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遭遇

 11月4日水曜日、朝。

 高瀬は鶏もも肉をフライパンで焼き、隣のコンロで卵焼きを作っている。

 冷凍庫かられんこんのはさみ揚げ、焼鯖を取り出してし、電子レンジへ。

 炊飯器に残っている保温の米をバットに広げ、更に茶碗にも盛る。

 溶き卵を茶碗に落として醤油。それを掻っ込む。

 卵かけご飯を食べ終えた高瀬は、弁当箱を取り出し、バットで冷ましたご飯を詰めて、おかかを振ってのりを乗せる。おかずには焼いていた鶏もも肉、卵焼き、レンジのはさみ揚げ、焼鯖、冷蔵庫から取り出したブロッコリーを詰める。

 高瀬は炊飯器の保温を切ったあと、ガーランドにラップを載せてその上に米。手早く包む。

《マスター、一応私でも熱は感じます》

「そうか、俺は感じない。頑張れ」

 高瀬は平然とラップした米をそのまま冷凍庫に入れていく。

 高瀬は髪を7:3パートにして整えてから制服に着替えて家を出た。


 高瀬は昇降口で上履きに履き替えるために靴を脱ぎ、下駄箱を開ける。

「おはよう諒」

 高瀬に話しかけた男、背は160cmほどの痩せ型で眉目秀麗、声は甘いタイプだった。その男は自分の靴を今泉(いまいずみ)(つばさ)と書かれた下駄箱にしまう。

「ああ、おはよう、翼」

「今日の四限のしゅうこう先生の物理、小テストだよな?」

「そうだっけか。まあ大丈夫だろ」

 二人は他愛のない会話を続けながら2-Aと書かれた教室へ移動する。

「お前頭いいもんなあ……物理苦手なんだよ」

「翼はそもそも物理だけじゃなく全般的に苦手だろう」

 今泉は苦笑いを浮かべる。

「いやあ、ほら、俺愛の伝道師だからさあ、忙しいんだよ」

「……はいはい」

 高瀬は肩をすくめて返答する。


 昼、高瀬は自作の弁当を広げ、食べていた。

 今泉が前の席に座って焼きそばパンを食べながら高瀬に話しかける。

「なあなあ、さっきの物理のテストだけど」

「口の中のもの、食べ終わってから喋れ」

 今泉は焼きそばパンをいちごミルクで流し込む。その姿を見て高瀬は首を小さく振り、ため息。

「よくソース味の食べ物をいちごミルクで流し込めるな」

「えー、塩味とスパイシーさに甘酸っぱいところが絡み合ってサイコーじゃん」

 高瀬は一旦箸を置いた。内ポケットのスマホを取り出して画面を見る。画面には「ありす」の文字。タップし通話を始める高瀬。

「昼食べてるところになに? ああ……は? え? なんで?」

 しばらく通話を聞いている高瀬。盛大にため息をつく。

「片付けが終わってないんだよ……まったく……正式な抗議は後で出すが、とりあえずバカって言っといてもらえる? それじゃね」

 通話を切るとスマホを戻し、弁当に戻る。

「諒、どしたん?」

「野暮用だ。大した話じゃない」

 高瀬は弁当を黙々と食べる。

「それはそうと、さっきの物理なんだけどさ」

「単純なバネ運動だろ。微分方程式で解ける」

「びぶんほうていしき……?」

 今泉が首をかしげる。高瀬はため息。

「数学ちゃんとやりなおせ。まずはそこからだ」

「えー」


 放課後、高瀬は鞄を持ち、教室を出ていく。昇降口へ降り、靴を履き替えて自転車置き場を経由して校門へ向かう。

 そこにはブルネットロングヘアの白人が大きなキャリーバッグを脇に置いて立っていた。

 髪は緩やかなウェーブがかかっており、きれいに手入れされている。

 ブラウスを突き上げている豊かなバストと細いウェスト、丸いきれいなヒップという完璧なボディライン。かっちりとしたジャケットとスーツがそれらをさらに強調している。その体の上に乗っているのは整いすぎていて逆に恐怖を覚えるほどの美貌。

