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十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
第五章 謎編⑤
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第二十七話 五人目

これにて第五章は完結です!


「その記憶に間違いはないかい?」


 僕は間違いありません、と頷きを返した。


 僕が抱いていた違和感、そのうちの一つが再び氷解した瞬間だった。

 

 あの時、僕はあの手紙の持ち主をユキだと断定した。そして周囲が納得したのを見て、自分の推測が正しかったのだと思い込んでしまった。


 しかし現実はそうではなかった。

 利き手を使わずに手紙を書く。こんな簡単な可能性に、なぜ辿り着けなかったんだ。


「くそ……」


 僕は大馬鹿だ。少し頭を捻れば、あの段階で――つまりは、ユキが殺された段階で被害を食い止めることができたんだ。それなのに、僕は楽な方へと逃げてしまった。


 そうであってほしいという願望を口にして、その結果、この悲惨な事態を招いてしまった。あの時から……冒険者をやり始めた時から、なにも成長していないじゃないか。


「僕は、大バカだ」


「気落ちするのは早いんじゃないかな、ユキト君」


「……レインさん」


「相手が分かれば問題はねぇ。奴と俺との実力は拮抗している。……ま、本音を言えばヤツの方が少し上かもしれねーとは思っているが。でもよ、俺たちは四人だ。四人VS一人、どっちに軍配が上がるかは明らかだろうが」


 確かに、そうだ。

 

 ザクレイさんの実力は本物。僕はそれを目の当たりにしている。だが、アランの実力が本物であることも僕は知っている。それなら、僕たちに敗北はあり得ない。


「ユキト君」


 レインは僕の両肩に手を添えて微笑んだ。


「君の力が必要だ。ザクレイを――いや、あの怪物を止めるためにはね」


 力を貸してくれと。

 そう差し出された右手を、僕も右手で握り返した。


「もちろんです」


 そうとなれば、まずは。


「アリスだな」


 アランが腕を組みながら言った。

 僕たち二人はこくりと頷き、アリスの閉じ籠る東棟・4番の部屋へと向かった。




「アリス、僕だよ。ユキトだよ」


 しかし返事はない。


「寝ているのかな?」とレイン。


「まさか。俺たちと違って深酒に酔っていたわけでもあるまいし」


 三人の間に不穏な空気が漂い始める。

 まさか、という嫌な予感が僕の脳裏を過っていく。

 ……気が引けるが、どうにかして抉じ開けるしか無さそうだ。


 僕たちは【ソノモノ】=ザクレイさんとは違い、騒音を気にする必要が無い。なんらかの道具で無理やりに扉を開くことは不可能ではない。


「アイツを持ってくるか。ついてこい」


 言われ、僕らはアランに続いた。

 アランの向かい先はすぐに理解できた。

 9番の部屋である。


 アランはそれを拾い上げ、数回の試し振り。

 問題はなさそうだな、と握りを確かめた。




「おおおおおッ!!」


 アランはアイアンブレードを手に、何度も扉に突進した。僕らがアリスに声をかけたのは十回くらいだったが、アランの突撃の回数はそれを優に上回った。


 ドガッ! ドドンッ! ドオッ!!

 

