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121 筆記テスト結果

 翌朝。

 カフェテリア〝若獅子〟。

 ロザリー・ロロ・ウィリアス・ルークの四人が円形のテーブルを囲み、朝食をとっていた。

 黒パンをもそもそと食べながら、ルークが問う。


「ロザリー。オズはー?」

「眠いって。昨日、深夜まで個室で研究してたみたい」


 ウィリアスが怪訝そうに言う。


「研究? あのオズが? 筆記テストも終わったというのにか? 何かやらかす前に突き止めたほうがよくないか?」


 するとロロが、目玉焼きを丁寧に切り分けながら言った。


「考えるだけ無駄ですよ。オズ君の頭の中は、霧がかってて見通せませんから」


 するとそこへトレーを抱えたラナがやって来た。


「一緒にいい?」

「ええ」「もちろん」


 ロザリーとウィリアスが頷くと、ロロとルークがそれぞれ避けて、ラナに場所を作った。


「ありがと」


 ラナは空いた場所にトレーを置き、席に着いた。そしてそのまましばらく逡巡し、意を決して口を開く。


「みんな……昨日はごめん!」


 そう言って、テーブルに額が触れるほど頭を下げた。


「いいって」


 と、手を振るロザリー。


「気にすることないですよ」


 とは、ロロ。


「だいじょぶ、だいじょぶ」


 と、ルーク。


「俺こそ悪かった。気を回しておくべきだった」


 と、ウィリアスが詫びた。

 ラナは口をへの字に曲げて、途切れ途切れに言う。


「でも……これでアイシャが来なくなったら……他のみんなも……」


 それには誰も、何も答えなかった。

 十分にあり得ることだし、四人にとっても不安なこと。

 そして今さらどうにもならないことだった。

 ロザリーがラナに言う。


「食べよう。冷めちゃう」

「……うん」



 食事を終えた五人は、一緒に食堂を出た。

 すると出てすぐの辺りから、妙に込み合っている。


「何でしょう、この人だかり。さっきまでなかったのに……」


 ロロの疑問に皆、首を捻る。


「今日、何か催し物(イベント)あったっけ?」


 とロザリーが言うと、ウィリアスが笑った。


「卒業試験期間中にイベントはないだろう」

「じゃあ、何?」

「わからない」


 五人は人だかりの()を探し、歩いていった。

 ()はすぐに見つかった。


「掲示板ですね」


 カフェテリア〝若獅子〟の二階は、学生課になっている。

 ソーサリエとして学生へ伝えるべき連絡事項は、すべて学生課を通して下りてくる。

 ではどうやって学生たちに伝えられるかというと、学生課の下――つまりは食堂の外壁に設置された、大型掲示板によってである。

 教官を通して言付けたり、寮の掲示板も合わせて使うこともあるが、大型掲示板がメインの連絡手段だ。

 ロザリーがため息を漏らす。


「見えないなあ」


 大型掲示板の周りはぎゅうぎゅう詰めの人混みとなっていて、とても近づけない。

 三年生が大半だが、一、二年生の姿も多くある。

 やたら込み合う原因は、掲示板の閲覧者がなかなか動かないことにあるようだ。

 掲示板を指差したり、近くの生徒と抱き合ったりして、誰もが興奮気味に話しこんでいる。


「気になりますね、何が書いてあるんでしょう。……ロザリーさん。一発、大ジャンプして見てください」

「嫌だよ、悪目立ちするじゃん」


 するとウィリアスが隣のルークに目配せした。

 ルークは「りょーかい!」とウィリアスに向かって敬礼し、人混みへ突入した。


「え、ちょっと。ルーク、大丈夫?」


 ロザリーが心配するが、ウィリアスは涼しい顔。

 次の瞬間、ロロが指差した。


「あっ! ルーク君、もう、あんなところに!」


 人混みの中腹あたりに、ルークの後頭部が見えた。

 すぐにルークの頭は人混みに潜るように消え、また全然違う場所にひょこっと現れる。

 まるで人混みを泳ぐように、すいすいと移動していった。

 ウィリアスが、どこか自慢げに言う。


「ルークは人にまぎれる天才なんだ」


 ロザリーとロロとラナが、顔を見合わせる。


「……変わった才能ね」

「小柄だからでしょうか?」

「小動物みたいだからじゃない? つい、道を空けて通したくなるもん」


 二人の感想にウィリアスが笑う。


「本人によると兄弟が多いからだそうだ。……おっ、戻ってきたぞ」


 人混みにルークの顔が見える。

 ひょこっ、ひょこっ、と瞬間移動でもするかのようにして、四人の元へと帰ってきた。


「ただいまぁー」

「おかえり、ルーク」


 ロザリーはなんとなく、ルークの頭をガシガシッと掻き回した。

 続いてラナ、ウィリアス、そしてロロまでもが掻き回す。


「何すんだよ、もー!」


 ルークは頬を膨らませ、四人の手を両手で振り払った。


「怒るな、ルーク。……で、何だった?」


 ウィリアスが問うと、ルークの頬から空気が抜けた。


「筆記テストの結果だった」


 ウィリアスが思わず手を打つ。


「そうだった。卒業試験は、試験が終わるごとに成績発表されるんだったな」

「だったら別に、今見なきゃいけないわけではないけど――」


 そう言って、ロザリーが四人の顔を見回す。


「――見るよね?」


 四人は一斉に頷いた。


「そうだ!」


 今度はルークが手を打ち、ロザリーへ向けて手を差し出した。

 ロザリーはわけがわからぬまま、その手を握る。


「おめでとー! 俺もロザリー派として鼻が高いよ!」

「ありがとう。何が?」

「すぐわかるって」


 ルークは握手したまま、手をぶんぶんと振った。



 三十分以上待って、ようやく五人は大型掲示板の前までやってきた。

 筆記テストの結果が成績順に並んでいて、上位十名はとりわけ大きな字で成績を記されていた。



      【筆記テスト結果】


一位 994点 ロザリー=スノウオウル(赤)

