2話 ヒーローさんこいつ誰です?
よろしくおねがいします
次の日の昼下がり、どこかに飯屋がないものかと京介と探した結果、うどん屋を見つけたので入ってみたのだが……。うまい。うますぎるぞ、このうどん。店内も親父さんの高倉○みたいな硬派な風貌とマッチしていて雰囲気もいい。
「うっめー!!このタレも美味い。うどんも美味い!なんだよここ。こんな穴場があったなんてよ〜生まれてきてくれてありがとう親父さん!」
語彙力どうした。
「…………ありがとうございやす」
硬派だな親父さん。いや、人見知りか?いよいよ健さ……おっとと。
それはさておき、午前中の成果についてだが、目撃証言が得られるか簡単な聞き込み調査をした。しかし、ロクな情報が得られなかった。
どいつもこいつも『ヒーローがやるんだろ?じゃあオタクらいらないんじゃない?』だの、『アカーキン様がいらっしゃるの!?きゃーッ!!!』だの……。あいつらが何をしているのか知ろうともしないで……ッ!
「──ひっかしよ〜?にゃんでまた……」
京介が口に物を詰めながら呟いた。
「ん?なに?」
「ング。いや…そういやお前からあの子のこと、ちょこっとしか聞いてないからよ」
「ああ、そうだったな」
「そろそろ教えてくれよ。正直、ヒーローに連れ去られた女の子なんて少なくともマトモじゃねーぞ。それほど、希少価値の高い何かってこったろ。もしくは、外見目的だな」
そういうズバッと言うところが苦手なんだよな……。
「そうだな……どこから話したもんかな」
「ああ、別に簡単で良いから。俺、頭あんま良くねーし。ズズズッ!!」
「ん〜簡単に言うとあの子、いいや秡場すがるは──怪人だよ」
「んんん!?えっほごほごほ!!」
うどんが喉に詰まったのか顔を真っ赤にしてむせる京介。まあ当然だよな。言ってなかった俺が悪い。うん。あれ?なんで俺言わなかったんだ?
「おまっ!俺に……俺に怪人の女、探せって言ってんのか?」
「ああ。探すのは俺も初めてだから、嫌なら別に――」
「最っっ高じゃねーか!!?」
目をうっとりさせ、宙を見つめる京介。うん。こういうところも苦手。
「だろうな。お前、俺との組手もにこにこだし、今更やーめたっていうくらいならもっと前の段階でやめてるもんな。ま、それはともかくとして、すがるが怪人と分かった途端、国が動いちまったんだよ」
「ま、あの頃の子供でヒーローの才能、英雄戦技持ってるのはかなり珍しいわな」
「そういうことだ。そこですがる確保に投入されたのが『ジュピター』だ。」
「ジュピター……ってあのジュピターか!?なんで!?」
――世界No. 1ヒーロー『ジュピター』。当時の俺にジュピターを倒せるわけがなく、あっさりとすがるは連れて行かれてしまった。
「おおかた……あいつらの研究用だろうな」
「相当な子だと見た」
当たり前だ。あんな英雄戦技持った人間はそういない。それにあの子は怪人だが、怪人ではない。まだ犯罪を犯していなかったし、心はまだ幼い、ただのやさしい善良な女の子だったんだ。悪さなんてする子じゃない。ただ、ヒーローってわけでもなかっただけで、めちゃくちゃな事言って、連れ去りやがった。
「俺は今回の事件はあの子がやったものではないと思う」
「だが、監視カメラにはあの子しかいなかったろ」
「逃げるように出てっただろうが!?」
「まあまあ落ち着け。その、すがる?ちゃんって断定はしてないだろ?可能性の話をしたんだ。それに目先の問題は誰がやったかじゃない。あの子の行方、だろ?すがるちゃんさえ見つかればその子の安全確保、首謀者の顔、英雄戦技の詳細を知れると、良いことずくめだ。ズズズッ!!」
京介は真面目な顔で話す。確かに京介の言うことには一理ある。一旦、冷静になろう。すると京介は、あっと、何かを思い出したように、
「そういえば約束ってなによ」
「なんで急に?」
「いや、気になるじゃん?そんな大物の女の子となんの約束したのかさ。ズズズッ!あ、しゅんません、もう一杯お願いしましゅ」
まず君、食うのやめない?まあいいや。
「河川敷あんだろ?あそこ……で……──あッ!」
「ほぇ?」
そうだ。なんで気づかなかった……。やっぱりなんか変だぞ。大事な記憶をすっぽり抜かれたみたいだ。
「ッ!行くぞ!」
「行くって……どこに?ズズズッ!」
「河川敷だ!あそこですがるが待ってる──ってうどん置けや!!!」
親父さんには勘定をつけておいてもらい、店を出て、車に乗り込む。
「なあ、あそこまた行かね?あの親父さん多分」
「あとで。俺の読みが正しければ──」
車を河川敷まで走らせるていると、徐々にだが、それでも異常な速度で太陽が沈み始めた。
やっぱりな。やつが、No.1ヒーロー『ジュピター』が日本に向かって来てる。どうして……アフリカに出張中のはずだろ!?
