表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
解決編
41/41

エピローグ 太陽の煌めき(IFルート)

 何故、僕は生きているのだろう。

 あの時、僕は確かに【ソノモノ】=アディに殺された。


 それなのに、どうして僕は。


「目が覚めましたか」


「アディか。……これは、どういう状況です?」


 アディは僕の隣に腰かけ、一個の瓶を取り出した。

 魔力ポーションとは別物の、緑色の長瓶だ。


「回復薬ですか」


「君が助かる確率は五分五分といったところでしたがね。呆れた生命力です」


 僕はゆっくりと上体を起こし、アディの方を見やった。


「気が変わった、ということでいいんですか?」


「いいえ。……君は死の間際で、私にこう言い遺そうとした。「ありがとう」と。その時、私はあの日の出来事に一つだけ思い違いがあったことに気が付いた。君は、サーシャの追放に賛同していなかった」


「……それで?」


「初めて会った日のことを覚えていますか」


 嫌な記憶を掘り起こされたものだ。

 なにせその記憶は僕にとっては黒歴史。

 一秒でも早く消し去ってしまいたい過去だから。


「覚えていますとも。あの日、僕はソロ冒険者としてダンジョン攻略に挑んでいた。その際、予想外の手傷を負って死にかけていた。そんな時、君たちに出会った」


「ええ。あの時、君は無様な醜態を晒しながら助けを求めてきた。人目も憚らずに見っともない姿でした。昨日のことのように思い出せます」


 ぐさり、と心になにかが突き刺さる。

 薔薇姫の異名は未だ健在というわけだ。


「君を刺し貫いた時、君はその(助けを求めた)時とは真逆の顔をした。思えばあの表情は、私たちが君を助けた時と同じ顔だった。……縛魔契約が解除されたあの瞬間、君にとって、死ぬことが罰から救いへと転じた」


 なるほど。

 僕は頷きながら問いを返す。


「それが僕を生かした理由ですか」


「君を生かしたのは私ではありません。私は、君の生死を天に委ねた。君を助けたのは……いや、違いますね。君を地獄へと落としたのは神様ですよ」


「そう、ですか。僕の罪は……。彼女を助けられなかったという大罪は、やはり許されなかったと」


「そうです」


 だから背負うしかない、とアディは続けた。


「重いでしょう? 重くて重くて、今にも潰れてしまいそうでしょう? でも、私たちは背負わなくてはならない。記憶を闇に葬って逃げる――そんな卑怯な真似をしてはなりません。決して」


 生きていくんですよ。

 この重たい十字架を背負いながら。


 そう言って、彼女は懐から一本の葉巻を取り出した。

 気付けば、アディの姿は十五歳のものではなくなっていた。


「そっか。もう未成年じゃないですもんね」


「最後の仕事が残っています。これから先は辛いことばかりですよ。……王都にレインさんの別邸があります。そして、地下には大聖堂が」


「大聖堂ですか」


「死ぬまで祈りを捧げ続けなければならない。私たちは、そうすることで、ほんの少しずつ罪を禊ぎ落とさなくてはならないのです」


 覚悟はありますか、とアディが問う。

 真剣な面持ちで、視線はまっすぐに僕の双眼に据えられている。


「五年も、遅れてしまいました……。本当はあの時、僕は彼女の手を取り、酒場を飛び出すべきだった。何も考えず、ただ自分の思うがままに動くべきだった。でも、あの時の僕には覚悟が無かった」


