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警告

 来栖とアリスは二人でダイニングテーブルに座っている。

「アー、アオイ、りーおうり、できる?」

「りーおうり?」

「ンー……ゴハン」

「えーと……その……すみません」

 すごい勢いで頭を下げる来栖に、アリスは腕を組んで頭を振る。

「アタシ、少しだけデキるけど、でもネ、リオ、りーおうりスゴいのよね……アタシ、ダラクしたもの。モウ、ムリ」

 アリスの言葉に来栖は深々と頷く。

「でも、でも、アリスは諒の家事手伝いとして」

「アオイ、イギリス人にりーおうりをモトメるのって、ホンキ?」

 アリスの言葉に来栖はがっくりと肩を落とした。


 アリスはサービスルームに来栖と共に入ってペンダントを首から外す。

「はーい、リオ」

『……なんだ?』

「ゴハンのソウダンね」

 回線の向こう側から派手なため息が響く。

『お前らなあ』

 呆れ返った高瀬の声がスピーカーから鳴り響く。沈黙が流れる。

『あーもうわかった。とりあえずパントリーにJSDFの戦闘糧食がそれなりにある。多分女性二人なら一食分で丁度いいくらいのはずだ。あとはこっちで手配しておく』

「アリガト、リオ。ソッチはドウ?」

『どうもこうもない。和臣となんとかやってるよ』

「リオ……オトーさんを名前でヨブの、ヨクナイね」

『黙れ』

 冷たい高瀬の声に来栖は息を飲む。

「ンー、マオウに産まれたのはショウがない、けど、ソレをウラむのはチガうね。リオはリオ。アタシはリオがスキ。アイシテル。だから、ダイジョブ」

「私も、諒を愛しています」

 慌てて来栖が続ける。沈黙がしばらく流れる。

「あの……諒?」

 来栖の問いかけに盛大なため息が戻される。

『ま、それなら大丈夫だろ。アリス、任せた』

「エ、ナニを⁉」

『自分で考えろ。んじゃな』

「え、リオ! リオ⁉ チョット‼」

 ホワイトノイズが少し流れ、スピーカーは沈黙する。

 スピーカーからふいに着信音が流れる。

「Allow connection」

『やあ、囁き手(ウィスパー)

射手(アーチャー)、ヒサシぶり。トリアエズ、シんでおいて」

『はは、相変わらずだな。とりあえずで死ぬのは勘弁してくれ』

「デ、何の用?」

 アリスの声は辛辣だった。

『いや、ね。格闘家(グラップラー)がさ、各種書類を回してきてな』

(プリンセス)がイるんだケド」

『あー……すまん』

「ダカら、アナたはBナノよ」

『うるせえ』

『少しいいかね?』

 渋い男声が流れる。

地獄耳(イーヴスドロップ)……』

『NEAD-2にちょっと負担がかかり過ぎているってのは上層部の共通見解なんだよ。なので魔王を一時的にだがNEAD-2から切り離した。これがプラスかマイナスかはこれから評価する予定だ』

 渋い男声はここでしばらく沈黙する。

大砲(キャノン)格闘家(グラップラー)を買っているが私はそうでもない。射手(アーチャー)は自分の身の振り方をどう考えている? 囁き手(ウィスパー)、君もだ。君もまた魔王の花嫁となるのか?』

「あの!」

 来栖が声を上げる。

「私が聞いていい話なんですか?」

『魔王の花嫁に隠し事はできない。そういうことだ』

 渋い男声がそう応じる。

「アタシは?」

 アリスが問いかけると小さく答える渋声。

『歳下が好みだとは聞いていたからな』

「ツギ、アッたらコロすわよ」

『ふふふ、NEAD-2のオペレーターだな、囁き手(ウィスパー)

「リオ、イマ、ナニしてる?」

『……今のお前の権限ではアクセスできないことをしている』

「魔王の花嫁がトナりにイルね。カノジョにもオシえられない?」

『AEGISにしろデュバンにしろ、あるいはArkhamでもいい。その仕事をお前は誤解なく説明できるか』

 冷静な渋い男声に詰められて、アリスは息を呑む。

『そういうことだよ、弁えろ。警告はしたぞ。それではな』

 小さなパルスノイズがスピーカーから流れ、沈黙が場を支配した。その場を破ったのは射手(アーチャー)だった。

『全く、バケモンだよな、地獄耳(イーヴスドロップ)

「ばけもの?」

 来栖のつぶやきにアリスが頷いて答える。

「エージェント間は魔力(マナ)でE2EEシテるの」

「E2EE?」

「End to End Encryption、ンー……アンゴウ?」

『ああ、暗号。それでいい。ははははは』

 突然射手(アーチャー)が笑う。

「ナニ?」

『いや、な。アリスとボブだよ。お前、ちょうどアリスだしな。俺がボブならやつはイヴ。コードネーム通りだと思ったらおかしくなってな』

「で、サッキの話は?」

『あー……後でファイル送るよ。読んでくれ。んじゃな』

「ホント、ナンなのヨ」

 アリスの呆れたような声に小さく答える射手(アーチャー)

『あー、まあほら、格闘家(グラップラー)がいないから寂しいかなって思ってな』


 リビングでアリスはオフライン状態のパーソナル端末を睨みつけている。

「どうしたの?」

 心配そうに来栖が尋ねると、肩をすくめるアリス。

「シタッパのヒゲキ、ヨ」

「下っ端の悲劇?」

「アオイはキにシナくてもイイよ」

 来栖はアリスの言葉を聞き、その両手をアリスの肩にのせて揺さぶる。

「あなたは! 私と! 同じ! 魔王の花嫁なの!」

 アリスは来栖によってガクガクと揺すぶられる。アリスはその来栖を抱きしめる。

「ゴメンね、アオイ。アナタもフアン、ワタシもフアン。リオは魔王。ツヨい、そしてヨワい。ダケど、ゴメンね。ゼンブ、ツタえること、デキない」

「アリス……」

「ンー、そう、ね。アオイ、リオのコト、スキ? アイしてる?」

 アリスは抱きしめた来栖の耳元で囁く。

「え、あ、え?」

「ワタシは、アイしてる。ワタシは、リオのモノ。ソレでいい。マッセキをケガすモノとして、魔王のアイをノゾむのは、ンー……エーと、ニホンゴだと……ソウ! ミブンフソウオウ」

「身分不相応……でも、アリスは!」

 来栖はアリスを振りほどき、叫ぶ。

「アオイは、魔王のウツワとしてツクられたカモしれない。ケド、リオはそう思ってナイ。リオは、アオイをアオイと思ってイル。アノ人は、ソウイウ人。ダカら、ワタシはリオのモノになった」

 アリスは来栖に微笑みながらそう言う。

「アオイは、ドウする?」

「私は……私は……」

「ンー、まだオトナじゃないものネ」

「子ども扱いしないで!」

 アリスの言葉に来栖は顔を赤くし、抗議する。

「そうやってオコるの、カワイイ」

 アリスの言葉にふるふると震える来栖。

「アーリースー‼」

「アオイ、ゲンキにナったネ。ヨカッタ」


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