河川敷に着き、橋下に向かう。そこは草が鬱蒼と生い茂ていた。
昔、この中であの子と遊んでいたのを思い出すな……
ああ!このテーブル懐かしい〜……わざわざ家から持ってきてここで――って違う違う!感傷に浸っている場合か!
すがるがいるとしたらあの川辺だ。あそこにはザリガニがたくさんいて、秋にはトンボもいる。
――ここだ。この誰が作ったか分からないダンボール小屋。少し形が崩れ、穴も空いているが、あの時のままだ。一体なぜ……?
「っ!?おい京介!」
ダンボール小屋には少女がうずくまっていただけで、すがるの姿はなかった。少女は……ゴスロリ?いかにもロリっ子って感じ。趣味か?
見れば、足や腕には痛ましい傷が多く、首筋には意味ありげな弓の絵が──焼印だろうか──深く刻まれている。少女は気を失っているようだ。
「あれま……こいつはひでーな。こいつが例のすがるちゃんか?」
「いや……すがるではない」
「それじゃあこの子って」
草むらの方から音がした。人だ。
「──おーい!お前ら、怪人、見つけられたか?早いとこヒーローに報告して……」
草むらから老刑事が、……いや誰お前。
「悠里!誰だこいつ!!」
京介も気づいたようだ。
「な、なにを言ってるんだ私だよわた──ぶるはッ!!!?」
話しているところ、悪いが殴らせてもらった。川に頭から突っ込んでいく男は老刑事ではない。あの人は手柄を間違ってもヒーローに渡そうなんて言わない。それに、
「お前がなんと言おうと、お前はあのクソ刑事ではなく、英雄戦技を持ってるなら怪人、もしくはヒーローだ。そして、怪人やヒーローなら身分を隠したりする必要がない。ってことは、この子には俺らに知られたくない何かがあるってことだ」
そして、俺らの計画を知っている可能性が高い。危険だ。ここで倒す。
「ふっふっふっふ。バレてしまったようだ──ぶべらッ!!!!!?」
川から這い上がってきた男を、京介が横から綺麗な右ストレートを繰り出し、また川に吹き飛ばした。
「あ、ごめん。今ダメだった?」
「いんや?大丈夫。──ジュピター来る前に終わらせよう」
俺たちがツートップと言われる所以、見せてやる。あ、バカは後で訂正させよ。こいつと一緒にされるのなんか心外だ。
「お前らぁぁぁああ!!人が話している時にぃぃ!許さない!許さないぞぉぉぉぉ!!」
先程とは違い、川から大ジャンプして上がった男は、体からボコボコと音を立て、人の体から液状になり、やがてまた、人の体に変形していった。
なんとも不気味な能力だ。骨が軋み、肉が服を張り裂かんばかりに膨張し、やつは、ある男の姿へと変わった。
「──アカーキン……」
「そうだ!僕の英雄戦技は擬態。触った相手の姿かたちだけでなく、身体能力までも似せることが出来る!」
自身満々に自分の能力を説明をし始めた男は、擬態ヒーロー『アンダードッグ』。つまり、彼女を探していた依頼人だ。
……1つ、言いたい事がある。
「研究者って言うからどんなやつかと思ったら、お前、死亡フラグって言葉知らないのか?」
怪人とはヒーローの才能に目覚めた者のことです。ようは、ヒーローと同じです。
才能に目覚めた瞬間に自分がどちら側か本能で理解します。また、相手が怪人だと判断できます。
すがるちゃんが怪人だとバレたのそういうことです。アンダードッグは詰めが甘かったためバレました。
本来、相手がヒーローかどうかは分かりません。