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15分で世界を救えとかいうウルトラRTAクエスト

作者: チリーンウッド


「あと15分で魔王を倒してください」


 異世界に転生した矢先、女神っぽい人が言った開口一番がこれ。


「あの、意味が分かんないんですが?」


「では時間がないので手短に。

魔王のせいで大地の生命力が枯渇して滅びそう、今すぐ魔王さなきゃヤバい。

あなたの能力はこの星のどこでも行けるテレポート、ちなみに生物には重なれません以上です」


「え!? ごめんもっかい言って!?」


 早口すぎる言葉と突拍子もない状況に困惑する頭。

 しかし俺に猶予は与えられないらしい。

 女神は俺によくわからない魔法陣を付与していく。


「これは転生特典の魔法。

ついでに武器の短剣と銀貨百枚です」


 投げ捨てるよう乱雑に渡されたメインウェポンとお小遣い。


「えっと、ちょっと待っ……」


「それではご武運を」


 そんなことを言いながら、女神は表情筋を一切使わぬ淡々とした様子で消えていく。

 直後光の粒子が舞い、俺の視界の上部にタイマーが浮かび上がった。



『世界滅亡まであと13分』



「……え?」


 聞こえるのは風の音と小鳥のさえずり。

 マジでこっから一切の説明は無し。

 俺はたった一人、ヘンテコな草原に取り残された絶望的迷子となり果てた。








「お邪魔しまぁああああああああすぅ!!!」


 とりあえずテレポートを使ってみた。

 けたたましい音を立てて飛び込んだのは防具屋。

 せめて鎧が欲しいと思い来てみたが……。


「お客さん、弁償」


 金貨数百枚とか書かれた鎧の装飾が欠け、他にも盾や小手なんかが散らばってる。

 テレポートは静かに飛んでくれるわけじゃなさそう。


「戻りまーす」


 俺はひとまず元の草原に逃げることにした。








「どうしよう、これ果てしなく使いづらい……」


 転移先に小規模爆発を起こすようで、コッソリ侵入にはできないし、かといって怪我人がいなかったところ見るに威力はゼロ。

 本当にけたたましく登場するだけ。



『世界滅亡まであと10分』



「時間がなぁぁい!!?」


 ひとまず買い物は諦める。

 せめて強い魔法を覚えるとか、敵の戦力を調べるとか、なんかやらないと!



『世界滅亡まであと9分』



「……魔法を扱ってる学園とかに転移!!」








「フワンフワム・ネコタスカウル」


 つばの広い帽子をかぶった老いた教員が、ふぃっと杖を振る。

 すると一匹の小鳥はネコへと変化した。


「今のように、ネコ化の呪文は――」


「これ借りまああぁぁぁぁああすぅぅ!!!」


 俺は教員が持つ杖と教科書をひったくると、爆速で転移した。








「ひひひっ、さぁキリキリ磨け奴隷ども。

オレ様の宝に傷一つつけやがったら餌抜きだ」


「はい……、ご主人さ――」


「っしゃあっご苦労様でぇぇえっっっすぅうう!!」


 めっちゃ高そうな鎧と盾と剣、あと可哀そうな奴隷ちゃん三人組を手にし、悪そうなおっさんに一礼。


「すいません、ちょっと借りるんで」


 ポカンとするその顔の返事は待たない。

 俺は駆け足で元の草原へと転移した。








「ありがとうございました」

「あなたが来てくれなければ私たちは……」

「私たちに出来ることならなんでも致します」


 赤髪の美少女、モフモフ尻尾の獣人、黒髪ロングっ娘はそれぞれお礼を述べる。



『世界滅亡まであと6分』



 愛でてる時間がねぇ。


「みんな現地解散で、お疲れ!」


 お礼を聞いてて一分ロスしたことを悔やみつつ、俺は次の場所へ転移した。








「ふむ……」


「難しい顔をされて、どうされましたか大賢者様」


「嵐じゃ、不吉な嵐の気配が――」


「ごめんくださっぁぁああああああっっいぃぃぃ!!」


 ”めっちゃ頭いい人”と願ったらここへ転移した。

 すぐそこで目を丸くしてる仙人っぽいおじいさんか?


「すいません、魔王軍って何人構成ですか!?」


「はぇ? ……はて、詳しい人数までは」


「あぅ…えっと……、じゃあ幹部だけでいいです」


 するとお付きの人っぽい男が答えてくれた。


「魔王と四天王以外に幹部は知らん。

それより君は何者……あれ?」


 今の今までいた姿は、影も形もなくなっていた。








「よし草原到着!」


 俺は金持ちの家から借りた剣と盾、そして杖を手に再び転移する。



『世界滅亡まであと5分』



「あっ、お帰りな――」


 元奴隷ちゃんたちに返事してる時間は無かった。








「ウォーボナー様、本日も快調ですな」


「ああ、このままいけば次の王国を攻め落とすも時間の問題よ」


 崩れ去る街を前に高笑いをあげる二匹の怪物。

 剣を携えた細身の忠臣に、ブクブクと太ったカエル顔の化け物。

 