 アイアンブレードの矛先は幾度となく木扉を貫かんと牙を剥いた。そしてついに、決定打となる一撃が決まる。


 バキキィ……と、木扉の中央部分にアイアンブレードが突き刺さったのだ。あとは簡単な作業だった。てこの原理を利用し、その穴を広げていくだけ。


 アランは全体重を乗せてアイアンブレードの柄に乗っかったり、助走をつけて蹴飛ばしたり、アイアンブレードの柄を手に振り子のように動いて見せた。


「アラン様、あとはもう突進で十分かと」


「むっ! それもそうだな」


 アランは助走をつけ、全速力で木扉にタックルした。

 すると、ようやくのことで木扉は破壊されたのだった。

 僕たちはやや遠慮気味にアリスの部屋へと足を踏み入れた。


 そして――。



「そんな」


 勢い余って床に倒れ伏すアラン。その横には、一人の女性が横たわっていた。両の瞳は半開きで生気がなく、美しい瑠璃色の髪は赤色に変化していた。


「うぁああッ!」


 怯えた様子でのたうつアラン。

 すぐ真横に死体があれば、アランですらこうなってしまう。人間の本能なのだろう。


「これは……ザクレイの剣だ」


 それは決定的な証拠でもあった。

 アリスは、ザクレイさんの剣によって胸を刺し貫かれ、息絶えていたのだった。


     ☆     ☆     ☆


 僕らは大広間のソファに腰かけ、死んだように黙りこくっていた。誰一人として口を開かないのは、各々に、あの不可解な現実に向き合っているからだ。


 ――密室空間だった。


 アリスは「誰も信じない」と言い残し、自身の部屋へと閉じ籠ったのだ。


 そしてそれは、昨日の昼頃の話だった。ザクレイさんが死亡し、僕とレインによる口論が行われた。それを見たアリスは「誰も信じない」と断言し、自室へと消えたのだ。


 夕食時、アランが訪ねた時には「いらない」と返したアリス。だが、疑心暗鬼に陥った僕によって再度屋敷内の探索が行われる運びとなり……。


 その時には、アリスは間違いなく生きていたのだ。


 つまり、アリスを殺害できた機会は二度に限られる。


 一度目は、僕たちが屋敷内を探索している時。主に、二階・三階の絵画を取り外している時だ。


 あの時であれば、僕たちの目を掻い潜りアリスの部屋を訪れることは可能だった。そして同時に、門扉の鍵を閉めることも出来た。


 二度目は、僕たちが酒に酔って爆睡している時。その間、ザクレイさんは自由自在に動くことが出来た。だから、アリスを殺すことも、そして門扉を閉ざすことも可能だった。


 しかし、二度目の機会にアリスを殺害したというのならば大きな疑問が残る。それは、どうして僕たちを殺さなかったのかということだ。


 理由は分からないが、ザクレイさんは僕たちを次から次へと殺害していった。おそらく、あの藁人形の仕掛け人もザクレイさんだ。


 ――目的は、自身を除いた七人全員の殺害。そのはずなのに、どうして僕たちを生かしておくんだ? 絶好の機会を放棄してまでアリス殺害に拘った理由は?


 そして何より。

 

 どのような手段を用いてあの密室空間を作り出したのか? なぜ密室空間を作り出す必要があったのか? どうしてアリスは扉を開けてしまったのか? もしくは、どのようにしてアリスに扉を開けさせたのか?


 最終的に、僕たちはその難題へと突き当たることになるのだ。


「長年一緒に居たというのに……。ヤツの思考回路がまるで読めない自分がいる。アイツは……ザクレイは、なにがしたいんだ?」


「ただの快楽殺人鬼かもしれねぇ」


 忌々し気に、吐き捨てるようにアランは言った。


「目的なんかない。お前が気付かなかっただけで、アイツは内心にずっと異常性を秘めていた。人を殺してみたいと、そんな欲求がどこかにあったんだ。そんな時に絶好の機会が訪れた。絶海の小島、誰も寄り付かない閉鎖的空間。ヤツの枷は、この誂え向きな空気感によってぶっ壊れたんだ」


 信じたくないな、とレイン。

 僕も同じ気持ちだ。あのザクレイさんが快楽殺人鬼だなんて疑いたくない。


 だが、彼が犯人であるという証拠は着実に揃っている。




 ――違和感。


 なにかがおかしい。


 なんだ、この違和感は。

 またこの感覚だ。深層意識の自分が語り掛けてくる、あの不愉快な感覚。


 なにを見落とした。

 これは多分、ラストチャンス。

 これを逃せば、今度こそ僕は死ぬ。


 考えろ。

 なんとしてでも答えを導き出せ。

 

 なにかおかしい点はなかったか?

 なにか不自然なところは?

 あれだけ屋敷を探り回って、本当になにもなかったのか?(・・・・・・・・・)


 僕の頭がもの凄い速度で回転していく。

 今、僕はありとあらゆる状況を客観視できるような、そんな感覚に陥っていた。


 散りばめられたボードに、一つ一つの場面が映し出されているかのような感覚。


 アランとザクレイさんの剣闘。

 大広間へと続く長廊下。

 目の前に広がる大広間。

 そして、二階・三階の展示場。


 ユキの胸に突き立てられた一本のナイフ。

 誰とも一致しない筆跡。

 ジョンの自白。

 ジョンの死体。


 震えだす机。

 突っ伏すアディ。

 吐血、痙攣、死亡。


 ザクレイさんの胸に刺さるアイアンブレード。

 絶望するレイン。

 アリスの視線を隠すアラン。


 そして、アリスの死体と密室。


 目の前に、大量のボードが展開され、その一つ一つにそれぞれの場面が描写されていた。僕は頭の中でそれらの光景を必死に目に焼き付けていった。


 相違点・矛盾点。

 どこかに生じているはずの歪さ、不自然さ。


 必死に、血眼になって探る。

 しかし。


「ダメ、か――」


 僕は大きく落胆した。

 

 一時的な脳の覚醒、それを以てしても、僕には謎が解けなかった。


 やはり、ザクレイさんが殺人鬼なのだ。

 動機は分からない。ひょっとすると、アランの言った通りなのかもしれない。


 いずれにせよ、だ。

 僕たちは戦うしかない。

 残された人数は三人。


 この面子で【ソノモノ】と対峙するしかないんだ。

 今の僕に分かるのは、ただそれだけだった。

第六章は3話と短めですが、六章で謎編は終わります。

いよいよ本編と言うべき解決編が始まります。

自分でトリックと犯人を暴きたいという方は、六章最終話にて手を止めて下さい。

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