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【書籍化】骨姫ロザリー ~死者の最期を追体験し、力を引き継ぐ~  作者: 朧丸
第四章 暗雲低迷、雷鳴轟く

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365/370

362 強襲―上

【3/25】に『骨姫ロザリー』コミックス3巻が発売されます!

今回も巻末小説を書かせていただきまして、なろう作中ではほとんど描写されない『あの人』の内面を書いたものになっております。


お買い求めいただけたら嬉しいです。

ぜひぜひ、よろしくお願いします!


 古祭壇にてアトルシャン残党との夜戦が始まった頃。


 ――王国領、古都ロトス近郊。

 険しい峡谷の水枯れた底に、地元の木こりすら知らぬ横穴があった。

 その洞窟は峡谷の上からは見えないが、底に降りれば立派な教会でも建てられそうな高さと幅があり、奥深くへと続いている。


 洞窟の手前には五人の騎士が屯している。

 彼らは反王制フリュール派の騎士。

 ここはフリュール派のアジトである。




「うおっ!? 近かったな、今の!」


 突然の落雷に、フリュール派の騎士の一人が叫んだ。

 彼らの役目は見張りであるが、こんなところに誰か来るわけもなく。

 そのため見張りの意識は低く、それを咎める者もいなかった。

 落雷に驚いて大声を出した騎士を注意するどころか、仲間たちは彼を茶化し始めた。


「ビビリがよぉ。雷ではしゃぐんじゃねえよ、お子様かよ」

「違いねえ。ママのとこ帰って頭撫でてもらえ」

「お前、ママの代わりやってやれよ」

「ようし、任せろ。怖かったでちゅねー、よしよし」

「だっ! やめろよ、ちくしょう!」


 茶化されて頭まで撫でられた騎士は、怒って仲間たちから離れた。

 そして彼は仲間たちに言い返そうとしたが、何かにハッと気づいて棒立ちになった。


「誰か……来る」


 騎士のセリフを聞いた仲間たちは顔を見合わせ、それから一斉に吹き出した。


「プッ、仕返しのつもりか?」

「無理無理。誰も来ねえって」


 しかし当の騎士は顔を真っ赤にして、峡谷の底――水が流れていれば上流のほうを指差した。


「ほんとだって! ほら、見てみろ!」


 仲間たちが騙されるのを覚悟して、騎士の指さす方に目をやる。

 すると、たしかにこちらへ歩いてくる人影が見えた。


「……あ。ランスローの旦那だ」

「ああ!」

「見覚えがあると思った」


 ランスローの旦那ことドルクは、いつものように愛想笑いもせずにやってきた。

 落雷に驚いた騎士だけは少し離れたままだったが、他の四人は親しげにドルクを囲んで出迎えた。


「よう、ランスローの旦那!」

「元気にしてたか?」


 その中の一人が、自分の鎧をこつんと拳で叩いた。


「旦那にもらったこの鎧、かなりいいぜ!」


 彼らが身につけている揃いの黒鎧はドルクが贈ったものだ。

 夜戦仕様の特注品で、それなりに値も張った。

 その黒鎧を見下ろし、ドルクが言う。


「この手の贈り物は、お前たちのように幼稚で知恵の回らない若者に対して有効だ。興奮させ、怖気を消し、気移りを起こさせなくする」

「……あん? どういう意味?」

「こういう意味だ」


 ドルクは剣の柄にひそりと手を伸ばしたかと思うと、即座に電光石火の抜き打ちを放った。

 地面と平行に抜き打たれた一閃は、囲んでいた四人の首を、笑顔のまま地面に転がした。


「あ……ヒッ!」


 一人、離れていた騎士が、背中を向けて洞窟へ逃げ出す。

 ドルクがその背中を見定めると、彼の鎧の下――ちょうど心臓辺りが発光した。

 そして次の瞬間、ドルクの肉体が閃光となって、瞬時に騎士の前に回り込む。


「あ!」


 騎士はいきなり目の前に現れたドルクに、腰を抜かしそうになった。

 ドルクは後ろに倒れかかった騎士のうなじを左手で支え、右手の剣を立てて彼を抱いた。


「ゔっ! うぇ……」

「すまんな」


 ドルクは息絶えた騎士を地面に転がし、自分が歩いてきた方角を振り返った。

 すると峡谷の起伏の陰に隠れていたグレンと彼の騎士団の面々が続々と姿を現した。


「お見事」

「フン」


 グレンがそう言うと、ドルクは嬉しくなさそうに鼻を鳴らした。

 グレンが洞窟の天井を見上げる。


「ここか」

「ああ。見張り(こいつら)は雑魚だが、中には腕っこき(・・・・)もいる。油断はするなよ?」

「当然だ。で、どうする? このまま突っ込むか?」

「そりゃあ見張りを殺したんだ、突っ込むが……人数は外にかけたい、一人も逃したくないからな」

「わかった。ジャミル、三人連れて俺についてきてくれ」

「了解」

「外は……レイニ。頼めるか?」


 グレンが目配せすると、盲目長髪の騎士が頷いた。


「ああ、任せろ」


 レイニは賊狩り・外道狩り任務に従事してきた男だ。

 鳥籠にいる我が子を人質にされ、囮や尖兵など危険な役割ばかり与えられてきた。

 そんな使い潰すつもりの命令に従いながら今日まで生きながらえてきたのは、彼が視力以外の感覚が非常に優れていて、それらをルーンでさらに伸ばした野生動物のように敏感な戦士であったからだ。


