとに食われりゃいいものをさ!」

「ナスターシャ……必ず絞首台に送って差し上げますわ!」

「黙れ、カテ公! あんたはその前に死ぬんだよ!」


 ナスターシャが大きく手を振った。

 それを合図に残りの二艘が速度を上げた。

 二艘は五段櫂船を追い抜くや否や、弧を描いてこちらの横っ腹に船首をぶつけてきた。


「きゃっ!」

「うお……」「くっ……」


 船体が激しく揺れ、ラナと双子が体勢を崩す。

 衝突した二艘から(かぎ)付きの鎖が乱れ飛び、五段櫂船と海賊船が固定された。

 密着する部分から、海賊が次々に乗り移ってくる。


「行けッ、行けッ!」

「イヤッハァァー!」

「お宝だ! 食い物もだ!」

「女がいるぞォ! 若けぇぇ!」

「奪えェ!! 殺せェ!」


 甲板はたちまち海賊で溢れた戦場となった。

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[一言] 船が沈む?ハッ!敵船に大量召喚してやれば沈めることが!
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