表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/328

199 バウンティハンター骨姫 結

誤字報告、大変助かります!

ありがとうございます!

 痩せた男は手綱を振り、馬を加速させていた。

 小太りな男が手すりに掴まり、慌てた様子で言った。


「おい! まさか突っ込むのか!?」

「それも悪くないな!」

「正気かよ、クソッ!」

「安心しろ、直前で方向を変える! この速度なら奴らはついてこれない!」

「ほんとだな? 大丈夫なんだな!?」

「任せとけって……ッ! 何だッ!?」

「う……うわああっ!?」


 御者台の二人の目の前に、いきなり武装したガイコツの群れが現れた。

 無数の〝野郎共〟はずらりと並び、荷馬車の進行方向の左側を、まるでバリケードのように列をなしている。

 高速で走る荷馬車の右側は涸れ谷。

 左側にはガイコツの隊列。

 進行方向だけは道のように空いているが、その先には正体不明の二人が待っている。

 小太りな男が青ざめた顔で言った。


「~~姫だ、っ」

「何だって?」

「〝骨姫〟だよ! 不死者を操る金獅子だ! お前も聞いたことあるだろう! 悪党を狙って賞金稼ぎしてるって! 俺たち目を付けられたんだ、終わりだ……」

「……チッ!」


 痩せた男はさらに馬を急かした。

 荷馬車は、馬車の限界を超えた速度に到達している。

 ガタガタと激しく揺れる御者台にしがみつきながら、小太りな男が叫ぶ。


「もうやめよう! 降参して命乞いすれば助かるかもしれない!」

「馬鹿なことを言う……!」


 痩せた男はそう言ったかと思うと、慣れた動きで御者台から走る馬の背に移動した。


「お前、何をする気だ……?」


 小太りな男が尋ねるが、痩せた男は聞いてもいない。

 不機嫌な顔で独り言ちている。


ツキ(・・)はとうに雲に隠れてたんだ。わかっていたのに乗せられて、最後の最後で欲張っちまった。俺としたことがよ……!」


 そうぼやきながら、馬が馬車を引くために装着している革製ハーネスを、ナイフでギリギリと切っている。

 何をやっているかやっと気づいた小太りな男が、目の色変えて叫ぶ。


「やめろ!」


 しかし痩せた男は、振り向いて片眉を上げた。

「悪いな。あばよ!」


 ぶつん。

 ハーネスが切れた音がした直後、荷馬車は前に大きく傾いた。

 ガカッ、ガカッと馬車前方が地面に繰り返しぶつかり、土煙が上がる。

 痩せた男は馬を駆り、〝野郎共〟の壁を軽々と跳び越えていった。

 荷馬車は右へ左へと大きくブレて、ついには大きめの岩にぶつかり、涸れ谷の底へ転がり落ちていく。


「あのやろっ……ひいぃぃっ!!」


 横転しながら斜面を転がる荷馬車。

 小太りな男は御者台にひし(・・)と掴まり悲鳴を上げるしかできない。


「うあああああ! ……あ?」


 突如として落下が止まった。

 異変に気づいた小太りな男がゆっくり視線を上げる。

 荷馬車は斜面の途中で止まっていて、その原因は男の目の前にあった。


「あ、あんたは……」


 荷馬車と馬を繋いでいた(ながえ)部分を、黒髪の少女が掴んでいる。

 男が十人以上でやっと持ち上がる荷馬車一台分の重量を、彼女は片手で支えていた。


「ほね……姫っ」


 小太りな男は呻くようにそう言い、観念したのか自分から隠し持っていたナイフを遠くへ投げた。


「許してくれ。命だけは……」

「それは子供の様子を見て決めるわ。……〝野郎共〟!」


 ロザリーが呼ぶと、新たな〝野郎共〟が荷馬車を下から支えるように現れた。