「決まったか? 行くぞ」


 ドルクが洞窟の中へ、無防備にスタスタと歩き出す。

 それにグレンが続き、ジャミルと彼に選ばれた三人が最後に続いた。



 入り口から想像できた通り、洞窟内部は広かった。

 自然のままの起伏の大きい地面には木材で均した道があり、各所に焚かれたかがり火がその道をぼうっと照らし出している。

 洞窟には三階建て相当の高さのところに岩棚があり、その上が居住区となっている様子だった。

 いたるところにフリュール派の騎士がいるが、まだ侵入者には気づいていない。


 ドルクがこそりとグレンに言った。


「首領フリュールは奥の広間だ。俺がやる、お前たちは棚の上をやれ」

「構わんが……一人で大丈夫か?」


 するとドルクは眉をへの字に曲げて言った。


「誰に言ってる?」


 と、そのとき。

 近くにいたフリュール派の騎士がグレンたちに気づいた。


「お前ら……誰だ?」


 何とも間抜けな問いかけが響いたその瞬間、ドルクの胸から光が漏れる。

 次の瞬間には、その騎士は突き殺されて地面に転がっていた。

 ようやく周囲の何人かの騎士が、これは襲撃だと気づく。

 しかしドルクは雷光となって超高速移動を繰り返し、その騎士らを瞬く間に討ち取ってしまった。


「……大丈夫そうだな」


 グレンは仲間を振り返った。

 ジャミルが選んだ三人は、意外にも全員が新卒騎士だった。

 経験は浅いが、将来有望な若騎士だ。

 グレンが頷くと、ジャミルらも頷き返す。

 そして一斉に棚に向かって駆けだした。

 すぐにジャミルが叫ぶ。


「上の連中も気づいたようだぞ!」


 グレンが岩棚の上を見る。

 こちらを見下ろす顔がいくつも見えた。

 騒ぎになっている様子で、数十人はいそうだ。


「メイベル、風ツバメを!」

「はいっ! メイベル、風ツバメを放ちます!」


 律儀に復唱して術の態勢に入るのは、風の精霊騎士(エレメンタリア)のメイベルだ。

 目を薄く閉じて、両手で胸元に光を集め、それを解き放つ。

 光は複数の光弾となり、やがてツバメの形となって、弧を描きながら岩棚の上を襲った。

 こちらを覗き見ていた奴らの悲鳴がいくつも上がる。


「取りつくぞ! 【羽のルーン】!」

「「応ッ!」」


【羽のルーン】は脚に宿す跳躍力強化のルーンである。

 鳥を表す代表的なルーンであるため皇国刻印騎士(ルーンナイト)は必ず修め、逆に王国刻印騎士(ルーンナイト)はまず使わない。

 メイベル以外の四人はいずれも習得している。


「ちょ、ちょっと待って……」


 若騎士のうちの一人、サムルズが術の発動にもたついた。

 だがグレンもジャミルも待つことなどせず、一気に岩棚の上まで跳躍した。

 もう一人の若騎士――首席卒業であったエレンは「お先に!」と軽い調子で言ってから、グレンらに続いた。


 岩棚の上は大混乱であった。

 武器を取りに走り回る者同士がぶつかって取っ組み合いになっているかと思えば、あちらこちらで命令し合って揉めている。

 肌着姿の者や飲んだくれている者までいる。


