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309 団長殿はお忙しい―3

誤字報告くださった皆様、ありがとうございます!

「……私は王国に囚われて帰ることができなかった、皇国騎士の娘です」


「「!!」」


 ……そうでした。

 ロザリーさん自身が獅子侵攻に運命を翻弄された存在なんです。

 ギオネス卿と外事官殿も思い出したのでしょう、揃って顔が強張ってます。

 お二人のお顔に「そういやそうだった!」って焦燥がありありと浮かびます。


「差し出がましい? 関係ない? そんなはずがありましょうか。私は獅子侵攻の落とし子。当事者の一人であり、これは私の領分なのです」


 さすがはロザリーさん!

 弁解する気なんて微塵もない!

 これはかなり強烈なパンチです。

 クックック……ギオネス卿は俯いて、二の句を継げませんねぇ。

 旗色悪しと見て、撤退を決めたようです。


「だがッ!」


 おお? 外事官殿は戦意たっぷり。

 まだやる気のようです。

 一度ブチ切れた手前、もう後には退けないということでしょう。


「獅子侵攻は十六年も前のこと! そんな昔話を掘り返して、それが理由で会議がうまくいかなくなったら卿はどう責任を取るのか! 職を辞したくらいでは済まんぞッ!」


 む……これはもっともなことです。

 皇国との外交は国内政治に大きく影響しますからね。

 ロザリーさんはこれにどう反論するのか、と思っていたら意外な方向から援護射撃が飛んできました!


「儂はわかるのぅ。うむ、ようくわかる……」


 なんとシャハルミド院長です!

 皆さんの視線が集まったのを上目で確認してから続けます。


「儂には八人、子がいるが……獅子侵攻には次男と三男が従軍した。三男は戻ってこなんだ」


 円卓が静まり返ります。

 シャハルミド院長にそんな過去が……っていうか意外に子沢山なんですね、このお爺ちゃん。


「三男はミルザが起こした〝大破壊〟と呼ばれる暴風渦の中心付近にいたようでの。あの辺りに布陣していた者は遺体の欠片も残らなかったことは卿らも知っていよう。これも戦。仕方のないことじゃ。仕方のないことなのじゃが……」


 シャハルミド院長は眉を寄せ、悲しそうに首を振ります。


「……問題は残された家族よ。儂はよい、悲しみつつも納得はしている。が、三男には結婚したばかりの妻がいての。彼女を不憫に思った儂は次の婚姻相手を探してきたのじゃが……首を縦に振らぬのよ。『遺体が見つかっていないのだから、あの人はまだ生きているかもしれない』と言うのじゃ。親の儂ですら諦めたというのに……卿が言いたいのはこういうことじゃろう? 〝骨姫〟?」


 まさにそれ!

 お爺ちゃん、ナイスアシスト!

 強力な援護を受けたロザリーさんが深く頷きます。


「先日、任務で賊拠点を攻めたのですが……賊拠点のすぐ近くの村に人が残っているのです。なぜ逃げないのかと尋ねると、従軍した夫や父が帰ってくるかもしれないから村を捨てられないと言うのです。十六年も帰ってこないのに……私は言葉を失いました」


 円卓の空気が変わりました。

 おそらくは、ご自身やご家族が獅子侵攻に従軍しているからでしょう。

 外事官殿だけはまったく納得していないようですが、反論を考えているのか親指の爪をしきりに噛んでいます。

 バッチィですねぇ……。

 反論ターンの外事官殿が口を開かないため、円卓に沈黙が流れます。

 ロザリーさんのターンは終わったばかり……となると、この話題を引き出してしまった宮中伯が何か話すかな?

 そう思って彼のほうを見ると、なぜか宮中伯は円卓と逆のほうを向いています。

 そっちには誰もいない……いったい何してるんです?


「――いいだろう」


 とっても低い、威厳ある声。

 え、そっち誰かいました?

 と思ったら、玉座近くの通路から陛下がお出ましになりました!

 円卓のほうへ歩いてきます。

 っていうか、近っ!

 叙任式で騎士章もらうときより近いですっ!!


「しかし、陛下っ」


 外事官殿ったら泣きそうなお顔です。

 それもそうですよね。

 陛下と自分たちが決めるのだ! っていうのが反論の趣旨だったのに、その陛下が許可出しちゃうんですもん。

 私だったら、穴があったら入りたい気分になっちゃいます。

 円卓の近くにお立ちになった陛下は、外事官殿に手のひらをお向けになりました。

 これは「もう言うな」という意思表示です。

 外事官殿はギュッと歯噛みして下を向きました。

 こうなるとあの方もちょっと不憫ですねぇ……。


「ただし――〝骨姫〟。交渉はそなたが行え」


 ……は?

