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接触

 11月9日。午前8時。脩文高校2-A教室。

 高瀬は自席で右手で頬杖をついて窓の外を見ていた。

 HRの開始を告げるチャイムが鳴る。ガラガラと引き戸を開け、教師が少女を連れて教室に入ってきた。

 黒髪のロングストレート、涼やかな目元、細面、色白のスレンダーな美少女だった。 背は160cmほど。

「あー、年内いっぱいこのクラスで学ぶ来栖愛生さんだ。席は悪いが鈴木、お前後ろに行ってくれ」

「は?」

 高瀬の隣に座っていた鈴木と呼ばれた男子生徒が声を上げる。

「大人の事情というやつだ。わかってくれ」

 高瀬は頬杖をついたまま来栖を見る。来栖は高瀬をじっと見つめ、微笑む。クラス全体がどよめいた。

「かわいー」

「高瀬とどんな関係なんだ……?」

「スタイルいいなあ。羨ましい」

「こないだあいつきれいな外国人と一緒に帰ってたよな」

「高瀬って普通じゃん。何があったんだ」

 高瀬はそのまま右手で額を覆い、小さくため息をつく。

 鈴木は不平をいいながら机ごと移動していく。

「高瀬、廊下に机と椅子きてるから運び込んでくれ」

 担任に言われ高瀬はそのまま廊下へ移動し、机と椅子を運び込んだ。そこへ来栖がやってくる。

「はじめまして、高瀬さん」

 来栖は落ち着いたトーンではあるものの、少し掠れた声で高瀬に話しかける。

「はじめまして」

 その挨拶にさらにクラスがざわめく。

「あー、高瀬。来栖さんの面倒、見てやってくれ」

「はい」

 高瀬は素直に返事する。ホームルーム終了を告げるチャイムが鳴った。


 休み時間。来栖の周りに女子の輪が出来ている。高瀬は席を立ち、輪から離れる。そこへ今泉がやってきた。

「諒も愛の伝道師になったようだな」

 無言でデコピンをぶち込む高瀬。額を押さえ、しゃがみ込む今泉。

「痛え! 酷いな諒!」

 そこへ木田がやってくる。

「ねえ、高瀬くん、ちょっといいかしら?」

「あんまり良くないが、いいぞ」

「質問があります。来栖さんとはどんな関係なの?」

「両親の仕事に関係があるってことしか知らない」

 高瀬が首をかしげて答えると少女は右人差し指を高瀬に突きつける。

「それだけ⁉ それだけで鈴木くんは後ろに下がったの?」

 高瀬は突きつけられた人差し指に左手を上げ、手のひらで遮る。

「人を指差すものじゃない。それにそれ以外知らないのは事実だ」

「わかりました、そういうことにしておきます、納得はしないけど」

「まあ、俺も納得できていないんだがな」

 高瀬は肩をすくめる。今泉が立ち上がる。

「あれだな、諒。お前やっぱり愛の伝道」

 高瀬は無言で二発目を放つ。のたうつ今泉。

「同じところ、同じところはやめてっ!」

「バカ言うからだ」

 高瀬はそれだけ言うと来栖を見やり、女子の輪に入り込む。

「はいはい、このへんで質問は一旦中断。来栖さん困っているよ」

「うるさい高瀬下がれ」

 制服をだらしなく着崩した女子が高瀬に向かって吠える。

「だそうですが、来栖さん、どうします?」

 高瀬に話を振られると来栖は俯きながら小さく言う。

「できれば、中断してほしいです。みなさんがお嫌いというわけではないのですが、一斉に聞かれるのはすこし怖いです」

 来栖の言葉に輪を作っていた女子たちはお互い顔を見合わせる。

「嫌われてるわけじゃない、テンポと勢いを考えてくれってことだと理解しておけばいいさ」

 高瀬はそれだけ言うと自分の席に戻る。輪を作っていた女子は来栖に謝罪し、高瀬を睨みつけてから三々五々席に戻っていった。

 回復した今泉が立ち上がる。

「もう少し言い方を考えたほうがいいな、諒」

「そうだな。善処するよ」


 休み時間ごとに来栖を囲んで気を使いつつ質問攻めにする女子が絶えない。結局放課後までまた来栖は女子に囲まれている。高瀬は左手で頬杖をついたままその様子を眺めている。

