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十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
第一章 謎編①
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第二話 蜘蛛の糸

『拝啓、アラン・エドガー様。


 このような手紙をいきなり送り付けたこと、先に謝罪させて頂きます。唐突の文にさぞかし驚きを感じられたことでしょう。誠に申し訳ありません。ですが、私には、アラン様にこの手紙を差し出さなければならない理由があったのです。


 かつて、【王都・ミスア】にドラゴンが襲来した時。

 

 あの時、太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)一行は、まるでダイヤモンドのような輝きを放つ高貴なるドラゴンを見事に撤退させてみせました。


 実はその際、私の妹であるアレクサンドラが命を救われていたのであります。ずっと、太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)の皆様方にお礼を申し上げたかった。


 しかし、その機会が中々に訪れない。どうしたものかと思案に耽る内に時は過ぎ。そして今に至るという次第なのでございます。


 最近では太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)様もかつての勢いが衰え、Aランクダンジョンの依頼しか回ってこないと聞きます。


 私としましては、そのような事態を非常に憂いているのです。太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)様の煌めきは失われてなどおらず、それどころか、ますますその輝きを増しているのだと、私はそう確信を持って、胸を張って断言できるのです。


 さて、話は逸れましたが、ここからが本題です。


 僭越ながら、この私レイン・ルクシオンは、かつて妹の命を救って頂いたお礼をさせて頂くべく、太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)御一行様を是非とも、私が所有する【十字架屋敷】にお招きしたいと考えているのです。


 そして、妹・アレクサンドラ救出の礼金としては到底足り得るものではないと理解してはいるのですが。


 せめて、せめてもの謝礼・甚謝の意を示させて頂くべく、豪勢なフルコースと百本程度の金塊にて御持て成しをとの思いを胸に抱いているのです。


 この手紙を送付した翌日には【十字架屋敷】へと直行する魔道具【転移石】を六名分お届けさせて頂く手筈となっております故、二週間分程度の身支度を手に、なにとぞお越し下さいますようお願い申し上げます。


 最後に、長くはなりましたが。


 このようなルクシオン程度の身分でありながら、突如としてアラン様にこのような手紙を送り付けたこと、どうかお許し下さいますよう。


      レイン・ルクシオンより、親愛を込めて』




「……マジ、かよ」


 手紙の内容は凄まじいものであった。一案を考じる価値すら皆無だ。

 

 確かに今、【太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)】はかつての威光を失いつつある。そしてそれに比例して、得られる金品も目減りしているのだ。


 一度上げた生活レベルを下げられないアラン達からしてみれば、この手紙の内容はまさに天空よりぶら下げられた蜘蛛の糸にも等しい。


 十字架屋敷への招待を断る理由など、アラン一行にはどこにもなかった。


「驚きましたなあ。まさか、金塊百本とは。よほどの恩義でなければ差し出し得ない額。良かったですな。過去の行いは自分に巡る。お天道様はしかと太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)の活躍を見て下さっていたのですなぁ」


 まさにその通り。太陽は――神は見ていたのだ。

 太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)その一行の行いを(・・・・・・・)

 

     ☆     ☆     ☆


 アランは大急ぎで【通心石(テレパス・クォーツ)】を使用し、王都に住まう太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)のメンバー全員を自身の邸宅に招いた。


 そして、例の手紙を自慢げな表情で読み上げた。

 

 アランの瞳はギラギラと光り輝いていたが、人間の本能としては当然の反応である。アドレナリンが過剰に分泌されているのだ。


「金塊百本だぞ!? まるで夢みたいな話だ!!」


 今現在、金塊一本の価値は一千万ゴールドである。

 パーティメンバー六名で割ると、一人頭十六本。

 一億六千万ゴールドの臨時収入ということになる。


「それ、本物なのか?」


 疑いの声をかけたのは一人の少女だった。このパーティの中では一番の若手。二十歳の魔術士だ。名はユキ・マーベラ。かつて爆炎の女王と呼ばれた、マリリン・マーベラの末裔らしい。


 紫紺の長髪に同系色の瞳、色白な肌が魅力的だ。


 固有魔法【龍眠】は格下のモンスターを確実に眠らせることが可能である。また、味方に使えば短時間で疲労を癒すことも出来る。


 少女が見据える先には、筋骨隆々の大男が仁王立ちしていた。浅黒く焼けた肌と丸太のように太い腕は、全盛期と比べても劣ってなどいなかった。


 彼こそがこのパーティのリーダーにして剣豪の称号を持つ男、アラン・エドガーだ。


 金色の瞳と浅黒い肌、それに対して異常なまでに真白い歯が異様な雰囲気を醸し出していた。


「本当もなにも、こいつを見てみろよ」


 言葉と同時にアランは手紙を裏返した。そこには確かに、ルクシオン家の封蝋が押されていた。

 

 魔導士の杖を天輪が如く取り囲む三匹のウロボロス。見紛うはずがない。


「ってことは、私たち一気に大金持ちってコト!?」


 このパーティに加入してから十年の中堅、付与術士アリス・アリシアが飛び跳ねた。瑠璃色のショートボブがお似合いの可愛らしい女性である。


 愛犬の”ド―シシャ”はダンジョン攻略の最中に迷子となり、未だに見つかっていない。

 多分、既にモンスターと化しているのだろう。


「ってことで間違いなさそうですね」


 二十八歳の金髪丸眼鏡。長身優男の彼はユキト。【アナザー】という固有魔法によってアンデッド族を自由自在に操ることが出来る強者だ。


 彼がその気になれば、アンデッド軍団を率いて国一つに戦争を仕掛けることもできる……かもしれない。彼の魔力量次第だ。


「ほっほっほ、まさかこんなこともあるとはのう。驚きすぎて腰が抜けそうじゃわい。ま、抜けたところで直ぐに治せるがな、一億六千万もあれば」


 抜け落ちすぎて鍵盤のようになってしまった歯を覗かせながら笑ったのはジョン・ディース、六十二歳。


 固有魔法【密室】により相手の鼻と口と目を塞ぎ窒息させる戦法を得意とするが、基本的にはデバフ要員だ。


 アランに初めてスカウトされたのがこの男であり、ザーヤとは幼馴染の関係。


 かつては淡い恋心を抱いていたのだが、今ではその気持ちもすっかりと枯れ果ててしまったようだ。


「ちょっと、気持ち悪いから笑わないで下さる? ま、一億六千万って聞けば浮つくのも分かりますがね」


 彼女はアディ・クリス。固有魔法【ゼロ時間】にて、ほんの少しだけ時を止めることが出来る。だがそれも五年前の話。


 今となっては見た目を十五歳程度に保つので精いっぱいだ。ちなみに実年齢は本人曰く、二十九とのこと。このパーティーではヒーラーの役割を担っている。


 太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)の面子は揃いも揃って金塊のことしか口にしない。

 

 フルコースとやらに興味が無いわけではないが、そんなものは二の次だ。


 なにはともあれ、彼らの判断は即決だった。

 十字架屋敷への招待を喜んで受け入れる。

 異論のある者は誰一人としていなかった。


「それに、あの屋敷から望める海原は宝石のように光り輝くと聞く」とユキ。


「鬱蒼とした木々が取り囲んでいるとも聞くがのう」とジョン。


「二階、もしくは三階建てなんでしょう」ユキトが言う。「森といったって、所詮は小島ですからね。僕たちが想像するような(ダンジョン的な)ものではないでしょう」


 楽しみですね。そうユキトが続けた。


「きっと、空気も美味しいですよ」

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