「ところでウォーボナー様、生け捕りにした人間どもですが――」

 

「こんにちわあぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!!」


 転がり込んできた俺を見て、忠臣っぽい人は素早く剣を向ける。


「なっ、まだ生き残りがいたか!」


 睨まれた俺は、腰に差していた杖を向ける。


「えっと呪文なんだっけ……、フワフワネコ助かる!!」


 ひょろひょろと出る毛糸のような魔法の光線は、ポトッと地面に落ちるとタンポポが咲いた。


「死ね!」


「うわっすいません、待って!!」


 容赦なく振り上げられる剣に、俺はとっさに杖で防御する。

 けれども俺に当たるはずだった禍々しい剣は、こちらに触れた瞬間あらぬ場所に転移した。


「ぐおぉぉっ? なんじゃああ!?」


 それはカエル顔の頭上。

 垂直落下した剣先が、ぶっすりと大物の脳天へとぶっ刺さる。


「バカなっ!?」


「えっ、これって自分が移動しなくても使える?」


 そうなれば話は別、俺は忠臣らしき怪物に触れて願う。


「溶岩の中!」


「なにっ、それ――」


 言いかけた言葉は途切れ、完全に姿は見えなくなる。

 本当に飛ばせた……、これなら!


「人間め、貴様何をしたのだ!」


 俺はカエル顔の背後に転移すると、背中に触れつつ全力で願った。


「宇宙!」


 そのバカでかい巨体は転移しない。

 惑星の外は範囲外か。


「意味の分からんことを言いおって……。

だがワシの側近を一瞬で消したことに敬意を表し、一撃で葬ってやろう」


「いいから早くしてマジで!!」


 カエル顔は大きく飛び上がると、大口を開けてエネルギーを収束させた。



『世界滅亡まであと3分』



「消し炭になってしまえっ、蛙獣の滅亡咆哮(レグリエットカノン)!!」


「うおぉぉっ、魔王の元へ!!!!」


 俺はカエル顔の後ろに転移すると、打ち放つ極太レーザーごと魔王城へ移動した。








「よく見ているのだ、世界が終わるさ――」


蛙獣の滅亡咆哮(レグリエットカノン)!!」


 吹き飛ぶ下部達、瓦解する魔法陣、そして何より必殺技の直撃を受けた魔王は頭から血を流す。


「この技、ウォーボナー貴様……」


「魔王様っ!!?

違うのですっ、見てくださいこの人間が!」


 指さした先には人っ子一人いなかった。








「退屈だ……」


 一人呟く(いにしえ)の剣豪は、強者たちの亡骸を見てため息をつく。

 そんな中に響き渡る爆発音。


「ちわぁぁぁあぁっっすぅ、おげんきでぇぇすっかあああぁ!!」


 ごろごろ転がる俺を見て、ドクロ顔をした四天王の一人が剣を抜く。


「斬!」


 すでに転移させる気満々だった俺に斬りかかった刀は、視線の先である天井へぶつかり落下した。


「みっ、見えなんだ……これぞ待ち望んだ本物の強者!」


 ドクロ顔は腰に差さるもう一本の刀をどっしり構えると、ギリギリ聞こえない声で何かを呟く。


天妃仙あまつがひせん滅楽居合めつらくいあい


 時が止まったように動かなくなったその姿。

 隙だらけに見えたので真後ろに転移してそのまま魔王の元へ直行。








「そこだ!!!」


 風も、音も、全てを関係なく切り伏せる奥義。

 最強にして最速の一撃は見事、魔王の首にヒットした。


「シロムダチ、これで我が首を取ったと思ったか?」


 首に食い込む刀だが、刃先は筋肉に押し留められ少量の血を流すばかり。


「はっ、魔王様!?

何故ここに……、いや、この退屈を晴らすにはあなた以上の相手は――」


 戦いを観戦してる時間は無いので次いきます。








「そんなわけで~、僕は君たちを殺したいわけじゃ――」


「だぁぁああああっべらす!!!」


 俺が飛んだ先はどこかの王室。

 しかも王様とか王妃様とかが縛られ、お姫様が今まさに攫われる真っ最中。


「君……、なんかの援軍?」


 いやに冷静な白髪の優男が睨むけど、構ってる時間はありません。


「会って早速だが飛べぇ!!」


 いつものように真後ろに転移して魔王の元へ。



『世界滅亡まであと1分』



 とうとう時間制限が秒単位に切り替わる。


「ぬおぉぉっ、急げぇ!!」


 俺はなんかお礼とかどうたら言ってる王族の皆さんをガン無視して、全速力で転移した。








「ここまで戦える人間は初めてだったよ。

さぁ、もう楽にしてやろう」


 四天王最強の男は、最後の奥の手である胸の宝珠を輝かせる。

 大地が割れ、空に雷雲、大気は震え、星は悲鳴を上げた。


「俺は……俺たちは絶対諦めねぇぞ!