 ええっ!?

 交渉をロザリーさんが?

 そっ、それってどういう意味?

 ロザリーさんを見ると、彼女も驚いているようです。


「私も……皇国との会議に出席せよ、ということですか?」

「そうだ」


 何それ急展開!

 皇国との会議……これは秘書官たる私には大仕事になりそうです!


「よろしいので?」


 と陛下に尋ねたのはコクトー宮中伯です。

 ということは、側近すら知らない、おそらく陛下が今まさにお決めになったということです。

 陛下がお答えになります。


「もとより考えていたことだ。あちらは〝剣王〟やウィズベリアが来なくとも、誰かしら魔導八翼が出席するだろう」

「前例を見てもそうなるでしょう」

「となれば、こちらも大魔導(アーチ・ソーサリア)を出席させねばならん。戦力が均衡していなければ会議に影響を与えかねんし、そもそも外聞が悪い」

「それはそうですが……外事局の案ではレオニードの門で開催するということになっております。かの地にはニド殿下がおられますが……」

「うむ、だがな……」

「ご懸念が?」

「そなたたちは謝罪を要求する相手としてウィズベリアが適当と判断した。同時にそちは〝剣王〟は相応しくないとも言った」

「は。間違いございません」

「レオニードの門は仮にも獅子王国の要害ぞ? 〝剣王〟ならミストラルであろうと来るが、ウィズベリアはどうだ?」

「ッ! それは……」


 コクトー宮中伯の「やらかした!」って顔、初めて見ました!

 なるほど、そうか……。

 円卓の会議で決まったのは〝指名はウィズベリア〟〝ただし、来ないだろうから賠償金をせしめる〟ってことです。

 コクトー宮中伯は〝ウィズベリアはきっと来ない〟と思ってるから場所に関心が向かなかった。

 でもこれ、〝場所が悪いから〟って口実にされかねません。

 外交とは、相手の粗探しの部分もあると聞きます。

 場所を決めたのは王国だから、行けないのは王国の責任。

 そっちが悪いから賠償も払わないよ~ん、なんてことになったら……。

 こうなるとポンメドックナハラック総代の「五分五分」って見立てがもっと悪くなっちゃいます。

 陛下が続けます。


「ウィズベリアを呼ぶのなら王国領土外。国境線の緩衝地帯が妥当であろう」

「……仰る通りかと」

「ニドはレオニードの門から動かせぬ。ヴラドも西方が不安定なうちは動かしたくない。獅子侵攻で王国に鞍替えしたグウィネスは、もとより会議には出せぬ。となれば、自由に動かせる大魔導(アーチ・ソーサリア)は〝骨姫〟しかおらぬ。それに……ロザリー卿の出席は会議に有利に働くと思わぬか?」


 陛下の問いを受けて、コクトー様が陛下の意図を考えます。


「……白薔薇ルイーズの忘れ形見をこの目で見たい。そう思う皇国騎士は、なにも〝剣王〟だけではない……ということでございましょうか」


 陛下が満足げに頷きます。

 そうか、たしかにそうです。

〝剣王〟ロデリックが協定破りまでした理由は、ロザリーさんを自分の目で見るため。

 同じような皇国の方は他にもおられるかもしれません。

 もしそうなら、ロザリーさんの存在は交渉を有利に進めるカードとなるでしょう。

 円卓から異論は出ず、ロザリーさんの意見は通ったようです。

 ……まあ通ったというか、陛下の鶴の一声が出た時点で決定なのですがね。

 同時に皇国との会議出席も決まり、これは私も忙しくなりそうです!

 陛下がお出ましになった通路にお戻りになり、それを円卓の一同が起立して見送ります。

 陛下のお姿が消えてちょっとしてから、皆さんお帰りの準備を始めました。

 初の要職者会議もようやく終わり。

 ふぅ、疲れました……。

 ふと見ると、ロザリーさんがシャハルミド院長に小さくお辞儀していました。

 援護射撃のお礼ですね。

 お爺ちゃんはというと、抱いたレポートを叩いて笑みを返します。

 もう、にっこにこです!

 袖の下の効力、恐るべし!

