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生活

 11月14日土曜日、朝8時。

 ダイニングテーブルにカリカリに焼いたベーコン、スクランブルエッグ、レタスときゅうりとプチトマトのサラダ、フレンチトーストが並んでいる。

 高瀬はコーヒーをサーブして席に着く。

「聞きたいことがあります」

 来栖は小さく手を上げ、高瀬を見る。

「なんだね、愛生君」

「なんでこんなに料理が上手なんですか?」

 高瀬は右手で右目付近を覆い、俯いて小さくため息。

「アリスにも同じようなこと聞かれたんだよな……やはり似合わないんだろうなあ」

「あ、いえ、決してそのようなことはないんですが……ただ、その……」

 高瀬は右手を外して来栖を見て、親指を立てる。

「一つ、姉ちゃんは壊滅的に家事が出来なかった」

 人差し指を立てた。

「二つ、両親はくっそ忙しい。そろそろ出ていって10年になるか」

 中指を立てた。

「三つ、好きなんだからしょうがないだろ」

 来栖は顔を赤くしながら高瀬を見ている。

 アリスがそこへ割り込んだ。

「リオ、アタシにもソレ」

「あん?」

 高瀬がアリスを見るとアリスはうんうんと頷きながら言う。

「何をだ?」

「ミッツ……のヤツ」

「はあ? あのな、アリス」

「アオイ、イイナー、ウラヤマしいナー。リオにミツメられてスキって。イイナー」

《マスター、減るものじゃないですし》

 高瀬は俯いて右手で右目付近を押さえて大きくため息をつく。

「まったく、こんな平凡な男のどこがいいんだか」

 高瀬のボヤキに二人が反応する。

「諒だからいいんです」

「リオだからイイんダヨ」

 アリスと来栖はお互いの顔を見合わせ、くすくす笑う。

「不思議ですね、アリス」

「ソウね、アオイ」

「はいはい、冷めるから飯にしよう」

「リオ!」

 アリスの抗議の声に高瀬は小さくため息。まっすぐアリスを見ながら言う。

「……好きなんだからしょうがないだろ」

 嬉しそうに頷くアリスを見て、高瀬は小さくため息。

《いやあ、モテモテですねえ、マスター》

「黙れガーランド」

 ガーランドはコアをゆっくりと明滅させていた。


 朝のニュースワイドショーで昨夜の来栖邸爆発事件が報道されている。食後のコーヒーを飲みながら高瀬がその報道を見ている。

 右上にテロップで「高級住宅地で謎の爆発。テロリストの犯行か?」と表示されている。

 画面には顔の部分が枠外に置かれた男性が映っている。画面右下に小さく「※プライバシー保護のため音声は加工しています」と出ている。聞き取りづらい音声に合わせて字幕が挿入されていく。

『ちいさなパン! という音が聞こえたので誰かが季節外れの花火でもやっているのかなって思ってたんです』

『そのあと小さくタタタタという音がしたんで、ああこりゃ原付で遊んでいる不良が花火でいたずらでもしたんだろって』

『そしたら朝起きたらこれでしょう? 本当にびっくりしました』

 画面はスタジオに切り替わる。

 スタジオに並んだコメンテーターと司会者が映し出される。カメラが切り替わり司会者の顔がアップで映し出される。眉をひそめ、深刻そうな表情を浮かべ、喋りだす。

『平和と思われていた日本で恐ろしい事件が発生しました。昨夜0時頃、深夜の住宅街で謎の爆発が起こりました。多数の犠牲者が出ているとのことです――現場の田中さん』

 画面が切り替わり、高い壁の前に立つ男性リポーターが映し出される。

『こちら、事件のありました来栖邸前です。昨夜0時過ぎ、突如邸内の数カ所が爆発し、多数の犠牲者が出たとのことです。警察は高度な訓練を受けた複数の人間による組織的犯行と見て詳しく調べています』

『田中さん』

『はい、なんでしょうか?』

『テロリストの犯行声明などは出ているのでしょうか?』

『詳しいことはまだわかっていません。厳重な警備をかいくぐり犠牲が最大になるように仕掛けられているのは高度な訓練を受けた人間による組織的犯行と見ているようです』

『ありがとうございます』

 ここでまた映像はスタジオに切り替わる。コメンテーターの一人がもったいぶった喋り方で語りだす。

『来栖グループは手広くやりすぎたということなのかもしれません。配下にはPMC、民間軍事会社などもあり、日本の企業としては珍しいタイプのコングロマリットとなっています』

 ここで高瀬はテレビを消した。

「テロリスト、ね……政治的な思想はないからそれはハズレではあるものの、脅威なのは当たってるな」

《マスターがテロリストなら今頃全世界制圧が終わっていると思います》

「それは買いかぶり過ぎというものだ」

 高瀬が首を小さく振りながらガーランドに答えると、ガーランドはコアを激しく点滅させる。

「あの……」

「なんだね?」

「諒は、世界を制圧できるのですか?」

「……ガーランドの戯言を真に受けるな……」

「アタシはデキるとオモうナー」

 アリスはニコニコしながら高瀬を見る。高瀬は右手で右目付近を押さえ、ため息。

「俺は平凡な人生を送りたいんだ」

「Magicianガ⁉」

「平凡な人生を送りたいという希望と、平凡な人生を実際歩んでいるかは等価じゃない」

 再び深くため息をつく高瀬に、すすっと近寄る来栖。来栖は高瀬の左腕を取って組む。

「じゃあ、平凡な高校生らしくデートしませんか?」

「ワタシもイッショでイイ?」

 来栖はしばらく考えてから頷く。高瀬は少し乱暴に振り払う。

「馬鹿かお前らは……美女二人連れ歩く高校生のどこが平凡だ!」

「ワ、ビジョだっテ!」

 アリスは大喜びし、来栖はうつむいてふるふると首を振る。

《素晴らしいですマスター。その調子ですよ》

「黙れガーランド」

 高瀬はため息をつくと玄関へ向かう。

「ドコイクの?」

「ジム。トレーニングだよ」

「ワタシもイクー!」

「あ、私も」

 高瀬は再び大きなため息をつく。

「勘弁してくれ……」

 高瀬はそう言い残し、さっさと玄関から出ていってしまった。


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