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113 第二回作戦会議

 旧校舎、ロザリー派作戦本部。


「遅いっ!」


 オズが扉を開けた途端、一冊のノートが飛んできた。

 オズは首を捻ってそれを躱し、後ろから来たロロの顔にクリーンヒットする。


「あぎゃっ!」

「あっ、ごめんロロ。避けると思って……角、だったね?」


 ノートの角が直撃したロロの額が、一点だけ赤くなっている。

 ロロが不満げに言った。


「カリカリしないでくださいよ、ラナさん」

「そうだぜ。ウィリアス勧誘して、その足で戻ったんだ。遅くはない」


 オズが定位置の一番奥のソファに座る。

 ロロは額を擦りながら、ラナの対面に座った。


「一人で待ってると時間が経つの遅いんだよ? 留守番させられる身にもなってほしいなあ」


 そう口を尖らせていたラナだったが、二人の顔を見て目が輝きだす。


「その顔――成功したのね?」


 途端、ロロとオズの顔がほころぶ。


「一時は無理かと思いましたが」

「あれが効いたな、『あなたが必要なの』」

「ええ、ええ!」

「へー、ロザリーがそんな台詞を? なんか意外! そんな口説き文句みたいなこと言うなんて」

「実際、あれで落ちたんだと思いますよ? ウィリアス君、身体を震わせていましたから」

「俺、笑いそうになったぜ? ウィリアス、お前なんで震えてんだよって!」

「私はよーく気持ちがわかります。ウィリアス君はロザリーさんに対して、強烈な敗北感と軽い嫉妬心を持っているんですよ。これらの感情って、ある意味で憧れの裏返しなんです。そんな相手から必要だと言われたら、心が震えて当然だと思います」


