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十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
序章
3/41

プロローグ① 追放

「え?」


 一つの声が飛ぶ。

 その人物は不思議そうな表情で、目をまん丸にして首を傾げる。


 その人物に向け大柄な男が横暴な態度で告げる。

 もう一度、あの言葉を。


「聞こえなかったのか? 追放だって言ったんだよ。お前は弱いしビビりだし歩くのもトロくせぇ。俺たちは今やAランクパーティになったんだぜ? いつまでも足手纏いを置いておくわけにはいかねーのさ。お前みたいな奴が居たら、周りからナメられんだよ」


「そ、そんな……」


「ほっほっほ」一人の老人が笑う。「そんな……とは、これまた随分と悲観に暮れている様子じゃのう。まさか己が弱さに無自覚だったのか? あまり笑わせないでおくれい」


「そもそも論、弱いクセに対価だけは得ようだなんて虫が良すぎるんだよネー。アンタ寄生虫かなにかですかー?」


少女がいうと、もう一人の少女が追撃した。


「役立たずに用はない。それだけ」


「そういうワケだ。だが、ただの追放じゃねぇ。これから行われるのは、おしおき(・・・・)だ」


 大男がいうと、その人物は怯えたように一歩身を引いた。


「なっ、なに? なんだっていうの?」


「顔はやめておけよ」と老人。「あとからタァンマリ(・・・・・)とその身体を豪遊するんじゃからな」


「言われずもがなだ」


 こうして、大男はこれでもかというくらいにその人物を痛めつけた。殴り、蹴り、髪を引っ張り、貸し切りの酒場を引き摺り回した。


 体中に青紫の痣を作りながら、その人物は涙を浮かべ、許しを請う。しかし大男も、それを見ているパーティメンバーも。

 

 止めようとする人物は誰一人としていなかった。


 

 唯一不快感を覚えていたのは、活字の海に目を泳がせる一人の男のみ。


 しばらく経って暴力行為が止むと、大男はその人物の服を破り始めた。


「クック、前から思っていたが、やっぱり良い体してんじゃねーか」


「い、いや……やめてっ!」


 その人物は「助けて」と男に声を投げ掛けたが。

 男は「チッ」と舌打ちを返すだけだった。


「おい、お前の口からも言ってやれよ。今までどう思っていたのかってのをよ。なんでもコイツ、お前に気があった(・・・・・)らしいからな」


 あられもない姿を晒すその人物を見下ろしながら、男は再度舌を打った。心底胸くそが悪い、そう言いたげな侮蔑の表情である。


「役立たず……」


 男が言うと、ドッ! と酒場が沸いた。


「だとよ」


 大男がそう言って笑うと、その人物はポロポロと涙を流しはじめた。

 顔をくしゃくしゃに歪めながら「ううう」と呻き声を発する。


「なに、そう悲観するな。お前の体は俺たちが愛でてやるからよ。これから、タァンマリ(・・・・・)とな。お前はどうする?」


 問われ、男は本を閉じ、溜息混じりに言った。


「年下に興味なんてありませんよ」


     ☆     ☆     ☆


 もう、生きていけない。

 私の体は汚されてしまった。


 それに、想いを寄せていた人にも「役立たず」と吐き捨てられた。


「……なんのために、今まで頑張ってきたのかなあ」


 夜道を歩きながら、その人物はとある一件家の扉を叩いた。

 

 扉から出てきた人物は、ギョッ! と目を丸くする。


「なにがあったんだ!!」


 問うや否や。


「ごめん。私もう生きていけない。……どうか、仇を。アイツらを皆殺しにして」


 言いながら、その人物は懐から一本のナイフを取り出し、そして。


「やめッ――!!」


 制止する声も虚しく。


 ――ザシュッ!!


「……かふっ!」


 石造りの玄関口に、ドクドクと、おびただしい量の血液が流れる。やがて血液は、石造りの床、その一面全てを赤色に染め上げていった。


「一体、なにが……」


 その人物はその場で崩れ落ちた。

 

 しばらくは呆けていた。だが、すぐに頭のスイッチを切り替える。


「片付けなきゃ」 


 アイツらというのがなにを示しているのか、その人物には容易に見当が付いた。

 

 その人物は涙を拭いながら立ち上がり、まずは憲兵を呼んだ。


     ☆     ☆     ☆


「自殺、ねぇ。理由に心当たりは?」


「ありません」


「なにか思い悩んでいたとか」


「知りません」


「兆候とかなかったわけ?」


「気が付きませんでした」


 その人物は、憲兵の質問、その全てに無表情のまま応じていった。彼女を自殺にまで追い詰めたのが何者であるのか、それを決して悟られてはならないからだ。


 アイツらは自分の手で確実に殺す。

 その人物は、そう強く決意していた。


「ま、状況から見て自殺なのは間違いないしね。辛いとは思うが、あまり気を落とすんじゃないよ。ほら、これでも持って花でも手向けてやりなさい」


 そう言って、憲兵は数枚の金貨を寄越して去っていく。その人物は手渡された金貨を強く握り、思いきり床に叩きつけた。


「……アイツらは、確実に殺さなければ」


 その人物はこの日初めて知った。

 

 この世の中には、生きていてはいけない人間が存在するのだということを――。

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