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117 ウィニィとジュノー

 王族専用個人寮。

 ウィニィのために建てられた二階建ての寮で、大貴族が住む立派な館を風情はそのままに個人宅サイズまで縮めたような建物だ。

 一階は厨房とダイニング兼応接間があり、二階がメインの居住スペースとなる。

 近衛騎士団(キングズガード)から派遣された魔導騎士が常駐していて、玄関と建物周辺の警戒に当たっている。


 そんな王族専用個人寮の二階、ベッドルーム。

 四、五人は並んで横になれそうな大きなベッドの真ん中に、館の主ウィニィが寝転んでいた。

 普段はきっちりと閉じているシャツの襟元は開けっぴろげで、ベルトも緩めたまま。

 ぼんやりと天井を見つめ、何事か考えている。

 寝室の外で物音がした。

 ウィニィはため息交じりにそちらに顔を向けた。


「ジュノー。まだいたのか」


 すると空いた寝室の扉から、笑顔のジュノーがひょっこりと顔を出した。


「はい、ウィニィ様」

「そこで何をしていた?」


 ジュノーは寝室に入ってきて、ベッドの端に腰かけた。


「脱ぎっぱなしの服を集めて侍女に渡して、それからクローゼットの片づけやお風呂の湯張りなどを」

「そんなことはしなくていい」

「二階には侍女を上げないのでしょう? でしたら誰かがやらないと」

「……わかってる」

「ええ、わかってるけどそのまま。だからこうして私がお手伝いを。……なのに、まだいたのか、はあんまりですわ」

「だって、下で一緒に食事してから三十分は経っているだろう」

「一時間ですわ。その間ずっと、ウィニィ様は物思いに耽ってらした」

「一時間、か……」


 ジュノーがベッドを這って、ウィニィに近づいた。


「妬けちゃうな」

「何がだ」

「考えていたのはロザリーのこと。そうでしょう?」


 ウィニィは言葉に詰まり、ふいっとよそを向いた。


「大丈夫。何も心配しないで」


 ジュノーの手が、ウィニィの開いた襟元へ伸びる。


「私には何も隠さなくていいのです。本当の(・・・)あなたを理解しているのは私だけ。嘘やごまかしは通用しません」


 ジュノーの長い指がウィニィの鎖骨を伝い、やがてウィニィの胸をそっとなぞる。

 その一瞬、ウィニィの身体がビクンと跳ねる。


「……やめろ、ジュノー」


 ジュノーは愛おしげにウィニィの横顔を見つめ、それから手のひらを彼の胸に置いた。


「私の望みは、あなたの望みを叶えること。ただそれだけ」


 ジュノーの手に伝わるウィニィの鼓動は早鐘のようで、それがウィニィに対する感情に拍車をかけた。


「何も心配せずともよいのです。私があなたの道を照らします」


 ジュノーの唇がウィニィの耳元に触れるほど近づく。


「ジュノーがウィニィ様を勝たせて差し上げます」

「ッ!」


 突然、ウィニィが身体を起こした。

 ジュノーが驚いて見つめていると、ウィニィは絞り出すように言った。


「もう帰れ、ジュノー」

「何か、お気に障りましたか?」

「……別に。同盟を組むとはいえ、別の派閥の長同士だ。二人きりで会うのはよくないだろう」

「フフッ。二人きりで食事はするのにですか?」

「それに! 今はテスト期間中だ! ここも寮だから、行き来は制限されるべきもので――」

「――はいはい。わかりました」


 ジュノーはベッドの端までいって、床に跳び下りた。

 それから寝室の外へと出ていく。

 ウィニィがホッと息をついたとき、ジュノーがまたひょっこり顔を出した。


「ウィニィ様、お風呂借りても?」

「ジュノー!」

「せっかくお湯を張りましたし。あっ。一緒に入りますか?」

「っ、バカを言うな!」


 ウィニィはベッドに倒れ込み、扉と反対を向いて寝転んだ。

 ジュノーのくすくす笑う声がして、そのしばらくあとにバスルームから水音が聞こえてきた。

 ウィニィはため息をついて再び天井を見つめ、それから目を閉じた。

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― 新着の感想 ―
あら、ジュノーさん。割りと本気で恋愛感情ガチ勢だった…?
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