表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/332

180 ロザリー✕グレン


【あとがき】におしらせがございます。


「あわわ……やっば!」


〝黄金船アルゴ〟、甲板。

 船下の戦いを覗き見ていたピートが、腰を抜かしてうずくまる。


「何なんだよ……。あんなの違いすぎるだろ……テレサたちが一瞬で……本気のロザリーってこんななの? 勝てるわけないじゃん!」


 意志に反してガチガチと鳴る歯を手で覆って無理やりに閉じる。

 息を吸い、唾を飲み込んで、ピートが自分に言い聞かせる。


「まだだ。まだ負けてない。そうさ、初めからこれで勝てるなんて思ってない。グレンだ、俺たちは強化かけまくったグレンで勝つんだ」


 ピートは「よし!」と頷き、立ち上がって甲板から叫んだ。


「グレン! これだけ準備したんだ、負けたら承知しないからね!」


 するとロザリーの瞳がキロッとピートを睨んだ。


「ヒッ」


 短い悲鳴を上げて、ピートがまたうずくまる。


「やれやれ」


 グレンが甲板を見上げ、頭をかいた。

 そしてそのままロザリーの元へ歩いてくる。

 聖文術(ホーリーワード)の合唱は終わっていた。

 ロザリーに妨害されたからではない、役割を終えたからだ。

 集団へ向かうはずだった聖文術(ホーリーワード)の強化のすべてが、聖紋を通してグレンの中に収まっている。

 肩甲骨から生えた翼状の光の束は健在で、彼に刻まれた数多の紋様が薄く光っている。


「待ったか」


 グレンに問われ、ロザリーは首を横に振る。


「ううん、全然」

「覚えてるか、校舎裏の決闘」

「あー。あったね、そんなこと」

「あれからだ。あれから俺はお前を追い続けてきた」

「追いついた?」


 ロザリーが悪戯っぽく微笑むと、グレンも笑って首を横に振った。


「いいや。まったくお前はどこまで先を行ってるんだか」

「遠く見えて案外近いかもよ?」

「かもしれない。だが卒業までに、ってのが無理なのは剣技会で身に染みた。だから、人に頼ることにした」

「みたいだね」

「軽蔑するか? 他力本願だと罵ってもいいんだぞ?」

「しないよ。あのグレンが人を頼るんだから、本気なんだなって思ってる」

「そうか。……あいつが」


 グレンが親指で〝黄金船アルゴ〟甲板を指差す。


「ピートが団長だ。あいつを殺ればお前の勝ちだが?」

「殺らないよ。それじゃ何のために本拠地ほっといて出てきたかわからないもん」

「俺とウィニィを倒すためか」

「ええ、そうよ」


 それを後ろで聞いていたウィニィは心中でガッツポーズした。

 しかしそれをおくびにも出さず、厳しい口調でグレンに言った。


「グレン。お喋りの時間はないぞ」

「わかってる。ロザリー、この状態(天使化)は長くはもたない」

「私も時間はないの。なんたって本拠地落ちそうだから」

「そうだったな。……そうか、落ちたらロザリーも消えちまう」

「そういうこと」

「じゃ、やるか」

「ん。やろう」


 途端、二人の目の色が変わる。

 両者の魔導が、弓のつるを引き絞るように圧縮され、研ぎ澄まされていく。


「はあッ!」

「オオッ!」


 声は同時だった。しかし――。


(初動で負けた!?)


 ロザリーは全力だった。

 なのにグレンが一歩先を行き、剣を振り下ろしてくる。

 目標をグレンの剣に変え、力を込めて迎え撃つ。

 ガチィィィン!

 と鋭利で硬質な音が空気を切り裂く。


(しかも力負け!?)


