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十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
第四章 謎編④
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第十九話 幻の九人目

 翌日、僕たちは五人で屋敷の外へと赴いた。気分転換の意もあるが、焚き火を確認しておきたかったのだ。もしかしたら消えているかもしれないから。


「完全に消えちまってら。ったく、面倒くせぇぜ」


 火起こしというのも楽ではない。魔法で火を出す分には苦労はないが、素手で行うとなると中々に体力を消耗する。


「はぁ、はぁ……」


 体力自慢のアランが額に汗を浮かべながら、必死に木の枝を回転させる。


「変わりましょう」


 見かねたザクレイさん、上着を脱いでの本気モードだ。彼の動きはアランのそれよりもエネルギッシュでパワーに満ち溢れていた。


「すげえな、ザック」


「有事の際、このザクレイが坊ちゃまを護らねばならぬ故、このような技術も会得しているのです」


 やがて、木と木が擦れ合い煙が立ち始める。


「さ、枯れ葉を」


 指示に従い、僕たちは周辺の草木や葉っぱを渡す。ザクレイさんはそれを火種で包み込み、正座の姿勢を取った。身を屈め、ゆっくりと息を吹きかけていく。


「お前らは木枝を持って来い。もう少ししたら火がつくからな」


 僕はレイン・アリスの二人と共に近場の木枝を圧し折っていく。


 最初は数本で十分だと思っていたが、焦げ跡を目に考えを改めた。どうやら思っていた以上の量の可燃物を要するらしい。


 例えば、最初の八人。その全員が手を繋ぎながら取り囲めるくらいの。それくらいの範囲で火を起こさねば、この高木を超えるほどの煙は立たないということなのだろう。


 僕たちが戻ると、既に小さな炎がゆらゆらと踊っていた。ザクレイさんはその周囲に【火の魔石】を等間隔に置いていった。


「さあ、それをこちらへ」


 僕らは集めてきた木枝を手渡した。ここから先はザクレイさんとアランの共同作業だ。


 丁寧に木枝を積み重ね、少しずつ燃焼の範囲を広げていく。やがて火の勢いは、僅かばかりの恐怖心を煽り立てるくらいにまで増大した。


「明日には消えるでしょうが、ひとまずはこれでいいでしょう」


 僕たちは立ち上る煙を目に、どこか安堵の気持ちを抱いていた。やれるべきことをやっておく。それだけでこんなにも精神的な余裕が生まれるとは。


「備えあれば憂いなし。念の為(・・・)ってやつだよ、ユキト君」


念の為(・・・)、ですか」


 そんな僕の横から、ひょこっとアリスが顔を覗かせた。

 

 瑠璃色の髪、その半分がオレンジに染まり、なんだか不思議な感じである。


「おまじないみたいなものだよ。ま、私は少しも信じてないケド。でもさ、なぁんにもしないよりかはマシなんだよね。黙っているよりかは、よっぽどいい」


 今や、炎は怪物のように暴れ狂っていた。けれど、その光景はどこか懐かしさを掻き立てるものでもある。


 冒険者をやっていると、ダンジョンの中腹で休まねばならないこともある。そんな時、これほど大きなものではないにせよ、火起こしをしたものだった。


「そうだね。確かに、なにもしないよりかはよっぽどマシだ」


 しばらくの間、僕らは炎に見惚れていた。

 だがいつまでもこうしているわけにはいかない。


「そろそろ戻りますか。腹が減っては戦ができぬと言いますしな」


 ザクレイさんに続き、僕たちは屋敷へと引き返していった。扉を閉じる直前まで、炎の爆ぜるバチバチという音が聞こえていた。


     ☆     ☆     ☆


 昼食を終えた後、僕は再び仲間の死体を確認する羽目になった。何故なら、またしてもあの藁人形が出現したからだ。


「どうなっている……」


 流石のザクレイさんも困惑に満ち溢れた表情をしていた。アリスはやはり取り乱し、アランはそれに対して激高の様子だ。見兼ねたレインがアランとアリスの間に割って入り、なんとか事態を収めようと試みていた。そしてその間に、僕は仲間の死を再確認したのだった。


 だが、死者が蘇るなどという話はなく。

 

 やはり全員死んでいた。自分の有する範囲の医学知識と人間としての勘。その二つを用いての再確認作業だったが、三人の死を疑うことは不可能だった。


「あり得ない」


 無意識的に、そんな言葉が飛び出す。


 僕たち五人は互いに監視し合っていた。そして、今朝目を覚ました時には藁人形(あんなもの)は存在していなかったんだ。それは朝食を摂ったあとも変わらない。


 自然と、あの出っ張り(・・・・)部分に目が吸い寄せられてしまうようになっていた僕らは、お互いに藁人形の不在を確認していたんだ。


 そしてその後で、ザクレイさんの言葉を受け、煙を上げる為に外に出た。


 確かに僕たちは時々は別行動をした。


 しかし、誰かが一人きりになるという状況は決して作られなかった。僕はレイン・アリスと付きっきりだったし、アランはザクレイさんと一緒に居た。


 つまり、僕たち五人全員に確固たるアリバイ(・・・・・・・・)があるんだ。

 だからこそ、この状況はあり得なかった。


「まさか」


 この小島には、何者かが潜んでいるとでもいうのか?

 僕たちの全く知らない、意識外の第三者。


「「幻の、九人目が――」」


 声が重なり、僕とレインが顔を見合わせる。

 

 お互い似た者同士らしい。


 薄々は勘付いていたけれど、今ので確信へと変わった。どうやら僕とレインは、互いに近しい思考形態を有しているらしかった。

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