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生活

 解放された高瀬は買い物を済ませて自宅へ戻る。そのままリビングへ移動するとアリスが床に座って洗濯物を畳んでいた。

「オカエリ、リオ」

 丁寧にボクサーパンツを畳んでいるアリスを見て、高瀬は硬直した後右手で顔を覆う。

「ああ、そうか。洗濯物……」

「ン? どうシタの?」

 アリスが不思議そうに高瀬を見上げる。

「いや、俺が悪かった。次から考えておく」

「あ、コレ?」

 アリスがニコニコしながら畳んだ高瀬のボクサーパンツを掲げる。

「少しは恥じらえアラサー女子」

「あらさー?」

 アリスは首をかしげる。高瀬は大きなため息をつく。

《マスター、思春期ですねー》

「黙れガーランド」

 ガーランドは甲の丸いコアをゆっくりと明滅させる。

「ねえねえ、ガーランド。あらさーってナニ?」

《和製英語のAround thirtyの省略形です。Around the age of thirtyってところでしょうか》

「女子ってものすごく若い女性ってイミよね。あらさー女子ってヘンな言葉」

《一般的に女子は若い子を指しますが、女性全般を意味することもあります》

 高瀬はキッチンに移動し、途中で買ってきたこんにゃくと豚バラ肉と豆腐を冷蔵庫にしまう。

「アリスは米食べられるか?」

「ダイスキよ。ヘルシーだもの」

「健康的か……?」

 高瀬はボウルに米をあけて研ぐ。

「だって、日本人、長生きネ」

「それはたまたまだろう」

 高瀬は研ぎ終えた米を炊飯器へ投入し、タイマーセット。

「今日のゴハン、ナニ?」

「具だくさんの味噌汁、豚汁とほうれん草の白和えの予定」

「シラアエ?」

「豆腐とごまのペーストと茹でたほうれん草を混ぜたものだな」

 高瀬は行平鍋に昆布をいれ、水を張る。豆腐にキッチンペーパーを巻き、重しをつけて冷蔵庫に戻す。

「ナニしてるの?」

 洗濯物を畳み終わったアリスがキッチンに入ってくる。

「こっちは出汁の準備だ。このまま30分以上つけておくといい出汁が取れる」

「ダシ? ウマミのこと?」

「そうだ」

 しばらくアリスはじっと高瀬を見つめる。

「なんだ?」

「ンー、リオ、なんでそんなにりーおうりスキなの?」

「りーおうり? ……ああ、料理か」

 高瀬もしばらくアリスを見つめる。ため息を付いてから静かに答える。

「好きに理由はないよ」

《マスター、僭越ながら》

「黙れガーランド」

 ガーランドはコアを激しく点滅させる。

「ンー……リオ、アタシ、オネーサン。ナヤミあるなら、聞くヨ?」

「ああ、そのときにはお願いする。ところでしばらく時間がかかるんでこれからジム行くけど一緒に行くか?」

 高瀬がそう聞くとアリスは頷いた。

「リオのゴハン、オイシいからアブナいのよね」

「じゃ、行くか」

 二人は家から徒歩10分ほどの24時間営業のジムへと向かった。


 二人は1時間程ジムで体を動かし、自宅へ戻ってきた。

「先に風呂入ってて。その間に夕飯作っちゃうから」

 アリスは高瀬の言葉に従い、洗面所へと着替えを持って消える。

 高瀬はキッチンへ移動し、炊飯器のスイッチを入れて、米を炊き始めた。

 その後昆布入りの行平鍋を弱火より少し強い程度の火にかけ、ゆっくりと沸騰寸前に持っていく。

 その間に鰹節を削り、こんにゃくを短冊に切る。こんにゃくはボウルにあけて塩を振る。

 沸騰寸前で昆布を取り出してから火を強め、一旦沸騰させてから火を落とす。

 削った鰹節を大量に落とし、中火にかけて沸騰させ、火を弱めてからアク取りをししばらく煮る。味を見て火を止めてからボウルに濾す。

 行平鍋にまたお湯を沸かし、塩を振ったこんにゃくを茹でる。

 茹でたこんにゃくはザルに上げてそのままにしておく。

 ストックの人参を半月切り、大根をいちょう切りにする。里芋の皮を剝いて一口大に切る。ごぼうはささがきにし水にさらしてアク抜きをする。

 豚バラ肉を3cmほどの幅で切る。

 鍋にゴマ油を入れて火にかけ、人参、大根、ごぼう、里芋、こんにゃくを炒める。油が回ったところで豚バラを投入して炒め合わせていく。

 豚バラに火が通ったところで出汁を加えて沸騰させてからアクを取り、味噌を溶く。ここで火を弱める。

 新しい鍋を取り出し、湯を沸かしてほうれん草を湯がく。湯がいたほうれん草は氷水へ落とし、冷やす。

 冷やしたほうれん草を3cm程度の幅で切り、水気をよく絞る。

 ごまをひたすらすり鉢で練り、フードプロセッサーに落とす。冷蔵庫から水切りした豆腐を取り出して、ちぎってフードプロセッサーへ。

 絞ったほうれん草を器に入れてほぐし、フードプロセッサーの白和え衣を加えてしっかりと絡むように混ぜる。

 煮込んでいる鍋へさらに味噌を加えて味を整える。

「ふー、キモチよかった」

 風呂からアリスがリビングへやってくる。

「そりゃいい、じゃあ、俺もシャワー浴びてくるわ。先食べてて」

 入れ替わりに高瀬が風呂場へ移動する。

 高瀬はさっさとシャワーで汗を流して体を洗い、風呂を出る。

 アリスは律儀にダイニングで待っていた。

「先に食べててよかったのに」

「ソレ、ヨクナいネ。ゴハンはイッショにタベるものデスヨ」

「そんなものかね」

 高瀬は席につくと箸を取り、手を合わせる。

「いただきます」

「イタダキマス」


 食事の後、二人はリビングのソファに並んで座ってのんびりほうじ茶を飲みながらニュースを見ていた。

「ネー、リオ……アタシね、ダラクすると思う」

「堕落?」

 アリスは腕を組んでウンウンと頷いている。

「オイシいゴハン、毎日食べたらダラクするよ」

 高瀬は苦笑いをしてから茶を一口飲む。

「俺たちは()()だぞ。そもそも堕落している」

「ソーダケド、ンー、チョトチガうヨ」

 高瀬はアリスの頭を軽くガーランドでぽんぽんと叩く。

「ンー、リオ、ソウイウの、ヨクナいヨ」

 アリスは微笑みながら高瀬に言う。

「そういうの?」

「スキになったらドウスるノ?」

 高瀬は動きを止め、その後左腕を下ろす。

《マスターは少し翼殿を見習ったほうがよいと思います》

「あれを見習え⁉」

《愛の伝道師を自称する方ですよ。参考になるはずです》

「ナニソレ! リオのトモダチ、オモシロい人がいるんだね」

 アリスがくすくす笑う。

「面白い……まあ、面白いやつではあるか」

「コンド、会わせてネ」

 高瀬は右手で顔を覆い、ため息をつく。

「一般人だからな? お手柔らかに頼むよ」

「ワカッテル」


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