二位 982点 ジュノー=ドーフィナ(緑)

三位 980点 ロクサーヌ=ロタン(赤)

四位 940点 イザベル=ファートン(赤)

五位 937点 ピーター=ロスコー(青)

六位 936点 ウィニィ=ユーネリオン(黄)

七位 925点 ウィリアス=ララヴール(赤)

八位 912点 ロイド=クリニエール(黄)

九位 889点 ザスパール=ジラ(緑)

十位 870点 パメラ=コルヌ(黄)



 一番上にあったのは、ロザリーの名前。

 目を見開くロザリーに、ロロが抱きつく。


「すごいすごい! ロザリーさん、一位ですよ!」


 ロザリーも彼女を抱きしめ返す。


「ロロだって三位じゃない!」

「私の場合、ここで稼いでおかないと後がないですから! 青インク問題をギリギリで解けたのが効きました!」


 そこまで言って、ロロは照れ臭そうにロザリーから身体を離した。


「……でも。ジュノーさんには勝っておきたかったですねえ」

「二点差かあ。確かにね」

「ウィリアス君も七位! 筆記テストはロザリー派の勝利と言っても過言ではないのではないでしょうか!」


 ロロが拳を突き上げると、ウィリアスが苦笑した。


最終試練(ベルム)以外のところで競っても仕方ないだろう」

「気分ですよ気分、ウィリアス君」

「んー、まあそういうことなら、俺もベルに勝っておきたかったな」


 それを聞いて、ロザリーがぽかんとする。


「ベル? ベルの名前、どこにある?」


 するとロロが四位のイザベルを指し示した。


「ベルは愛称ですよ」

「うわ、そうなの!?」

「クラスメイトの本名くらい、覚えておきましょうよ、ロザリーさん」

「……うん」


 反省するロザリーの視界の端で、ラナがぴょんと跳ねた。


「どしたの、ラナ?」


 振り向いたラナは、頬を赤く染めていた。


「名前あった!」

「そりゃあるでしょ」

「そうじゃなくて! 予想より上にあったの!」

「ほほう?」


 ラナ=アローズの名を探すと、二十二位にその名があった。


「786点! へえ! 意外とやるね、ラナ!」

「えへへ。私、ハンデあるから必死だったんだ~」

「ハンデ?」

「無色だから、魔術のテストがなかったの」


 それを聞いて、ロロとウィリアスが固まった。


「は?」

「嘘だろう?」


 ラナが首を横に振る。


「ほんとだよ!」

「じゃあ、魔術の配点は200点ですから――」

「――ラナだけは800点満点だったということか?」


 ラナは笑みを浮かべて大きく頷いた。

 ロザリーが掲示板を見上げる。


「もしかして……魔術のテストがあったら、十位以内に入っていたんじゃない?」

「間違いないですよ、ロザリーさん。半分の100点とれば十位に入りますから」

「150点とれば、俺より上だな……」


 口々に感想を漏らす三人に対して、ラナが否定するように手を振った。


たられば(・・・・)はいいってば。私はこの順位で大満足だしさ!」

「なんか、盛り上がってんねー」


 ウィリアスが声のほうを見下ろす。


「ルーク。名前あったか?」

「あった。やっと見つけたよー」

「何位だった?」


 ルークはビシッと二本指を立てた。


「二百位ジャスト」


 ウィリアスが笑う。


「ど真ん中か。本当にまぎれるのが上手いな」

「どういう意味だよ、ウィリアスー」


 ロザリーは掲示板に親友の名を探した。


(グレン、グレン……)

(おっ、あった。三十六位!)

(がんばったねぇ、座学はさっぱりなのに)

(順位教えに行ってあげようかな?)

(いや、私の口からは聞きたくないだろうな)


 そして何の気なしに後ろの人だかりを振り返ると、一際大きな男子生徒が掲示板を凝視していた。


「……グレン。大きいから人混みでも目立つなぁ」


 やがてグレンはロザリーの視線に気づいた。

 グレンの顔がハッと強張る。

 ロザリーは彼に見えるように一位を指差し、次に三十六位を指差す。

 そして片眉を上げて、「ね?」と首を傾げてみせた。

 グレンは見るからに悔しそうにして、人だかりを掻き分けて立ち去っていった。

 一部始終を見ていたロロが言う。


「いいんですか? 怒ってしまったのでは?」

「いいのいいの。私が張り合って見せると、なぜかイキイキしてくるから」

「好敵手、ってやつですか。いいですねえ」

「ロロもいるじゃん」

「私に? 誰です?」

「オズ」


 するとロロは、カッと目を見開いた。


「冗談じゃありませんよっ! いくらロザリーさんでも言って良い事と悪い事がありますよっ! ふざけんじゃありませんよっ!!」


 あまりの剣幕に、ロザリーは困惑した。


「ご、ごめん。そんな怒んなくても……」


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