第九話 閉鎖的空間
翌日、朝食を終えた後。
「外出を許可します」
レインが唐突にそう告げた。
反対の意見も二つほど飛んだが、僕としては異を唱える理由はなかった。
ユキが殺害された後、僕たちは三人と四人のチームを作り屋敷内を捜索した。だが、出てきたのはアランのアイアンブレードとザクレイさんの剣のみ。つまりは成果なしということだ。
一応は危険物なので、それらはレインが預かり、9番の部屋に保管してあるらしい。
「え、いいの?」
嬉しそうにアリスが言うが、レインは「期待はできませんがね」と釘を刺した。というのも、現状、この島から脱出する手段が無いからだ。
「こんなことになるだなんて思ってもみなかったからね。転移石は六つしか用意していなかった。手紙の翌日に届いたのは単純に、手紙を差し出した翌日に転移石を送付していたからです」
何が言いたいかというと。
「つまり、帰還用の船がやってくるのにはあと十日ほどの時間を要するということです。ここから王都まではかなりの距離があるからね。
火起こしも無意味さ。島をぐるりと一周する高木に阻害され、煙がどこまで見えることやら。仮に高木を越えたとしても、やはり王都との距離が遠すぎる。僅かに立ち昇る煙を視認することは至難の業でしょう」
そして極めつけは、反魔法力場。島全体を覆うと言っていたが、その範囲は実際にはもう少し広く、島周辺の海域にまで及んでいるのだという。
「ここら一帯の海域、凡そ三十キロメートル。……三十キロを素の身体能力で泳ぎ切った時、初めて反魔法力場の効果を振り切ることが出来る」
さらに、海にもモンスターは生息している。
魔力無しという制限下では、剣一本振るうことすらままならないだろう。
「完全なるクローズド・サークル。そういうことですね?」
アディが言うと、レインとザクレイは申し訳なさそうに頷いた。そしてアリスは「そんなぁ」と悲観に暮れた。
「でも、外の空気を吸うだけでもリラックスできますよ」
僕はアリスを慰めるよう、明るい振る舞いを見せた。
「それに、今の僕たちは警戒心を持っている。お互いにお互いを監視していれば、あんな惨劇は起こり得ませんよ」
僕の言葉が功を奏し、アリスは「そうよね」と僅かに顔を上げた。
「そうよ、そうよ。いいこと言うじゃない、ユキト! そうだわ、全員で全員を監視していればいいのよ。そうしたら犯人は身動きが取れなくなるし、その後のことは王都の憲兵に全部任せればいいんだから。憲兵なら簡単に犯人を特定できるはずよ!」
「ふふ、元気になってくれてよかったです」
言いつつ、レインは「しかし条件があります」と人差し指を立てた。外出の件に舵を戻すようだ。
「まず、男性と女性に別れボディチェックをしてもらいます。その後はもう一度部屋の確認を。そして危険物――主に殺傷能力のあるもの、その全てを没収させて頂きます。いいですね?
ちなみに没収したものは全て9番の部屋に保管させて頂きますので。……とはいえ、この条件下では僕が不審に思われる。なので特別に、皆様には9番の部屋をお見せします」
各自ボディチェック・部屋のチェックを終えた後。凄惨な光景が広がっているのでご注意をと。レインはそう言って、僕たちを9番の部屋へと案内した。
「少し肌寒いですが、それは我慢してください」
そうして僕たちは、9番の部屋へと。
一番大きな個室へと足を踏み入れたのだった。
「なるほど」
僕たちは凄惨な光景とやらを前にケロっとしていた。
しばしの間の後、レインは「ああ!」と手を叩く。
「あまりのショックにド忘れしていましたよ。皆様からしてみればこの光景は慣れ親しんだものなんですよね。僕と違い、アラン様御一行は冒険者なのだから」
どうやら9番の部屋は保管庫として扱われているらしかった。
ただの肉塊と化したモンスターが、白い石台の上にずらりと並べられ、それを取り囲む形で【氷の魔石】が置かれているのだ。
「武器の類も一時的には冷えてしまいますが、劣化することはないのでご安心を。……こういう場所にいると、いつ何時なにが起こるか分からない。だから飲食料はこのような形で保管しているんですよ。ああ、転移石も貯め込んでおくべきだったかな」
後の祭りとは分かっていても、つい口から突いて出る言葉がある。とはいえ転移石は高級品だ。冒険者でもないレインたちが嫌煙するのも頷ける話である。
「とりあえず、怪しい所はないですわね」
「ねぇ、アディ。早く外に行こうよ」
アリスは一刻も早く気分転換したい様子だ。
かくいう僕も全く同じ気持ちなのだが。
「ワシも、思いっきり新鮮な空気を吸いたいわい」
「俺もだぜ。それに、運が良けりゃあ船が通りかかるかもしれねぇ」
「では参りますか」
ザクレイさんの先導で、僕たちは9番の部屋をあとにした。
その後の話し合いの結果で僕たちは、
ユキト
ジョン
ザクレイ
アディ
アリス
アラン
レイン
というチームで行動することになった。
広域な空間では何が起きるか分からない。互いに目が届くよう少人数での行動を、という僕の案によるものだ。
「では、久々に……という程でもないですが。お天道様の光を直に浴びるとしましょうか」
やや明るめに、柔らかな表情でザクレイさんが入口の門扉を開く。
と、同時に。
心地良い涼風と太陽の煌めきが、僕たち七人を出迎えてくれたのだった。
「うぅ~、気持ち良い~!」
弾けんばかりの笑顔を浮かべるアリス。
アディと手を取り合いながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「元気が戻ったようでなにより」
「ええ、本当に」
陽光を反射する透明な瞳を向けられ、少しドギマギしつつ。
アリスが取り戻した元気な姿に、僕はほっと胸を撫で下ろした。