 来栖は小さく手を振る。次に立ち上がり、かばんを持って高瀬の肩をつつく。

「はい?」

 高瀬は返事をしながら頬杖を外し来栖を見上げる。

「あの、高瀬さん、ちょっと……」

 高瀬は立ち上がると同様にかばんを持ち来栖の後について教室を出ていく。

「どこかでお話できるといいのですが……」

 来栖に言われて高瀬は手招きをし、理事長室へ向かい、ドアをノックする。

「はい」

「高瀬です」

「……入りたまえ」

 高瀬はドアを開け、一礼する。

「失礼します」

 高瀬に続いて来栖も一礼し入る。

「ど、どうしたのかね……?」

「北見、少し外してもらえますか?」

 来栖は理事長に向かってそう告げる。理事長はしばらく逡巡した後、部屋を出る。

 来栖は奥側のソファーに座った。高瀬は来栖の向かい側に座る。

「で、お話とは?」

 高瀬が切り出すとしばらく来栖は目を閉じてから切り出す。

「色々と、あなたのことは聞いています。AEGISのNEAD-2所属。クラスはB。知性魔法装置インテリジェントマジックデバイスのガーランドのマスター。コードネームは格闘家(グラップラー)

 高瀬は左の革手袋を外し、ジャケットのポケットに突っ込んだあと右手で額と右目を覆う。

「ガーランド、沈黙解除」

 高瀬はそう命じるとため息を一つつく。

《そうですね》

「ガーランドって女性でしたのね」

《私に性別はありませんが、女性として扱われることが多いですね》

 高瀬はため息で返答する。

「来栖はAEGISの出資者ですのよ」

 さらに大きくため息をつく高瀬。右手を外し、来栖を真っ直ぐ見る。

「本題を」

「そうでしたわ。私、次女ですの」

「それが、何か?」

「来栖は古い家で、姻族の力をもって巨大化してきました」

「もういい」

 高瀬は首を振って立ち上がる。

「話の途中で遮るなんて、失礼ですわ……」

「失礼で結構。俺は()()()()()()に向かない。射手(アーチャー)あたりにでも頼んでくれ」

《マスター、僭越ながら》

「黙れガーランド」

 高瀬は鋭く言うと踵を返しジャケットのポケットに手を突っ込みながらドアへと向かう。

「……待ってください」

 震えている来栖の声を聞き、立ち止まり、左足を引いて振り返る高瀬。

「私はこのために用意された器です。無用となるなら()()されるでしょう」

 高瀬は半眼で来栖を見下ろす。

「それがどうした。お前がどうなろうと俺の知ったことではない」

 来栖の息を呑む音に高瀬は頭を振り、右手で右目と額を覆う。

「すまん。言葉が過ぎた」

 高瀬は顔を覆ったまま謝罪の言葉を口にする。

「だが」

 高瀬はここで言葉を切り、左手で来栖を指差す。

「器ということは、この依頼はフェイクだろう。騙し討ちをするクライアントを信用するわけにはいかない」

 来栖はしばらく俯き、小さく切り出す。

「はい……その……私は高瀬源一郎、あなたのお祖父様の実験結果の一人でもあります。そういう意味では、その……」

 高瀬は右手で顔を覆ったまま天を仰ぎ、ため息をつく。その後来栖に向き直り、手を下ろす。

「そっちはなんとかしてやる。人生を棒に振るものじゃない」

「でも……」

「高瀬源一郎はもうこの世にいない。亡霊の実験に付き合う必要はない」

 高瀬の言葉に来栖は目を見開いて高瀬を見る。

「え……?」

源一郎(あれ)()()()()()ために俺に始末された、というわけだ。皮肉な話だな」


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