「……」

「こりゃあ、騎士団の体を成してないな。どうするグレン、皆殺しにするか?」


 ジャミルはグレンの気性をよく知っており、彼が命令しにくいであろうことを先回りして聞いてくる副長であった。

 グレンが言う。


「武器を取った者は容赦するな。戦意のない者は……昏倒させろ」

「了、解!」


 さっそくジャミルが近くを無防備に歩いていた酔っぱらいを剣の柄で打ち、昏倒させた。

 グレンは剣を抜いて居住区に入っていき、向かってきた敵を斬り伏せていく。

 エレンも若騎士とは思えぬ剣捌きでグレンについていく。


「はあ、はあ……やっと着いた」


 しばらくして、土に汚れたサムルズが岩棚の上に上がってきた。

 崖の壁面にぶつかりながら上がってきたのだろう。

 ジャミルが叫ぶ。


「サムルズ! 三人倒さないと懲罰だ!」

「うええ、勘弁っすよぅ」


 うんざり顔でサムルズも乱戦に入っていく。

 居住区の騎士は見張りをしていた騎士と変わらないか、むしろそれより弱い騎士ばかりだった。

 あらかた片付いて、岩棚の敵は地面に横たわる者ばかりになった。

 剣を納め、ジャミルが言った。


「ふうっ、こんなところか。上出来だったぞ、エレン!」


 エレンは首を振り、遠くにいるグレンを見た。


「まだまだです。団長なんか息も乱れてない」

「まあそう言うな。ロザリー様ほどではないが、グレンはグレンでバケモノだ」

「そうだぜ~。上ばっか見てないで足元見ないとこけちまうぜ?」


 そんなことを言いながらサムルズがやってきた。

 エレンが言う。


「何人やった?」

「……三人」

「嘘つけ。二人?」

「……一人」

「へえ。上出来だぜ、サムルズ」

「お前が言うなよ! ムカつくぜ……」

「へへっ」


 三人が集まっているところに、グレンが首を傾げながらやってきた。

 ジャミルが言う。


「どうした? 手応えがなさ過ぎて不思議か? 並の騎士なんてこんなもんだぞ?」

「別に、そういうつもりじゃ……いや、手応えはなかったんだが……」


 グレンは不思議そうに周囲を見回し、それから言った。


「なあ。こんなに少なかったか?」

「「?」」

「上がってきたときにはもっといた気がするんだよ」

「いやあ……どうだろう」


 と、そのとき。


「だれかぁ~。助けてください~」

「「メイベルだ!」」


 エレンとサムルズが同時に駆け出し、岩棚の崖に張り付いていたメイベルを救出した。

 地面に座り込んで荒く息をするメイベルに、グレンが言う。


「下にいてよかったんだぞ、メイベル?」


 するとメイベルはグレンを見上げた。


「すぐに伝えなきゃ、って思って」

「何をだ?」


 するとメイベルは棚の奥のほうを指差した。


「風が……流れてきます!」


 グレンとジャミルは顔を見合わせた。


コミックス3巻の特典画像のサンプルをいただきましたので活動報告のほうに上げておきます。

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