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122 新生ロザリー派

 成績を確認した五人は、その足で作戦本部へと向かった。

 旧校舎に入ると、廊下の先――備品倉庫の前に、何やら人が集まっている。

 昨日、見学に来た赤クラス生たちだ。

 ルークが指差し数える。


「ひー、ふーみー……三十七人! アイシャもいるねー!」

「意外だね。あんなことがあって、すぐ顔見せるなんて」


 ロザリーがそう言った瞬間、ラナはロザリーの後ろにスススッと身を隠した。

 廊下を歩いていくと、彼らもこちらに気づいた。

 アイシャが前に出てきて、先頭を行くロザリーに対して手を差し出した。


「私たち、あなたに付くわ。入れてくれる?」

「もちろん! 歓迎する!」


 ロザリーは満面の笑みを浮かべて、アイシャの手を固く握った。


「来てくれると思わなかった。昨日、あんな感じだったしさ」

「実はね……昨日、見学に行く前には決めてたんだよね。ロザリーに付くって」

「えっ、そうなの?」

「でも見学の話が来たから、見てから判断でもいいかなって。……試すようなことして、ごめんね」

「全然、全然。私だってそうすると思う」


 ロロがぐっ! とこぶしを握った。


「これで四十三名! やっと派閥らしくなってきましたね!」


 ルークがにんまり頷く。


「さっきまで五人きりだったのにね。あ、オズもいるから六人か」

「オズ君、まだ寝てるんですかねえ。いくら個室の居心地がいいからって、ぐうたらしすぎです」


 そう文句を言うロロに、女子生徒が声をかける。


「ねえ、ロロさーん。約束の合言葉、教えてー」

「あ、はいはい、ただいま!」


 備品倉庫の扉を囲む輪の中に、ロロが入っていく。


「なんて言ったの?」「るなるな?」「なんでルナール?」


 などという声が幾つも聞こえ、それから備品倉庫の中へワイワイ入っていく。


「あの、アイシャ」


 ラナがロザリーの後ろから出てきた。


「昨日は、ごめんね?」


 アイシャは何も言わない。

 ラナは指をもじもじ触りながら、絞り出すように言った。


「でも、その、晴れて仲間になったわけで。だから、その、これからは仲良く――」


 ラナが話している途中で、アイシャはふいっと背を向けた。

 そのまま備品倉庫の中へと入っていく。


「あう」


 泣きそうな顔のラナ。

 ウィリアスが励ますように言った。


「気にするな。時間が必要なのさ」


 ロザリーがラナの頭を乱暴に撫でる。


「そうそう。自分から謝れるなんて偉い。見直した!」


 ラナはロザリーの手を邪険に払い、


「同い年のくせに、子ども扱いしないでよ!」


 と言って、備品倉庫に向かった。

 励ましてもらったからか、それとも朝食の時の心配が杞憂に終わったからか。

 ラナの背中は、どこか嬉しそうに見えた。

 とにかく、こうして大きくなった新生ロザリー派はスタートした。



 ――スタートしたのだが。


「暇だ~。暇だ~」


 その日の昼下がり。

 作戦本部のリビング。

 オズがソファの上に寝転び、足をバタつかせている。


「寝坊してきたくせに、うるさいですねえ」


 ロロが忌々しげにそう言うと、オズが口を尖らせた。


「寝坊に入んねーよ。次の試験、始まんねーんだからさ」

「始まってますよ。順番を待ってるだけで」

「それ始まってねーのと同じだよ。これ、いつまで待機してりゃいいんだ?」


 ロロが宙を見上げる。


「さっき昼食のときに小耳に挟んだ話だと、青のクラスの半分が終わったそうです」

「ほ~ん。で、いつになるんだよ」

「赤のクラスは最後ですから……三日後くらいですかね?」


 オズが飛び起きる。


「は!? 冗談だろ!? それまでずっと待機してろっていうのか!」

「私に言われましても……」

「ったく……何でそんな時間かかるんだよ。魔導量を計るだけだろ?」


 そう言って、オズは再びソファに倒れ込んだ。

 第二の試験は魔導量計測。

 その名の通り、生徒各人が有する魔導の量を計る試験だ。

 魔導騎士は魔導量が多いほどに身体能力が向上するので、世間一般でいう体力測定と同じ意味合いを持つ。


「仕方ないのさ」


 そう言ったのは、ウィリアス。

 彼は壁に向かって瞑想し、魔導を巡らせる訓練をしている。


「計測に使う高純度魔導鉱(ソーサライト)は貴重だ。ソーサリエには一つしかない。だから一人ずつ、時間をかけてやるしかないんだ」

「んなもん、あらかじめ複数用意しとけよな」

「馬鹿を言うな。あれ一つでミストラル上層に大邸宅が建つ」


 オズがまた飛び起きる。


「マジか!」


 ウィリアスが薄く目を開ける。


「……オズ。盗むなよ?」

「ぬっ、盗むか!」


 ウィリアスはフッと笑い、再び目を閉じた。

 オズはため息をつき、部屋を見回す。

 新しい仲間たち三十七人は半数が個室に入り、残りはソファや絨毯の上、螺旋階段などそれぞれの場所に座っている。

 雑談している者は少なく、どことなく雰囲気は暗い。

 ラナ以外は同じクラスなのだから、打ち解けていないというわけではない。

 原因は、この場にラナとアイシャがいるからだ。