 高瀬が自転車で通り過ぎようとしたときに、その美女が声を上げる。

「リオ! やっと見ツケタよ」

 しっとりとした女声。少し訛りのある日本語で高瀬を呼ぶ。

 高瀬は女性を無表情のまま見て、自転車を降りる。

「もしかして、アリス・リデルか?」

「モシカしなくテモ、アリス・リデル、デス」

 高瀬はアリスを上から下まで眺める。

「じゃ、行こうか。歩くなら30分はかかる。キャリーは俺が持とう。自転車を頼む」

「あ、ハイ」

 アリスは自転車を受け取る。

「じゃ、行こうか」


 高瀬の自宅。かつての姉の居室だった部屋をアリスに割り当てる。

「家具の中身はほぼ空っぽのはずだ。自由に使ってくれていい」

 高瀬は帰路の途中で購入したシーツをアリスに渡す。

「これを使ってくれ。鍵はかからないがプライバシーは尊重する。家電の使い方なんかを少しずつ覚えてもらうが今週いっぱいはお客さんだ」

「アリガト」

 アリスは高瀬をハグする。

 それから高瀬は家の設備の場所と物によっては使い方を教えていく。風呂、洗濯機、食洗機、トイレ。

「ああ、そうだ。食べられないもの、アレルギーその他を教えてくれ」

「ンー……特にはナイ、デス」

「そうか、アルコールは飲むか?」

「タマにはノみます」

 高瀬は冷蔵庫の中を覗き込み考え、微笑み、頷いた。

「よし、買い物に行くぞ」

 エコバッグを持ち、アリスを誘う。

「エ?」

「来週から家事担当になるんだろ?」

 高瀬はウィンクするとアリスを連れ、マンションそばのスーパーへと連れて行く。

 高瀬は買い物かごに次々と放り込む。ベビーリーフ、グリーンリーフ、いぶりがっこ、ディル、ドライイースト、ベーコンブロック、タラ、ハートランドを4本。クリームチーズ、クラッカー、冷凍枝豆、モルトビネガー、春巻の皮。

「ナニ、ツクるのです?」

「ふふ、秘密」

 高瀬はアリスにまたウィンクする。


 家に戻るとダイニングにアリスを座らせ、高瀬は調理を始める。

 ボウルに薄力粉、片栗粉、ドライイースト、塩を入れ、ハートランドを注ぐ。

 冷凍枝豆を20さやほど解凍。

 タラの皮を剝いて一口大にカット、塩胡椒をしておく。

 いぶりがっこを刻む。クリームチーズと刻んだいぶりがっこを器に入れ、さっくり混ぜる。皿にクラッカーを並べ、器を添える。タンブラーにハートランドの残りを注いで、カウンターに置く。

「とりあえずこれでもつまんでて」

 ダイニングテーブルに着いているアリスがタンブラーと皿をテーブルに移動させ、まじまじと皿を見ている。

「……ナニ、コレ?」

「大根の燻製の漬物とクリームチーズだ。ハートランドはまだあと3本あるから、足りなくなったら言って」

 フライパンを熱している間にベーコンブロックから1cm角のベーコンを切り出す。

 熱したフライパンにベーコンを落として焼きながら、グリーンリーフを一口大にちぎり、ベビーリーフと共に水洗い、水気を切って皿に盛り付ける。カリっと焼けたベーコンをのせ、パルメザンチーズを散らしてからシーザードレッシング。

 フライ鍋に油を入れ、火にかけてからサラダをカウンターへ。

「シーザーサラダっぽいなにものか」

「ナニソレ」

 アリスはくすくす笑う。

 じゃがいもをよく洗い、皮付きのままレンジにかける。

 冷蔵庫からベビーチーズを取り出し枝豆とほぼ同じサイズに切り出す。春巻の皮を4等分、その上に枝豆と切り出したチーズを交互に並べ、水溶き小麦粉をつけてくるむ。

 巻いた春巻を揚げる。

 塩コショウを混ぜた小皿を添えてハートランドの追加とともに出す。

「リオ、コレ何?」

「枝豆とチーズを揚げたものだ。ビールのつまみに丁度いい。今日は酒のアテだけ作るつもりだ」

 アリスは目を丸くした後、笑う。

「ナンで?」

「美女のほろ酔いを見るのが好きなんだよ」

「ナニソレー」

 アリスは陽気に笑う。凛とした美貌から、少し柔らかい表情へ変わる。

 高瀬は電子レンジで加熱したじゃがいもを適当なサイズにカットする。

 油にじゃがいもを落とし、素揚げにする。

 揚げている間に玉ねぎみじん切り、水に晒したあとキッチンペーパーを使って水気を搾り取る。ケッパー、ディルを刻んで絞った玉ねぎ、マヨネーズ、粒マスタード、レモン果汁、はちみつ、塩とよく混ぜ合わせ、タルタルソースにする。

 ちょうど揚がったじゃがいもの油を切り、塩を振る。

 タラの水気をとってから小麦粉をまぶしてボウルの中で発酵させた衣を付けて揚げる。

 同じように油を切って、素揚げじゃがいもとタルタルソースとともに皿に盛る。

 ペリエとモルトビネガーと共にフライをダイニングテーブルへ持っていく。

 アリスはタラのフライを食べる。

「コレもオイシい」

「そりゃどうも。素人料理だけどな」

 高瀬はグラスにペリエを注いでサラダを小皿に取り分け、食べ始める。

「ンー……アタシこれ以上オイシいゴハン、ツクレるのかな」

「じゃあ分担制でいいや。俺、ご飯作る。買い物とか洗濯とかは任せた」

 アリスはテーブルに突っ伏し、顔を高瀬に向けて唸る。

「エー、ソレ、アタシ、Neetみたい」

「仕事してるだろ。十分だ」


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