 荷馬車は続々と現れる〝野郎共〟の上で、リレーされながら斜面を上っていった。

 斜面の上まできて、〝野郎共〟がそっと荷馬車を下す。

 すると幌の中からヒューゴが顔を出した。


「全員無事だヨ」

「よかった……! ヒューゴ、ありがとう!」

「礼などいらないサ。さあ、出ておいで?」


 荷馬車から出てきた五人の子供たちを見て、ロザリーはホッと胸を撫で下ろした。

 馬が切り離され、荷馬車がバランスを失ったあのとき。

 ヒューゴは素早く影に沈み、影を渡って荷台部分へと突っ込んだ。

 そして縛られていた子供たちを転がる馬車の中で守ったのだった。


「みんな、大丈夫?」


 子供たちは怯えているのか、猿轡を外した今でも口を利こうとしない。

 するとヒューゴが芝居がかった口調で言った。


「偉い騎士様がお前たちをお救いくださったのだゾ? 聞いて驚け――あの〝骨姫〟様だ!」

「「ええ~っ!?」」


 途端に子供たちの目が輝いた。


「ほんとに?」

「このお姉ちゃんがそうなの?」

「もちろンだとも。胸の騎士章を見よ!」


 ロザリーが慌てて騎士章を取り出して胸に着ける。

 ロザリーの魔導に触れて騎士章が黄金に輝くと、子供たちは歓声を上げた。


「うわ、すっげー!」

「金色だ! ほんとに金獅子なんだね!」


 ヒューゴが満足げに頷く。


「〝骨姫〟様に救われたこと、忘れるでないゾ? 後世まで語り継ぐのだ!」


 すると子供の一人が首を捻った。


「どうしておじさんが偉そうなの?」

「おじ……エッ?」

「偉そうだよね」「うん、偉ぶってる」

「エッ? エッ?」


 事の推移を見守っていたロザリーが、プッと吹き出した。


「慣れないことはするもんじゃないね、ヒューゴ?」

「まったくだ……。おじさんはちょっと傷つくなァ……」

「仕方ないよ、ほんとは五百歳だし」

「ジジイ呼ばわりよりはマシか、ふ~む」

「あの、あっしはどうすれば……」


 そう尋ねてきたのは小太りな男。

 彼は地面に膝をつき、薄くなった頭頂部をこちらに向けて、上目遣いにロザリーとヒューゴを見ている。


「子供、無事だったでしょう? どうかお目こぼしを……」


 ヒューゴは舌打ちして、馬車の中を探り始めた。

 そしてロープを見つけると拾って男へ投げつけた。


「それで自分を縛りたまえ。子供の細腕をきつく縛れるンだ、そのくらい簡単だろう?」

「へえ、でも自分で縛るのって結構難しいような……」


 するとロザリーがじろりと睨んだ。


「――逃げてもいいのよ? 絶対逃がさないけど」

「っ! 縛ります! 縛りますからそんな目で見ないでくだせえ! ええい、この縄め!」


 男がロープと格闘してるのを横目で見ながら、不思議そうに首を捻る。


「何でだろう、この小太りな男、見たことがあるような……」


 するとヒューゴがこともなげに言った。


「忘れたのかい? ごろつきセーロ。アトルシャン騎士団に雇われてた男サ」

「ああ! あのときの! 釈放されてたのね?」

「懲りない男だヨ、まったく」


 セーロのほうは〝骨姫〟がロザリーであることにひと目で気づいていたようで、居心地悪そうに頭を掻いている。

 ロザリーは冷たく言った。


「あの時、見逃したのは間違いだったようね? まさかあなたが根っからの悪党だったなんて」


 するとセーロは口をへの字に曲げ、それから涙を浮かべて抗言した。


「……じゃあどうしろって言うんですかい!? 魔導も持たない皇国人のあっしが王国のど真ん中で放り出されて……どうやって生き延びろと!? 野良犬みたいに残飯漁って、仕事があれば悪事でもやるしかねえでしょう!?」