 ラナはリビングの端で魔導具のカタログを、アイシャはその反対側の端で魔女術(ウィッチクラフト)辞典を読んでいる。

 二人の間に流れる微妙な空気が、新たに加入した者たちにも伝染しているのだ。

 その空気を振り払うように、オズがパン! と手を叩く。


「そうだ、ロザリー! みんなで食堂にお茶しに行こうぜ!」


 誘われたロザリーは、とても迷惑そうな顔をした。


「さっきお昼ごはん食べたばかりじゃない」

「じゃあ、みんなで街に繰り出すか!」

「冗談やめて。試験期間中は、親が危篤でも外へ出るなって言われたでしょ」

「じゃあどこでもいいからさー」

「みんな我慢してるの。静かになさい」

「……暇だー! 暇だー!」

「うっさい、オズ!」


 ロロが深いため息をついた。


「オズ君。昨晩やっていたという研究の続きをしてはどうですか?」


 オズは首を横に振った。


「あれは夜やるって決めてんだ」

「オズ君って夜型なんですか?」

「そうじゃないけど。あの研究は夜じゃないと身が入らないんだ。雰囲気でないっつーか」

「ほう。何の研究なんです?」

「呪詛」


 その言葉を聞いたラナ以外の者たちが、一斉にギョッとしてオズを見る。


「それは危険です、オズ君! すぐにやめてください!」


 ロロがそう言うと、皆が口々に同様のことを言い始めた。


「そうよ、危ないわ」

「授業で教えない意味考えろよ」

「やめときなって!」

「何かあったらどうすんだよ」

「何かあるに決まってる、お前はオズなんだから」


 オズは頭をガシガシと掻いた。


「危険なのはわかってるよ! 呪殺には手を出さねーし!」

「しかしですね、オズ君!」

「あいつらはやってくると思うんだよ」

「……あいつら?」

「ジュノーとか、グレンとか。ウィニィはわかんねーけど。授業でやってない術を用意してくると思わねえ?」

「それは――」


 ロロが口ごもると、ウィリアスが代わって答えた。


「――やってくるだろうな」


 オズがにんまりと笑って、ウィリアスを指差す。


「ウィリアスが今さら基礎魔導訓練やってんのも、最終試練(ベルム)に向けて少しでも魔導を底上げしとこうって腹だろう? 俺は呪詛を選ぶ。それだけの話さ」

「そんな考えが……」


 ロロはまだ不服そうにしながらも、一応は頷いた。


「……でも。だったらなおのこと、日中も暇だ暇だ言ってないで呪詛の研究したらどうです?」

「だーかーらー。昼間は身が入らないんだよ。呪詛って闇って感じじゃん? やっぱ夜じゃん?」

「そういうものですかねえ」


 話が一段落すると、新加入の女子生徒が数名、ロザリーの元へやって来た。


「ね、ロザリー。昨日の訓練場、使ってもいいかな」

「もちろん。何するの?」

「剣の訓練。最終試練(ベルム)もいいけど、その前に戦闘実技試験――剣技会でしょ?」

「ああ、たしかに」

「本番まで一週間ちょいあるからさ、みんなでちょっとでも練習しとこうかなって」

「うん、そういうことならどんどん使って」

「ありがと。でね?」


 女子生徒はくるっと振り返り、リビングの端のほうを向いた。


「ラナ。稽古に付き合ってくれない?」


 突然呼ばれたラナは、驚いて自分を指差した。


「わ、私!?」


 ラナの視線が部屋の反対側にいるアイシャへ向かう。

 しかしアイシャは、本に目を落としたまま。

 すると女子生徒が言った。


「アイシャは気分じゃないみたい。だから、ね?」

「でも、ロザリーもいるけど……?」


 女子生徒が苦笑した。


「ロザリーじゃ実力差ありすぎて訓練にならないよ」


 ロザリーがちらりとラナを見る。


「ラナ。嫌なの?」

「そんなこと!」

「じゃ、グダグダ言ってないで行ったら?」


 ラナは口を真一文字に結び、こくっと頷いた。

 オズが膝を叩いて立ち上がる。


「よっしゃ! 俺も付き合ってやるか!」


 ラナが邪魔者を見る目で彼を見る。


「……いいけど。あなたには手加減しないから」

「ハッ! いい度胸だな!」


 ラナと女子生徒たちが訓練場へ向かっていった。それを追いかけるオズが、訓練場の手前で振り向く。


「ウィリアス、お前も来い!」


 ウィリアスは瞑想したまま、その言葉を無視した。

 するとオズが言う。


「その瞑想でどれだけ魔導が増えた? いいから来い、俺が胸を貸してやる!」


 そう言い残し、オズも訓練場の扉の奥へ消えた。

 扉が閉まってしばらくして。

 ウィリアスはふーっと息を吐き、「吠え面かかせてやるか」と呟き、立ち上がった。

 そしてふと、赤い髪の彼女を見る。


「アイシャもどうだ?」


 アイシャは本に目を落としたまま、首を横に振った。


「そうか」


 ウィリアスは腰を上げた。


「気が向いたら、俺の相手をしに来てくれ」


 アイシャは今度は、首を縦にも横にも振らなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 将来、背中を任せ合う仲間になりそうな、良い雰囲気が出て来ましたね!
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