ラルバン! リティア! これで最後だ!」


「おう、オレの力を全部託すぜ!」


「信じてるからね、……勇者様」


 勇者の剣にすべての力が収束する。

 仲間たちの力も、背負い続けた運命も、己の覚悟も。

 全てをこの一振りに賭ける!


「来るがいい。

魔王様から頂いた破壊の力を、その身に焼きつけろ!!」


 人類の光り輝く女神の聖剣が。

 悪魔の邪悪なる魔王の咆哮が。

 世界終焉の狭間で穿たれる。


「聖域・グランドクロス!!」


「落命砲!!」


「だらっしゃっっ元気ですかぁっっっいぃぃぃっ!!!」


 明らかに場違いな場所に出てしまった俺の前で、なんか人類の命運が決ろうとしてる。


「ちょまっ、それ借ります!

このすげぇぶつかり合い借りまぁあああす!!」


 俺は拮抗するマジヤバい光線のぶつかり合いの隙に、まず敵の強そうな人を。

 続けてめっちゃイケメンの勇者様を。

 それぞれ背後に転移して魔王の元へと送る。

 もちろん今の攻撃同士が、魔王を中心にぶつかり合うように位置調整はしっかりと。



『世界滅亡まであと40秒』



「急げ急げ急げぇ!!」








「魔王様危ない!!」


 白髪の男が魔王をかばって勇者たちの攻撃を一身に受けた。

 この場にいる誰もが混乱する状況で、光と闇の拮抗に飲まれ一つ命が散る。


「バカなっ、勇者よ何故ここに!?」


「魔王!!?

そんな……ラルバン、リティア、どこへ行ったんだ!?」


 仲間の姿が見えずうろたえる勇者。

 そしてもう一人転移させられた四天王最強の男は、魔王の元へと駆け寄った。


「魔王様っ、ご無事で!」


「あぁ、だが四天王は壊滅だ……」


 魔王は足元に転がる四天王二人の死骸を蹴飛ばす。


「なっ、いったい何が!?」


「我が身に刃を向けた報いよ。」

そしてこうなった以上、貴様はもう不要!」


 魔王は鋭い牙を四天王最後の一人に突き立てた。


「うがぁっ、魔王様何を!!?」


「勇者が死ねば全ては解決する。

貴様はその為の血肉となれ」


 味方を粛正するため使った魔力を、味方を使って補給した魔王。

 すでに禍々しい力を放っていた体はさらに醜く姿を変え、おぞましくもスマートに骨格が変化する。

 その姿を前にして、勇者は怒りに震えて拳を握りしめた。


「……許せない、お前は仲間を何だと思ってるんだ!

俺はっ、俺はお前がどうしたって許せない!!」


「さっさと戦えぇぇえぇぇええええ!!!!」



『世界滅亡まであと10秒』



「勇者よ、我には遊んでる時間が無い。

手心無く、万物を一撃で消してくれよう」


 魔王は四天王全員の死体を粒子として両手に集め、さらに極大の魔力を込めていく。

 そうして持ち上げるように指先へ集約させた球体は、音も魔力も全てを吸いつくし黒色に染まった。

 荒れ狂う魔力の混沌は次元をゆがめ、時の流れがわずかに遅くなる。


「ナイスだ魔王!!!」


 とはいえ勇者も遅くなってる。

 彼がこのボロボロの体で必殺技を出す時間なんて無い!



『世界滅亡まであと3秒』



「いやまだだ!!」


 俺は崩れ去る世界で雄たけびと共に転移する!!


「俺はっ、俺はぁぁ!!」


 

『世界滅亡まであと2秒』



「魔王様を信じる!!!」


 俺はラスボス臭に満ち満ちた魔王の背中へタッチした。

 魔王の言った言葉を、俺はしっかり覚えてる。

 【”万物”を一撃で消してくれよう】


「万物ってのはあんたも入りますよねぇっ!

そうだろ魔王様ぁ!!!!」



『世界滅亡まであと1秒』



 魔王を送る転移先は、指先に集約させた魔力の玉。

 極限まで凝縮された魔力のブラックホールの中心へ、魔王の身体は送り込まれる。


「が……バ………な…………………」



『世界滅亡まであと――――








 あの日、魔王を討伐した俺は世界中から救世主と崇められた。

 四天王から王族を助けたことがきっかけで、公爵という爵位の高い家の娘さんと婚約。

 成り行きで助けた元奴隷の三人娘は、今は俺の使用人として働いてくれている。


「ご主人、今日はフェルノーア王国での謁見だそうです」


「ああ、ありがとう」


 魔王を倒した後も、俺のテレポートは健在だ。

 この能力で交易に手を出したら、それはもう儲かって仕方がない。

 最近は慈善事業として、奴隷の撲滅運動に参加している。

 今いる世界にだって、自由の女神が建てられるのはそう遠くないかもしれない。 


「ちょっとぉ、ご主人まだ準備しないの?

謁見の時間まで、あと15分しかないんだよ!」


「大丈夫、15分ほど長い時間もないさ」


 15分あれば世界を救える。

 世界を変えられる。

 俺はそれを知っているのだから。


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