 体勢を崩したのはロザリーだった。

 膝をついて見上げる視界の中に、グレンの手の甲に聖紋とは別の刻印を見つける。


「さらにルーンで上乗せしてるの!? ズルっ!」

「何がズルいか!」


 グレンの追撃が来る。

 ロザリーは咄嗟に叫んだ。


「〝野郎共〟ッ! 私を攫え!」

「何ッ!?」


 影から溢れ出た無数の〝野郎共〟が、一瞬のうちにロザリーを包み込んで彼女の影へと引き込んだ。

 グレンの追撃は〝野郎共〟の何体かを切り裂き、その後、空を斬った。

 その場に水たまりのように残ったロザリーの影は、次第に薄くなり消えていった。

すると近くの岩山の影から、〝野郎共〟に抱え上げられるようにしてロザリーが現れた。


「……お前のほうこそズルくないか?」

「ビックリしたの! 力負けしたのなんて初めてだもん!」

「へえ、そうかい」


 グレンが再び、魔導の弓のつるを引き絞る。

 一方ロザリーは、応じてみせながら戦い方を考え直していた。


(〝野郎共〟使って影移動。賭けだったけどできたな。死なない(・・・・)ベルムで試せてよかった)

(グレンが使えるルーンって、あと何があるんだろう)

(身体能力強化なら、まあ対応はできる)

(それ以外は……わかんないな。わかんないから対応策もない。こういうときは――)


「――こっちから攻める!」

「!」


 グレンが斬りかかる構えから、迎え撃つ体勢へと変化する。


(グレンは迎撃のとき、いつもその構えよね?)


 重心をしっかと落としたのを見計らって、ロザリーが叫ぶ。


大喰らい(グラットン)!」


 叫びに応え、岩山の影がぶるりと波打った。


『グモオオオォォ!!』


 ロザリーの背後から飛び出し、彼女を追い越して空から降ってくる大喰らい(グラットン)

 辺り一面が真っ暗になるほどの巨体。

 重心を落としていたグレンは、即座に飛び退くタイミングを失った。

 しかしグレンは、呆気に取られて見上げたりはしない。

 ロザリーから目を切らず、彼女の動きを観察した。


(スピードを緩めた。俺がデカブツを避けようと動いたところを斬るつもりだな?)


 ロザリーの目論見を察したグレンは、さらに腰を落とした。


「フウウウ……」


 強化された魔導がさらに高まり、それによって光の翼が大きくなる。


『グモオオオォォォ!!』

「オオオオッッ!!」


 落ちてきた巨体の口先を、グレンは渾身の一撃でかち上げた。

 大喰らい(グラットン)は嫌がって口先を背け、巨体を翻して岩山の影に飛び込んだ。

 影が波打ち、時化の海のように荒ぶる。


「嘘でしょ……」


 呆気にとられたのはロザリーのほうだった。

 そこへグレンが迫る。

【星のルーン】を宿し、一気に距離を詰める。


「……むっ?」


 グレンは違和感を覚えた。

 ロザリーは突進するグレンに気づかず、その場にとどまっている。


(気づかない? ロザリーが?)


 そこでグレンが、ハッと地面を見る。

 ロザリーの影が、自分の足元まで伸びている。


(影だ。影を踏んではならない!)


 グレンは足取りを乱してでも、影を踏まかった。

 結果、突撃の方向を変え、飛び退く形になった。

 その様子にロザリーが言う。


「慎重ね、グレン」

「……未だに夢を見る」

「夢?」

「アトルシャンの黒犬の夢だ。圧倒的な実力差。奴の戦い方、考え方。魔導ではロザリーが勝るのに、奴はお前を追い詰めた。夢の中で俺は、奴の動きを何度もなぞった」

「へぇ……。そうなんだ」

「もちろん、攻略法も考えてある」


 グレンはそう言うや、ウィニィのほうを振り返った。


「ウィニィ! 例の奴を頼む!」

「ああ! わかった!」


 ウィニィが頷いたのを見て、グレンがもう一度、ロザリーに向けて突進する。


「同じことを……」


 ロザリーが再び、迎え撃つために間合いの外から影を伸ばす。

 すると――。


「「光、あれ!」」


 グレンの背後で、ウィニィがロザリーもよく知る聖文術(ホーリーワード)を唱える。

 しかしそれは馴染み深い【灯火(トーチ)】ではなく、集団で唱えることで強烈な光を放つ【閃光(フラッシュ)】だった。


「~~っ!」


 ロザリーの伸ばした影が、光によって後退、あるいは消え失せる。

 グレンは影を気にせず、悠々とロザリーの元へたどり着いた。


「どうだ! これが影の攻略法だ!」


 グレンが振り上げた剣を前に、ロザリーは自分の胸元に手を伸ばした。

 そしてニッと笑い、シャツのボタンを引きちぎる。


「ッッッ!!!」


 何度も夢に見た光景。

 黒犬の最期がフラッシュバックする。

 グレンは慌てふためき、後ろへ飛び退いた。

 そこへ間髪入れず、ロザリーが飛びかかる。

 ギィィィン!

