第二十九話 ゲームセット
僕は自分の部屋へと閉じ籠り、念入りに施錠を確認した。
「よし、これで問題はないな」
僕は思考を整理する。
アリスの死後、僕の深層意識はなんらかの違和感を訴えかけてきた。なにか見落としているものがあるのではないか、そんな疑問が胸中に渦巻いていたのだ。
そして、覚醒した僕の意識は幻覚を目にする。
大量のボードに描写された数々のシーン。
ユキが死に、ジョンが死に、アディが死に、ザクレイも死んだかに思われた。
だが、ザクレイは生きていた。あの手紙の書き主はザクレイであり、この屋敷の鍵を保管しているのもザクレイだった。そして死体も消失した。
だから犯人はザクレイしかあり得ない。
――なぜ?
どうして断言できる?
そう断言し得る証拠がどこにあったのだろう?
原点回帰。レインが口にした言葉だ。
もしかしたらレインは僕と対等な勝負がしたかったのかもしれない。だから、要所要所でヒントのようなものを掲示していたのかもしれない。
なにはともあれだ。
犯人はザクレイじゃない――否。
ザクレイだけじゃない。
それが、僕の導き出した答えだった。
「クソ、もっと早くに気付けたことだったのに」
そもそも、僕たちはレインの手紙を受けてこの島にやって来た。その手紙には【百本の金塊】と記されており、それをメンバーで山分けするというのが僕たちの目的だったのだ。
一人につき十六本。一億六千万ゴールド。
夢のような大金に釣られ、僕たちはこのルクシオン島にやってきたのだ。
だとすれば、明らかな矛盾点が一つだけあるじゃないか。細かい道筋は分からないが、明らかに不自然な点が一つ、この屋敷には生じている。
あれだけ屋敷を探り回って。
【本当になにもなかったのか?】
僕の深層意識が、再度あの問いを口にする。
僕は、その問いに明確な答えを掲示した。
「ああ、なかったさ。なにもなかったんだ。本来ならば存在していなければならないものですら」
つまりは――。
百本もの金塊を保存しておくための金庫もね。
☆ ☆ ☆
まだまだ謎は多い。
だが、レインは決定的な失言をしてしまった。金塊の話などするべきではなかったのだ。存在しないものの話などをしてしまったが故に、僕に全てバレてしまった。
状況は二対二。
レイン・ザクレイVS僕・アランだ。
武力と知力、どちらも拮抗していると言っていい。
レインは、現状の僕に対してなんらかの違和感を抱いているだろう。
勘付かれてはならない。
勘付かれぬよう、なんとかしてこの事実をアランに伝えなければならない。
「どうしたものか……」
【レインに警戒しろ】
その意を伝えることはできた。
今、アランは警戒心を最大限に高めているだろう。しかしこのタイミングでザクレイが現れた場合は危険だ。
アランとザクレイ、一対一でもどちらに軍配が上がるか分からないのだ。そこにレインが加わった場合、間違いなくアランは負けてしまう。
なるべく速やかに、そして勘付かれることなく自然的に。黒幕が二人であるということを、僕はアランに伝達しなければならない。
まずは大広間へと戻る。ここまでは確定事項。その後、レインはきっと尋ねてくる。
「突然部屋に閉じ籠ってどうしたんだい?」
と。
なんでもない、とは返せない。僕の行動はあまりにも不自然。普通に考えれば自殺行為だ。
だが、こればかりは仕方のないことだった。
重大な考え事をしなければならない時、僕は周囲の情報を遮断し、思考の海に没入する。人間にはいくつかの癖があるが、僕にとってはこの行動がそれなのだ。
冒険者として活動している時もそれは同じだった。
強大なモンスターと対峙した時
仲間がピンチに陥った時。
そんな時、僕は単独行動に移り、世界からノイズを完全に排除したうえで思慮に耽るのである。
そうして、必ず回答へと辿り着いたものだった。モンスターの弱点を見抜いて討伐を補佐する。僕はそうすることで、太陽の煌めきに貢献してきた人間なのだ。
「この際だ。大胆不敵にいこう。それはもう、アランのように」
まずは大広間へと戻る。
そして僕は一言、こう発するだけでいい。
「レインを殺せ」
と。
これで終わりだ。
もちろんアランは戸惑うだろう。
だが、長年の冒険者としての経験と連携、それは身体に染み付いて離れないものだ。命を懸けて培ってきたものに人間の本能は抗えない。
僕の言葉は強固な拘束力を以てしてアランの思考力を奪うだろう。何度となく「殺せ」と命じれば、やがてアランは催眠術に掛けられた傀儡が如くにレインを両断してみせるに違いない。
詳しい説明はそのあとですればいい。
レインという司令塔を排除してしまえば、残る敵はザクレイのみ。
僕とアランの連携に、ザクレイが一人で太刀打ちできるとは到底思えない。
レインとザクレイ、二人がどうしてこんなことをするのかは分からない。でも、もうそんなことはどうでもいい。どうでもいいんだ。
細かい道筋やトリックにも興味が無い。僕は全てをすっ飛ばして正解へと辿り着いた。あとは危険因子を排除するだけでいい。
なに、なにも問題はないさ。先に手を出してきたのはレインとザクレイ。つまり、僕たちがこれから行おうとしているのは正当防衛に過ぎないんだ。
「……クク」
思わず僕の口から笑みが零れた。
レイン・ルクシオン。中々に小賢しい真似をしてくれたが……。
残念ながら、ゲームセットだ。
下らない知恵比べ、しょうもない殺戮ゲームはこれにて終幕。僕とアランは生き残り、お前たち二人は死ぬ。
それで全てを終わらせよう。
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