慟哭
「すみません、しばらく一人にしてもらえますか……あと、その、帰りは……」
「わかった、アリスを呼ぶ」
「その……」
高瀬はため息をつくと首を振る。
「アリスはまだ何も知らないよ。彼女には最重要機密情報へのアクセス権限はない」
来栖は驚愕の表情のまま高瀬を見る。
「俺の判断でお前にこの情報を渡した。結果、俺は狙われるかもしれないが、それはそれでいいんだよ。PARAM Projectの鬼子の俺が生き残ってもいいことはなにもない」
高瀬はそう言うとスマホを操作する。
「30分ほどで来るそうだ。俺は部屋の外でアリスが来るまで待っている」
「その、諒……?」
来栖の呼びかけを無視して高瀬は会議室を出ていった。
扉がバタンと音を立て、閉じる。
来栖は扉を暫く見つめていたが、自分の両肩を抱え、俯く。
「私は、私は……」
しばらくしてから、懐中時計の写真を見る。
「あなたが、お母様……なのですか……? そして櫻井は……」
来栖はつぶやく。一粒の涙がこぼれ落ちる。
「私は、どうして産まれたのですか? お母様は、なぜ、私を」
震える声はそこで途切れ、来栖は机に突っ伏して、声もなく泣いていた。
《いいんですか?》
「いいも悪いもない。彼女が解決しなければならない問題だ」
《……冷たいんですね》
「お前、俺を何だと思っている」
《ヘタレな男子高校せ……ああああぁぁすみませんすみません》
高瀬はため息を付くと会議室の隣にある応接室のソファに体を投げ出す。
「肉体言語のほうが得意なんだがな」
《まあ、マスターは打撃型ですからね》
ガーランドの言葉に高瀬はため息で応える。
「そろそろNEAD-2から移籍を考えるべきか」
《大砲が通さないでしょうね。あと数年したら引退する、その後釜はお前だ、って言ってたじゃないですか》
「俺じゃなくても射手がいるだろうが」
《あのチャラ男がですか? なんの冗談です?》
高瀬は右手で額を覆ってから首を振る。
「射手の強みは精神の安定さだ。どんな凄惨な任務であろうともあのスタンスは変わらない。それは俺にはできないことだ」
《マスター……そういうところ好きですよ》
「左手に愛を告白されてもな」
高瀬はそう言うと腕を組んで天井を睨む。
《あら、私は真剣なのに。ひどいわ》
「そうか、それはよかった。で、だ。次をどう見る?」
静かに放たれた高瀬の言葉に、しばらくしてからゆっくりとガーランドが答える。
《PARAM Projectの残り香である愛生を受け入れるのは危険ではあるとは思うんですが……でも源一郎はすでにマスターにより滅ぼされています。来栖にしてもAEGISへの影響力が低下している中、これ以上危ない橋を渡るとは思えないんですよね。とはいえAEGISもまともかと言われると……》
「おやおや、AEGISによって生み出されたガーランドの言葉とは思えないな」
《私にとってマスターが一番ですからね》
「そりゃどうも」
アリスがアイギス警備のビルに入ってきた。
「リオ、急に、ナニ?」
開け放たれた応接室の扉のところでアリスが高瀬に聞く。
「いや、まあ、な。仕事の関係もあってな。しばらく愛生の面倒を見ておいてくれ」
「ヘ?」
「ちょうどGD-1からの要請でED-1のヘルプにな。デュバンとの合同作戦らしくてな」
「NEAD-2のシゴトじゃナイね、それ」
アリスが低い声で高瀬に問いかける。
「まあな。文句は和臣に言ってくれ」
「オトーサンを名前で呼ぶのはヨクナイね」
高瀬はアリスの言葉に肩をすくめてため息で答える。
「大砲のイケンは?」
「許諾されてるよ。確認してくれ」
アリスは尻ポケットに入れていた端末を取り出して操作する。結果を見て息を呑み、その後ため息まじりに首を振る。
「シタッパはイワレタとおりにハタラくけど、これはドウなの?」
「嫌なら出世することだ」
高瀬はアリスに手を振り、ウィンクする。
「ま、そういうことだよ。まだ俺は自分を掛け金に戦うしかない、ってことだ」
高瀬は自分のスマホを取り出して操作する。
「……File transfer request?」
アリスが高瀬を見ると高瀬は頷く。
「あとでスタンドアロンのパーソナル端末で見てくれ」
「ナニ、コレ?」
「愛生の情報だ。じゃ、あとは頼んだ」
高瀬はそう言うと立ち上がり、右手を上げてアイギスのビルを出ていった。
アリスは会議室の扉を開けて首を突っ込む。
「アオイ~?」
「はい」
「おうち、かえろ」
キョトンとした来栖に笑顔を見せるアリス。
「ジンセイって、ムズカしいのよね」
アリスは小さくため息を付きながら来栖に微笑む。
「アタシは、Magician。とはいえマッセキをヨゴすくらいのチカラなんだけどね」
「末席……」
来栖が小さく繰り返すと、アリスは満面の笑みで頷く。
「ソウ。ダカらNEAD-2でOperatorシテる。リオはスゴいの、アコガレなの」
「憧れ、ですか」
来栖の言葉に大きく頷くアリス。
「リオ、あんまりコトバ、オオくナイね。ダカラ、ココロ、ないようにミえるけど、リオ、すごいヤサシいね」
アリスは来栖に近づき、そっと来栖を抱き寄せる。
「ダカラ、ダイジョブ。リオ、キッと、チャンと、する」
「でも、でも!」
「ジンセイはセンタクのレンゾク。カミではないMagicianはカクリツをソウサするとはいえ、やっぱりシッパイすることもある。でも、ソレをクやんでも、ジカンはモドらない。モドせないからこそ、ワタシたちはココにいる」
抱きしめられている来栖は不思議そうな表情を浮かべる。
「アオイ。リオをリカイしたいノ、ドッチ?」
来栖から離れ、脇に立ったアリスは見下ろしながらそう問いかける。
「どっち……って?」
「リオがナニをシテいるかをリカイしたいのか、リオがナニをカンガえているかをリカイしたいのか」
「……考えていること、です」
「じゃ、アタシとオナじ。リオをアイしてあげて」
「あい?」
「そう、アイ。Love」
来栖はアリスの顔をまっすぐ見上げる。
「アタシは、リオのモノ」
満面の笑みで来栖を見るアリス。来栖は、その笑顔を見てしばらく呆然としたあと、机の上で組まれた自分の両手を見つめる。
「……私の母は……」
「アオイ、タイセツなのは、ナニ?」
アリスは来栖の組まれた手に右手を重ねる。
「アタシは、ミライだと思ってる。ソウね……リオはゲンイチローのAMP/PARAMにトらわれてる。ソレって、アタシはカナしい……リオはリオ。ムカシはタイセツ。だけど、もっとタイセツは、イマ、そして、ミライ」
再びアリスは来栖を抱きしめる。
「それは、アオイもオナじ。デショ?」
抱きしめられた来栖は、アリスの胸でわんわんと泣き出す。
「ツラければ、ナくのはいいこと。アオイ、ダイジョブ。アタシはココにいる。リオはアチコチ行くけど、でも、アオイのソバにいつもいる。ネ?」
来栖はアリスにギュッと抱きつきながら、泣き続けた。