 と刃が鳴り、鍔迫り合いになる。


「繰り返しのお勉強も考えものね、グレン?」

「く、ググ……ハッタリか!」

「ううん。あの時と同じように(しもべ)を出すこともできた。グレンは察して逃げると思ったから出さなかっただけ」

「くッ……」

「力負けしてるよ? ルーンはどうしたの? もう使わないの?」

「……ッ」


「答えてあげる。あれって足し算(・・・)じゃなくて掛け算(・・・)なのよね? 天使化の状態で倍率掛けたから、私の魔導を上回ることができた。でもそれは、想定以上の負荷だった。そもそも魔導を無理やり上げているのに、さらに上乗せしたから身体がもたなくなった。制限時間も、もう残ってないんじゃない?」


「……なめるなよ、ロザリィィィ!!」


 グレンの手の甲に【獅子のルーン】が再び宿る。

 ロザリーの剣を力任せに押し返し、彼女を押しやった。

 と同時に、グレンの目の(ふち)や鼻からドロリとした血が流れ出てきた。


「苦しいね。終わらせてあげる」


 ロザリーはヒュンと剣を空で振り、グレンに斬りかかった。

 グレンの身体は確かに限界を迎えつつあった。

 しかし聖紋の力は未だ健在で、彼の動体視力もまた、強化された状態のままだった。


(ッ、ほんとになめてるのかッ!)


 ロザリーの振りは美しさを感じるほどだが、見切れぬ鋭さではない。

 これを弾いて、最後の一撃を加える。

 そのために彼女の振りに合わせて力を溜め、タイミングを合わせてその剣を打ち落とすべく動き出した、まさにそのとき。


「――二号、三号、四号」


 ロザリーの胸元の影から、二号がぬるりと這い出してきた。

 気づけばロザリーの影が伸びていて、グレンの足元から三号が、そしてグレンの背後から四号が飛び出し、斬りかかってくる。

 ロザリー自身の振りはまったく乱れなく、変わらず迫ってくる。

 正面二方向、下方、背面からの同時攻撃。


(避けようが、ない!)


 グレンは瞬時に決断した。

 首を狙う二号の大鋏が、わずかに避けたことによって鎖骨近辺に深々と突き刺さる。

 三号の噛みつきはそのまま太ももで受け、四号の後ろからの刺突が腹から突き出る。


「グッ! ロザ……!」


 ロザリーだけを迎え撃つために、すべてを身に受けたグレン。

 しかし――。


「ごめんね、グレン」


 ザグッ。

 ロザリーのひと振りは、容赦なくグレンの肩口から入り、心の臓に達した。


「……ロ、っ」


 グレンは薄く名を呼び、それを最後に目の光が消えた。

 ロザリーが剣を引き抜くと、グレンは仰向けに倒れた。

【書籍化のご報告と今後の予定】


『骨姫ロザリー』が書籍化することになりました!


レーベルはオーバーラップ文庫様!

5月末に発売予定です!

詳細はまた追ってお知らせできればと思います。


……で、なのですが。

1月の活動報告で申し上げた『騎士編』の調整が、書籍化作業もあって見通しが立っておりません。

なので少し予定を前倒しして、来週から週1話更新にいたします。


今後の進行予定は

べルム(あとちょっと。残り3~4話?)

↓↓↓

べルム打ち上げ等

↓↓↓

卒業式?

↓↓↓

騎士編突入

となっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説2巻&コミカライズ1巻 4月25日同時発売!            
↓↓『特設サイト』に飛びます↓↓ 表紙絵
― 新着の感想 ―
グッドゲーム、グレン。 略して(?)、GGG。
[良い点] 書籍化!おめでとうございます!!
[良い点] 遂に書籍化!! おめでとうございます! [一言] 死なないベルムだからこその大量強化戦法 けどこの強化戦法も限定すれば死がある現実世界でも使えそうですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