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184 炎虎襲来―2

連休なので今週は3話更新します。

キリよくベルム終わりまで。

来週ぶんのストックがないけども!

〝樹上の麗舘エンプレス〟が轟音とともに燃え落ちていく。

 オズもベルもレントンも、麗舘の残骸ごと、地表に落下した。


「ぐ、うっ……無事か! ベル! レントン!」


 燃えた柱を押し退けて、オズが立ち上がる。


「ああ……」

「なんとか……っ」


 レントンもベルも生きていて、レントンは焦げた梁をどけながら、ベルはあばらを押さえながら立ち上がった。

 ギョームは少し離れたところで、仁王立ちしてオズたちを眺めていた。


 ギョームは一人ではなかった。

 彼に隠れるように女子生徒がもう一人いて、ギョームと何事か会話をしてから、西の森のほうへ駆け出した。


「あいつ、お前らのクラスだよな?」


 レントンがそう呟いた瞬間、ベルがハッと顔を強張らせた。


「オズ!」

「ああ! わかってる!」


 オズが駆け出し、全速で女子生徒を追う。

 ギョームはニヤリと笑い、女子生徒とオズの間に立ち塞がった。


「チ、お前の相手をしてる暇は――」

「オズ! 構わず行けっ!」


 レントンが水弾が三つ、続けざまに放った。

 一つ目がオズを追い越し、ギョームに当たる。

 ギョームは左腕でガードしてダメージはほとんどなかったが、その腕から異臭がして、顔をしかめた。

 オズが肉薄するタイミングで二つ目。

 オズがすり抜ける瞬間に三つ目。

 ギョームが振り向いてオズを追おうとすると、レントンとベルが同時にギョームに斬りかかった。


「……うちのチーム、こんなに連携良かったのか。真面目にリル=リディル狙えたかもな」


 オズはそう呟きながら、逃げる女子生徒に迫った。

 彼女は走りながら、胸元で何かをしている。

 オズがさらに速度を上げると、女子生徒が一瞬、足を緩めた。


「させるか!」


 ついにオズが女子生徒を間合いに捉える。

 女子生徒は迫りくるオズに(おのの)きながらも、鳥の折り紙を空へ投げた。


「チッ!」


 オズは狙いを変え、空へ放たれた【手紙鳥】へ向けて飛び上がる。

【手紙鳥】はオズの指をかすめて、空へと飛び立った。


「~~っ、クソッ!」


 オズが悪態をつくと、女子生徒は震えながらも不敵に笑った。


「オズ、あなた終わりよ。ジュノーは裏切り者を許さない。きっと普通には殺してくれないわ?」

「ああ、そうかよ」


 そう言い終わらないうちに、オズはピュッと剣を振った。

 女子生徒は首を押さえて倒れ、次第に消えていく。


「ジュノーが来る前に、ギョーム倒して旗を見つけりゃいいんだろ? 上等だよ、やってやるよ!」


 オズが踵を返し、ギョームの元へ戻る。

 ギョームは相変わらず偉そうに仁王立ちしていて、その向こうにベルとレントンが膝をついているのが見える。


「強えってのはほんとなわけね。じゃあ――」


 オズは加速し、ギョームの背中に踊りかかった。


「よい! しょっ! とお!」


 剣、飛び膝、両足蹴りの三連撃。

 最初の剣こそギョームの剣に防がれたが、残り二撃はまともに入った。

 なのにギョームはビクともしない。余裕の笑みすら浮かべている。


「……なんだコイツ」


 不愉快そうな顔で睨みながら、オズが膝をつく仲間の元へ移動する。

 ベルが囁いた。


「【手紙鳥】は?」

「逃げられた」

「そう……援軍が来る前に急いでカタをつけなきゃね」

「急いで、なぁ……。レントン、奴はなんであんなにタフなんだ? 強いつってもロザリーじゃあるまいし」

「炎虎を憑依させてるんだ。顔にうっすらと虎の斑紋が見えるだろう?」

「ああ、言われてみれば……」


 ギョームの顔、そして素肌が見える前腕にも、虎の斑紋が薄く浮かび上がっている。

 体格も、記憶にあるギョームよりもひと回り大きいように見える。


「オズ。さっきの呪詛は使えないの?」

「顎兄さん? あれは痛いからもうやだ」

「こんな時にふざけないで」

「マジな話、連続で使うもんじゃねぇんだ。使ったばっかだと痛みに慣れがあるから効き目が弱まる。今のギョームに効くとは思えない」

「……そう」


 するとギョームが不敵に言った。


「どうした、来ないのか? 三対一でも俺は構わん! 遠慮するな!」


 オズが冷笑する。


「ずいぶん余裕だな? いいのか? こうしてる間にお前らの本拠地が燃え尽きるぞ」

「心配は無用だ! お前らをウェルダンにした後でも十分間に合う!」


 オズは目を細め、仲間たちに囁いた。


(コイツ……アランが生きてることに勘づいてる)