 セーロの必死な言葉にロザリーは少し戸惑ったが、すぐに首を横に振った。


「だからって子供を攫うなんて許されないわ」


 セーロは静かに俯いた。


「……わかってまさぁ」


 ロザリーがヒューゴに囁く。


「もう一人は?」

「あそこだ」


 ヒューゴが指差したのは、はるか遠く北の外れだった。


「もうあんなところに? 速い……速すぎない?」

「おそらく、馬と親しむ精霊騎士(エレメンタリア)だろう。動物と親しむ精霊騎士(エレメンタリア)は、操るだけでなくその力を引き出すからネ」

「へえ、そうなんだ。惜しかったね、夜じゃなければ逃げおおせたのに……」


 月の明るい夜だったが、それでも夜は死霊騎士(ネクロマンサー)の世界。

 ロザリーの影が夜の荒れ地を泳ぐように伸びていく。


「……捉えた。三号!」


 ロザリーが命じた瞬間、ヒューゴが顔をしかめた。


「三号? 三号でいいのかい?」

「えっ? あっ、つい……」


 痩せた男は馬を駆り、荒れ地を瞬く間に踏破しようとしていた。


「追ってこない……あきらめたか?」


 己の魔導を与えて走らせているが、さすがに馬もバテてきた。

 男が低い声で馬を鎮める。


「ウォウ、ウォウ……ウーィ……」


 馬が速度を緩め、最後には歩く速度――常足(なみあし)となった。

 馬は息を入れ落ち着くと、水を欲しがった。


「川沿いは危ない、水場はないか……」


 痩せた男が左右を見やり、最後に背後を振り向くと。


「ヒッ!」


 気づかぬ間に男の後ろに、自分の頭蓋骨を小脇に抱えたガイコツ――三号が乗っていた。

 三号がゆらりと頭蓋骨を傾げる。


「ドコ行クノ?」

「う、ウッ!?」


 痩せた男は驚いて、馬から転げ落ちた。

 男にとって落馬は初めてのことだった。

 痛む肩を庇いながら後ずさると、馬から降りた三号が同じ速度で追ってくる。


(……ヤバい殺人鬼を逃がしてやったこともあるが……このガイコツのほうが数段ヤバい!)


 痩せた男が何か助かる方法はないか辺りを見回していると、三号が言った。


「オイ。オイ。コッチ向ケ。向イタラ殺ス!」

「どっ、どうすれば……」


 男は視線を彷徨わせながら、交渉に賭けることにした。


「……何でも言うとおりにする。だから、許してくれ」

「ウェッ? 許ス? 許ス??」


 三号は「許す」がピンとこないらしく、しきりに頭蓋骨を傾げている。


「見逃してくれってことだ。このまま俺を行かせてくれたら――」

「許ス? 許スノ? 許サレザル許シタモウ許セナカッタ人……ヨシ、揺ラス」


 そう言うや、三号は頭蓋骨を左右に高速でガタガタ振り始めた。

 痩せた男は恐怖に顔を引き攣らせながら、さらに後ずさった。


「――あの、じゃあ俺はこれで」


 すると三号の「揺ラス」がピタッと止まった。


「……コン畜生ガーッ! 許スワケ無イダロウガ、コンタワケガーッ!」

「ひぃぃぃ!」


 男が這う這うの体で逃げ出すが、三号は一跳躍で男の上に飛び乗った。

 小脇に抱えられた頭蓋骨が、男の耳のすぐ近くで囁く。


「痛クシナイカラ。ネッ? ネッ?」

「やめてやめて……ギャーーッ!!」



 遠くから聞こえた断末魔のごとき叫びに、ロザリーは眉をひそめた。

 ヒューゴが言う。


「アー。捕縛できなかったねェ」

「もう! ちゃんと殺すな、捕らえろって命じたのに!」

「あ、そうなの? じゃあ大丈夫サ。下僕は命令絶対順守。狂っていてもそこは変わらない」

「だといいんだけど……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説2巻&コミカライズ1巻 4月25日同時発売!            
↓↓『特設サイト』に飛びます↓↓ 表紙絵
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