 言いながら、僕の両目からは大粒の涙が零れ落ちていた。一度葬り去った記憶、その奔流に押しつぶられそうだった。胸が、苦しくて苦しくて仕方が無かった。


「僕の罪は一生消えない。死ぬまで浄化されることもない。……それでも、僕は生きるよ。僕には力が無い。勇気もない。でも、君のお陰で――」


 たった今、覚悟が決まった。

 僕は、生きる。生きていかなければならない。決して償いきれない五年前の大罪。その大罪を少しでも償うために。そして、少しでもサーシャの魂に安寧を齎すために。


「君のお陰で、覚悟ができました。僕は生きる。生きます。生きて、この重い十字架を死ぬまで背負い続ける。僕にできることはそれしかないですから」


「その言葉が聞けて良かったです。……今からこの島を消し去らねばなりません。証拠を残すわけにはいきませんから」


 その日、ルクシオン島はアディの魔法によって跡形もなく消滅した。


     ☆     ☆     ☆


 その後、僕たちは三人で聖・アレクサンドラ教会を設立した。ちなみに三人目はザーヤさんだ。


「ルクシオン家が名を上げ始めた時期と、あの事件。そして今回のルクシオン島消失。これだけ情報が揃っていれば、私には大方の予想が付くさあね」


 私のここはまだまだ錆びちゃあいないさ。

 自分のこめかみを指差しながら、ザーヤさんはそう言って笑った。




「ユキト君。近いうちに孤児院の経営を考えているのですが、どうでしょうか?」


「孤児院、ですか」


「行き場のない子供たちの居場所を作ろうと思いまして。無論、ただの孤児院ではありません。家やパーティを追放された方、そんな方の居場所にもなるような施設をと考えていたのです」


「それはいい考えだ。さっそくザーヤさんに掛け合ってみます」


 ザーヤさんは、冒険者ギルドの経営を担っていた人物だ。僕やアディと違い、金銭等の管理能力はずば抜けて高かった。僕がアディの考えを持ち掛けると、


「分かったさあ。その件は任せられたよ。アンタらはいつも通りにやりなさいな」


 そう言ってくれた。

 冒険者時代にも思ったが、やはりザーヤさんは頼れる人だ。




「アディ、話は通したよ。資金は十分に足りるそうだ」


「そうですか。それは良かった」


 やがて、僕たちは教会の他に、養護施設の経営にも着手した。

 

 中々に忙殺の日々が続いたが、少しずつ僕たちに協力してくれる人も増えてきた。


 追放された人の中には優れた能力の持ち主も居て、僕たちは、名を上げた彼らから謝礼金を受け取ることもあった。そうした謝礼金はもちろん、施設の維持費に賄われた。


「互いが支え合って生きている」


 ある日、アディがそんなことを口にした。


「誰かの格言かなにかですか?」


 涼風に髪を揺らしながら、太陽のような笑みを浮かべる子供たち。

 彼らを目に、僕たちは軽口を交える。


「サーシャの言葉ですよ。そして、ルクシオン紋の由来でもある」


「なるほど。確か、サーシャは田舎町の出身だったね?」


「ええ。……いいですか、ユキト君。くれぐれも忘れてはなりません。私たちは――人は、一人では生きられない。だからこそ決して無くしてはならないのです。他者を思いやる気持ちを。ここに居る人たちはみな、少なからず、慈愛を取りこぼしてきた者だ」


 私たちがその分、慈愛を注いであげなくては。


「そうですね」


 子供たちの嬌声が辺り一帯に響き渡る。

 太陽の輝きが、そんな様子を煌々と照らしつけている。


 まるで絵画の中の一ページのような日常。

 僕には過ぎた宝物。


「アディ」


「はい」


「重いね、これ」


 そういって、僕は教会のシンボルを指差した。

 ラティーナ王国発祥の、縦長の十字架を。


「そうですね」


 そう言って薄く微笑む彼女もまた。

 僕にとっては、かけがえのない宝物へと変化していた。

 

 少しでも彼女の心を軽く。

 そして、少しでも多くの罪を僕が背負えるように。


「頑張らないとな」


 僕は一層に覚悟を強め。

 虚空に向けて、そう呟いた。


「なにか言いましたか?」


「いや、なんでもない。そろそろ戻りましょう。お昼ご飯を作らないと、子供たちに怒られてしまいますから」

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

これにて十字架屋敷の殺人は完結です。


面白かった、驚かされた、次作に期待! 

等おもって頂けた方には是非、↓の★★★★★評価(★の数は読者様の感性にお任せします)とブクマ・感想&レビュー頂けると幸いです!!


次作、【侯爵家を追放された俺様錬金術師、追放理由が女だからと理不尽すぎたのでブチギレる。冒険者として成り上がり勇者パーティに加入し魔王を討伐して家族を見返してやる!と思っていたらなんか没落寸前らしい。ざまぁ!】 

 も応援して頂けると幸いです。こちらの作品は、まずは短編(30000字程度)での投稿を予定しています。なにとぞよろしくお願いします。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