 二人は頷き、立ち上がった。


「三人同時に行くわよ」

「さっき、剣は防いだからな。いくらタフでも刃物は通るんだ」

「前々からムカつく野郎だと思ってたんだ。ギッタギタにしてやるぜ」


 三人はジリッ、と機会を窺い、何の合図もなくぴったり同時に駆け出した。


「喰らえ!」


 レントンが駆けながら、水弾を連射する。

 対するギョームがマントを翻すような動きをすると、紅蓮の炎が立ち上がり、水弾をたちどころに蒸発させた。

 蒸発で起こった異臭を放つ煙の中から、オズが姿を現す。


「行くぜ!」


 持ちうるすべての魔導を込め、ギョームへ剣を振る。

 対するギョームは右手の指を大きく開いた。

 手の甲に浮かぶ腱や骨が蠢き、指が大きく、爪が長くなる。


「ガルアアアァッ!!」


 虎のように呻ったギョームに、オズは一瞬、怖気づいて身体を引いた。

 その胴体に燃える爪痕が走る。


「っ、ぐッ!」


 深手を負い、地面を転がって逃げようとするオズ。

 その彼の背中を、ギョームの足が重く踏みしめる。


「ぐああッ!」

「こっちだ、虎野郎!」


 今度はレントンがギョームに飛びかかる。

 レントンは剣を抜いておらず、ギョームと同様に爪を立てて、ひっかくように腕を振った。


「フン! 毒爪か!」


 ギョームは己の爪で迎え撃った。

 打ち負けたレントンの腕がズタズタに切り裂かれる。


「チィィッ!」


 それでもレントンは残った腕で攻撃しようと試みた。

 が、その前にギョームによって首を掴まれた。


「毒沼の精霊騎士(エレメンタリア)。鼻つまみ者が図に乗るなよ?」


 宙吊りになったレントンの首に、虎の爪が食い込んでいく。


「ぐ……」


 レントンはもがき、しかし次第に白目を剥いて脱力していく。

 宙吊りのレントン、踏みしだかれるオズ。

 その姿勢のまま、ギョームは叫んだ。


「ベル! 首を出せ!」

「!」


 ベルが身体を硬直させる。


「俺が恐いんだろう? だからお前だけは斬りかかってこなかった。怖気づいたんだ!」

「そんなことない!」

「お前は度胸がない。裏切ったのも、どうせオズかレントンに唆されたんだろう?」

「違う!」

「いくら否定してもお前の行動が示してる。心の中ではわかっているはずだ。お前は弱い女だ。ひと思いに楽にしてやる」

「~~っ!」

「ベル、首を出せ。このくらい役に立って見せろ」

「……勝手に私を語るなッ!」


 ベルは腕を交差させ、両手のひらで顔を覆った。

 指の隙間からギョームを睨みつけ、低く唱える。


「訪れる必然。不可避なもの。紡ぎ、計り、断ち切る。お前は見てはならぬものを見るだろう」


 地面にうつ伏せのオズの身体に悪寒が走る。


(これは……呪詛か!? マズい、ベルを見ちゃいけない!)


「……【死面(デスマスク)】」


 オズが必死に視線を逸らしたその瞬間、ベルの呪詛がギョームの身体を捉えた。


「あ? お、オ、オォ……」


 ギョームは視点が定まらなくなり、上ずった声で呻いている。


「今よ、オズっ!」

「無茶を言う……背骨やられて動けないってのに!」


 オズは腰の道具袋を探り、小瓶を取り出した。

 それは薬学が苦手なオズが、失敗の連続のうちに作り出した毒薬だった。

 オズは下から思い切り、ギョームに小瓶を投げつけた。

 小瓶が割れて、内容物がギョームの上半身に飛散する。


「ウグアアァァアッ!?」


 空いた手で目を押さえ、足掻き苦しむギョーム。


「レントン、頼むッ!」


 その瞬間、レントンの瞳に光が宿る。

 自分の首を掴むギョームの手を振り解き、体を捻って左手で鞘から剣を引き抜く。


「う。ウオオオオッ!!」


 ギョームの胸に剣先を刺し、全体重を乗せて深く、深く刺し込んでいく。

 ギョームは腕を振るってレントンを吹き飛ばすが、剣は深々と刺さったまま。

 誰もいない宙に対して二度、腕を振り、三度目を振りながらギョームは倒れた。

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― 新着の感想 ―
そうか、レントン。毒沼の精霊騎士…。 水と毒を操れる有能さと、鼻つまみ者として嫌われる印象の悪さを合わせ持っていたから、変にひねくれて嫌な奴になってた訳か。 極めれば、真っ当な騎士になれるだろうに。…
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