表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
246/336

243 調査報告

 ハンギングツリー、アンテュラ邸。

 リビングの長テーブルを囲んでロザリー、首吊り公、娘のリタが座っている。


「――それでアンおばさんからチケットを貰って、〝骨姫〟を誘ったんだな?」


 首吊り公にそう言われ、リタは暗い顔で頷いた。


「どう思う、クローディア?」


 階段に座って聞いていた妻クローディアは、夫の質問に首を捻りながら答えた。


「単に世話好きな方かもしれないと思って口出しせずにいたけれど……さすがにおかしいわ。ロザリー卿を誘え、そのためにチケットまで都合するなんて」

「そんなことない!」


 リタが大声で言った。


「アンおばさんはいい人よ! 同級生がつまんないっていう私の話も面白がって聞いてくれるもの!」


 クローディアは困り顔で娘に言った。


「ごめんね、リタ。ママはアンおばさんをそんなふうには見てなかったの。あなたが首吊り公の娘だから、利用するために接触してるのかもしれないと思ってた」

「そんな……! パパもなの!?」


 首吊り公は宙を見上げた。


「パパは少し違うな。アンおばさんは噂好きで周囲にいろんなことを吹聴する人だが、その噂の方向性が市民の不安を煽るような内容ばかりだった。だからどこぞの工作員か扇動者だと考えていた。出身が王国なのは確かなようなので泳がせていたが」

「……!」


 リタは絶句して、顔を伏せた。

 彼女のショックを受けた様子に、ロザリーが言った。


「待ってください、もしかしたらただの偶然かもしれません。だから、まだ決めつけるようなことは……」


 首吊り公が首を傾げる。


「そうか? 酷く臭う(・・)が」

「それは……確かにそうですが」

「その、オズモンドだったか? ミュージアムで会ったのがその人物であるのは確かなのか?」

「はい。あれはたぶん……いえ、確かにオズでした。声を作っていたのでその場では気づかなかったのですが、よくよく思い出してみると行動や歩き方とか、考えれば考えるほどオズなんです」

「ならば作為を疑うべきだ。ハンギングツリーは先日まで戦場だった場所。偶然訪れるような場所ではない」

「オズは殺人事件の容疑者なんです。おそらく西部の僻地に逃げていて、蛮族の侵攻があってハンギングツリーへ逃れて来たんじゃないかと」

「だったら目立たぬよう身を隠すのではないか? 逃亡生活中にわざわざチケットを買ってミュージアムに来るほど博物館好きな人物なのか?」

「ん……博物館好きとは知りませんが、いかにもやりそうな奴ではあります」

「なるほど、変わった奴のようだな」

「だいたい、私とオズを博物館で接触させる意味ってなんです? アンおばさんの目的がわかりません」

「ふむ……では私の思う筋書きを話してもよいか?」

「はい、ぜひ」

「オズモンドは〝覗き魔〟に利用されているのではないか?」

「っ!」


 思わぬ話にロザリーは驚いたが、首吊り公の中では確信めいたものがあるようで、スラスラと話が続く。


「西部の僻地にいたなら〝覗き魔〟からすれば接触が容易いだろう。そしてオズモンドが〝骨姫〟の知己であることを踏まえて考えると――あのとき。覗かれていたのは私と〝骨姫〟の二人ではなく、〝骨姫〟一人だけだったのではないか?」

「私を覗いていた……?」

「私が〝覗き魔〟と表現するのは、あやつから強い興味や執着を感じるからだ。動機が〝骨姫〟への興味なら、オズモンドの役割は自ずと知れる。……〝骨姫〟を釣るエサだ」

「もし、その筋書きが事実なら……私がオズを追うと〝覗き魔〟の思い通りに動いていることに?」

「そうなるな。だが――」


 首吊り公の瞳が、赤く妖しく光る。


「――思い通りにはさせん。逆に釣り竿を持つ〝覗き魔〟を海に引きずり込んでくれる」


 首吊り公の強大な魔導に当てられ、ロザリーもまた〝覗き魔〟に対する戦意がむくりと起き上がった。


「ええ。〝覗き魔〟が私を釣るためにオズを利用しているのなら、それを後悔させてやります」

「……まあ利用と言っても、オズモンドが自ら雇われている可能性もあるが」

「……」

「それもやりそうな奴なのか」

「……はい」

「本当に変わった奴だな」


 そのとき、アンテュラ邸の扉がノックされた。

 クローディアが応対に出ようとしたが、すぐに階段に戻って二階を見上げた。


「エミリア!」


 すると二階から声が響いてきた。


「だって~! 私だけのけ者なんてズルい~!」

「あなたは子供だから聞かなくていいの!」

「リタいるじゃん!」

「リタは当事者なの! とにかくママはここを退かないから! ……鍵は開いていますわ、どうぞ入って~!」


 すると玄関の扉が開いて、足音が聞こえた。

 リビングに入ってきたのはラズレンだった。

 彼は姿勢を正し、話し始めた。


「報告いたします。リセが当該時刻に使用された博物館チケットを調べたところ、使用者不明が一枚。その購入者は楽器屋向かいに住む、アン=ぺネットでした」


 それを聞いたリタは絶句し、再び俯いた。

 首吊り公が言う。


「オズモンドが使ったチケットもアン=ペネットが用意した。出会いは偶然ではなかった。作為は確定だ。ラズレン、続けろ」

「ハッ。オズモンド=ミュジーニャは見つかっておりません。現在、人差し指(リセ)隊、薬指(ロンド)隊で街を捜索中です」

「……もうハンギングツリーにはいないかもしれんな」

小指(フィン)隊に外を捜索させますか?」

中指(ヴァイル)も加えろ。街中の二隊は捜索を継続だ」

「ハッ」

「アン=ぺネットの身柄は?」

「確保してあります」

「お前が尋問しろ。最優先は依頼者であろう〝覗き魔〟の正体だ。急げよ?」

「ハッ!」


 ラズレンは胸に拳を当てて敬礼し、アンテュラ邸から出ていった。

 玄関の扉が閉まる音がして、それから首吊り公が言った。


「……どちらだと思う、〝骨姫〟?」

「オズの居場所ですか?」

「卿はオズモンドをよく知っている。私はそれに乗りたい」


 ロザリーは少し考え、自信たっぷりに答えた。


「街の外です。やたら逃げ足が速い奴なので」

「ようし!」


 首吊り公は膝を叩いて立ち上がった。


「さあ、夜の狩りだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説2巻&コミカライズ1巻 4月25日同時発売!            
↓↓『特設サイト』に飛びます↓↓ 表紙絵
― 新着の感想 ―
オズの悪縁が引き寄せた、2人の大魔導。 はたして、どうなる…?
ロザリーが当然のように首吊り公にオズの事を報告してるのはなぜなのでしょう?下手するとオズが吊るされるというのに
うわ!気付かなかった。 博物館で出会ったのは誘導した結果か。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