 あ、でも、お爺ちゃんが指を一本立てました。

 一度だけ。

 今回だけの協力で、借りは返したぞ。

 そんな意味でしょうか。



 PM 2:00 昼食

 会議が長引き、とっても遅めの昼食。

 黄金城(パレス)の職員食堂を使わせてもらうことができました。

 ここのごはんは超絶品!

 王都守護騎士団(ミストラルオーダー)に移って唯一後悔しているのがこれです!

 二人きりの昼食でうきうきだったのに、偶然ベルさんが!

 当然ながらロザリーさんが一緒にどうかと誘います。

 くうぅ、腹立たしいですが……ベルさんなら仕方なく許しましょう。

 ……それにしてもこの二人、何だか前より距離が近くありません?



 PM 4:00 団長室

 会議の疲れもあって、ちょっとゆっくりし過ぎました。

 三人揃ってデザートまでいきましたからね……腰回りがパッツパツです。

 制服、一つ上のサイズにしようかな?

 これから来客が一件、報告が一件、予定が入っています。

 どちらもロザリーさんにとって大事な予定です。

 そのせいかロザリーさん、落ち着かないご様子。

 座ったり立ったり繰り返したり、デスクを指で叩いたりしてます。

 私はというと、満腹からくる睡魔と戦っていました。

 そして待つこと、十五分。

 睡魔に敗北寸前のグロッキー状態だった私は、強めのノックの音で目が覚めました。

 まずは来客の方が来たようです。


「どうぞ」


 ロザリーさんの声に反応して扉が開かれます。


「よう。ロザリー。ロロも」


 そう。来客とはグレン君です。

 王都を旅立つ日が決まり、別れの挨拶に来たのです。

 ロザリーさんが席を立ち、彼を出迎えます。


「いつ出るの?」

「明日。夜明け前に出る」

「……そう。じゃあ、本当にこれが最後ね」

「大袈裟だな。一年後には戻ってくるさ」

「うん」

「じゃあな」


 そう言ってグレン君はもう出ていこうとしています!

 はああ!?

 別れの挨拶、それで終わりですか!?

 グレン君、あなたロザリーさんがどれだけソワソワしながら待ってたか、わかってますか!?

 一方のロザリーさんは気にしていない様子。

 グレン君を笑って見送っています。

 でも後ろから見ていた私には、ロザリーさんの背中がとても寂しげに見えました。

 まるで笑っているのに泣いているような……

 グレン、許すまじ!!

 おお、神よ!

 逆賊グレンに下す鉄槌を我に与えたまえ!!


「――ロロ、聞いてる?」


 お?

 気がつくとグレン君の姿はすでになく、扉は閉まりロザリーさんがこちらを向いています。

 ちょっと自己陶酔し過ぎましたか。


「えと、なんでしょう?」


 私が問うと、ロザリーさんは自分の影を見つめて言いました。


「彼、遅れてるみたい――」


 彼というのは報告者のことです。

 そういえば遅いですね、グレン君より先に来ると思っていました。


「――だから、先に帰っていいわ」

「え、私も残りますよ」

「ううん。もう来ると思うから。お風呂沸かして待っててくれる? あと、軽い晩ごはんも」

「っ! わっかりました!」


 こういうのって、新婚夫婦の会話みたいでうきうきしちゃいますね♪

 ロザリーさんのおはようからおやすみまでを見守る私ロロとしては、何の異論もないご命令です!

 ちょっとだけ、ロザリーさんのお顔が暗い気がするのが気になりますが……。

 ま、それは帰ってから聞くとしましょうか。

 多忙だった一日もようやく終わり。

 これにて日記も終了です!

 ……え?

 家でのことは書かないのかって?

 それは二人だけの秘密です。

 二人だけの……ムフフフフフ……。

ロロ1人称、めっちゃ書きやすいけど話の方向がズレていく不思議……。

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― 新着の感想 ―
これは皇国側も出張らざるを得ない人選 ヘタしたら他の大魔導や皇帝&宰相が来る可能性すらあるか?
結局駐屯地で新団長に復命せず賊退治の仕事もしないアホ共はどうなったんだっけ
話がズレるのも当然、と言うか。ロロはロザリーさんとは、物事の根本が違いますからねぇ。 無くてはならない重要キャラではあるけれど、ロザリーさんの主要な柱、死霊使い・大魔導・家族(母親)に全く引っ掛からな…
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