 オズが耳をほじりながら言葉を返す。


「ふーん。よくわかんね」


 ロロは呆れた顔で言った。


「オズ君は敗北感が仕事してなさそうですもんねえ」

「どういう意味だよ、ロロ」

「そのままの意味ですけど」

「まあまあ、二人とも。で、そのロザリーは?」

「表で待ってる。ウィリアスを連れてくるつもりだったんだが、あいつその前に用があるって言ってな」

「そっか。誰かが待ってなきゃ、この部屋入り方わからないもんね」


 そうこう話しているうちに、扉の向こうから人の気配がした。

 何人かの話し声が聞こえ、それから扉が開く。


「ロザリ~、おっかえり~」

「ただいま、ラナ。いい子にしてた?」

「してたしてた!」

「嘘だぞ、ロザリー。こいつノート投げまくってたからな」

「オズ! 一冊だけじゃん!」


 ロザリーは苦笑いを浮かべ、扉を振り返った。


「騒がしくてごめんね。さ、入って」


 部屋に入ってきたのはウィリアス――それと男子生徒がもう一人。

 二人とも部屋に入るなり、その豪華絢爛な様子に呆然とした。


「あの絵の扉の奥がこんな……嘘だろ……」

「これが魔女術(ウィッチクラフト)で……?」


 ロザリーはタイミングを見て、口を開いた。


「あー、一応、紹介するね。ラナ――」


 ウィリアスは我に返り、ラナに歩み寄った。


「――ラナ=アローズ。ウィリアスだ、よろしく頼む」


 そう言って笑顔で手を差し出し、ラナがその手を握る。


「よろしく、ウィリアス」

「こっちも紹介する。俺と一緒にロザリー派に入る、ルークだ」

「ちっすちっす」


 ルークは小柄で、はしっこいクラスメイトだ。森に住む小動物を連想させるキャラクターをしている。

 ウィリアスの用事とは、ルークを連れてくることだった。

 ロロがルークに問う。


「ルーク君も入ってくれるんですか?」

「とーぜん。ウィリアスが入るんならね」

「てっきりウィリアス君を団長にしたいものだとばかり」

「それはそーだけど。ウィリアスがやる気出してくれるなら何でもいいのさ。じゃなきゃつまんねーもん」

「なるほど」

「で。早速だが――」


 ウィリアスがロザリー派の面々を見回した。


「――作戦会議をしたい。構わないか?」




 六人となったロザリー派メンバーが、ソファに腰かけ顔を突き合わせる。

 まずウィリアスが口を開いた。


「俺の役目は人を集めること、特に、赤のクラスから多く引き込むことだと理解してる。それでいいな?」


 ロザリーたちが神妙な顔で頷く。


「ならまず、状況を確認したい。うちのクラスはどのくらいジュノー派に取り込まれているのか。ルークも調べていたんだが――オズ、お前も調べたんだよな?」


 オズは頷き、前屈みになって話し出した。


「確実なのはギリアムだ。一緒にいたのは、いつもつるんでるバカ三人。だが、今はもっと増えてるかもしれないな」


 ウィリアスは頷き、今度はルークに話を振った。


「ルークはどうだ?」

「んー。俺のは確実とは言えないけど、ベルはジュノー派だと思うよー」


 ロザリー、ロロ、オズの顔色が曇る。


「ベルが?」「参りましたね」「まじかー」


 ラナがロロに尋ねた。


「ベルって?」

「うちのクラスの女子のまとめ役です。人気のないギリアム君と違って大ダメージですよ」

「そうなんだ。じゃあ、そのベルって子に女子――クラスの半分持ってかれるかも?」

「女子丸ごと連れていかれたら、半分では済みません。うちのクラスって女子のほうが多いですから」

「あー、魔()っていうくらいだもんね」

「……それは関係あるのかわかりませんが」


 ロザリーがルークに問う。


「確実とは言えないって前置きしてたけど、信憑性はどんな感じ? 噂レベルの話なの?」

「噂といえば噂だけど――ジュノー派に行かないか、って話が女子の中で回ってるんだよね。でも話の出元がはっきりしなくてさ。よくよく調べてみると、同時に複数の女子が話を回してるってわかった」

「なーるほど。その複数の女子がベルの取り巻きなわけね?」

「そそ。彼女って用心深いから自分ではジュノー派の話を一切しないんだけど、逆にベルだけがその話に加わってなくてね。彼女が出元で間違いないと思う」

「そっか。……んー、女子は厳しいかもねぇ」


 ロザリーが大きく伸びをしながらそう言うと、ルークもそれに応じて頷いた。

 だが、ウィリアスが首を横に振る。


「それはやり方次第だ。頭から女子をあきらめたら、多くを引き込むなんてできはしない」

「やり方、ね――」


 ロザリーがソファに背をもたれる。


「――どうやる気なの、ウィリアス?」

「筆記テスト期間に入る前に勝負をかけたい」


 ロザリーが眉を寄せる。


「それ、あと一週間しかなくない?」

「一週間もあると考えよう。おそらくここが最大のチャンスだ。……そして最後のチャンスかもしれない」


 そしてウィリアスは、前屈みになって五人を見回した。


「時間はジュノーの味方だ。意味はわかるか?」


 五人はそれぞれに思案した。

 まず口を開いたのはオズ。


「今朝のジュノー派の集会は、揺さぶりだ。勢力を見せつけられたほうは焦る。最終試練(ベルム)が近づくほどに焦りは募る」


 ロザリーが続く。


「団結を強める目的もあるんじゃないかな。自分たちは強い! って認識するため。――今朝、何人かに絡まれたんだ。そのときはなんでいまさら? って思ったけど、あいつらがジュノー派なら説明がつく。自分たちの勢力の大きさを目にして、気も大きくなったんだよ。で、その勢いのまま私に絡んだ。これからジュノー派は、自信たっぷりに振る舞うはず。そうなると、ますますあっちに靡く人も多くなるわ」


 次にルークが話し出す。


「時間があれば、ベルは女子をガッチリ固めるだろーね。ただ慎重なぶん、まとめるのは遅い。切り崩すなら早いほうがいーね」


 ラナが口を開く。


「女子寮の掲示板に『筆記テスト期間中は自室以外の部屋の行き来を禁じる』って張り紙してあった。そうなると動きづらくなるから、ウィリアスは早く勝負をかけたいんじゃない?」


 ロロが手を打つ。


「そうでした! 筆記テスト期間は自室に籠る時間が多くなります。チームの決まっていない人はただでさえ焦っているのに、周囲から隔絶されて悶々とすることになるでしょう。こうしていていいのか? 早く多数派に入っておくべきではないのか? と。プレッシャーをかけるには、今朝の集会はこれ以上ないタイミングです。狙ってたんですね、ジュノーさん……」


 五人の答えを聞き、ウィリアスは満足げに頷いた。


「この一週間で勝負をかけることに異論はないな?」


 五人はそれぞれに頷く。


「でも」


 ロザリーがウィリアスに問う。


「具体的に何をするの?」

「とりあえず、俺とルークは勝負の日までここには来ない」

「なぜ?」

「ロザリー派に入ったとバレたくないからさ」

「ん? どういうこと?」


 不思議がるロザリーに、オズが囁く。


「決まってんだろ。お前に付くのが恥ずかしいからだよ」

「オズ、黙って」


 ウィリアスは苦笑し、それから真っ直ぐにロザリーを見つめた。


魔女術(ウィッチクラフト)の最後の授業で勝負をかける。ロザリー、何も聞かず任せてくれるか?」


 ロザリーは彼の眼差しを見て、すぐに心を決めた。


「ウィリアス、あなたに任せる」


 ウィリアスは笑みを浮かべて頷いた。

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