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十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
序章
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プロローグ② 月光の輝き

 月光降り注ぐ巨大な十字架を振り仰ぎながら、その人物は嘆息した。これから自分が行おうとしていること。それが果たして正義なのか悪なのか。


 幾度となく考えてきたが、今この瞬間になっても正解には辿り着けずにいた。この世界はいつだってそうだ、とその人物は思う。


 遥か彼方に、ほんの微かに見出すことのできる光。しかし、伸ばせども伸ばせども、決してその手は届かず。


 まるで歯止めの効かなくなった振り子が如く、人間という生き物は時に正しい選択を、時に間違った選択をしてしまう。


 ――自分のやろうとしていることは本当に正しいことなのだろうか? 本当に正義と呼べるものなのだろうか? ああダメだ、やっぱり分からない。


 とはいえ、やるべき事象に変化が生じることは無い。

 

 自分は自分の責務を果たすだけ。あの子の遺言をただ実行に移す。それだけでいい。そこになんら感情を持ち込む必要はない。自分はただ傀儡のように、人形のように。


「彼らを皆殺しにすればいいだけだ……」


 その人物が握っていた一枚の肖像画がくしゃりと歪む。思わず力みすぎてしまったらしい。どうやら自分で想像している以上に緊張しているようだ。


「もうこんな物も、必要ないな」


 その人物は歪んだ肖像画に視線を落とした。そこには二人の少女の姿が。同じくらいの年頃なのに、方や可愛らしく、方や不機嫌そうな表情。

 

 一見不仲に見える二人だが、彼女らが大の仲良しなのをその人物は知っている。


 ――グシャ、と。

 その人物は肖像画を放り捨て、力いっぱいに踏みつけた。

 

(未練がましい真似はこれで終わりだ。これより先、自分はただの殺戮兵器になる。それで全部終わりだ)


 月光はより一層に輝きを増し。

 巨大な十字架を、全てを知る者が如くの様相で見下ろしていた。

 

 一筋の長い影は、小島を一周する鬱蒼とした森の、その入り口付近にまで伸びていた。

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