猛攻
煌々と照らされた中庭に高瀬の姿があった。
周りには爆発の跡と焦げた肉の匂いが漂っている。
軽快な炸裂音。高瀬の周りで複数の弾薬が止まる。
「PDWか」
つまらなそうに視線を向ける。
「展開するまでもない」
爆発音。人間のうめき声が聞こえる。
「儀式」
《イエス、マスター。回収開始》
爆発音のしたところから光が飛んでくる。うめき声が止まる。
高瀬はそのまま建物へ向かい、ドアを殴りつけ破壊し、侵入する。
「Impact」
《Yes, sir. Activate an instant》
高瀬の防護円環が衝撃を止める。
「知性魔法装置持ちか!」
高瀬は太ももにくくりつけた筒を取り外し衝撃が飛んできた方向へ投げ、玄関から外へ出る。
「活性化」
筒は大量の煙を吐き出す。
「第一種戦闘、限定解除」
《イエス、マスター。モード変更完了のカウントダウンを行います》
「カウントダウン省略。高速変更」
《限定解除タスクを省略。モード変更完了後実施します》
煙が薄れてくる。不自然な小さな旋風が巻き起こり、煙を弾き飛ばす。
壁を壊しながらの衝撃が高瀬に当たる。吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
壁の穴から杖を持つ黒人が現れた。杖を高瀬に突きつけ宣言する。
「Wind cutter」
《Yes, sir. Activate an instant》
風が渦巻き、高瀬に向けて飛ぶ。高瀬は顔を腕で覆い、風の刃に耐える。革のスーツが切り裂かれ、いくつもの裂傷が出来上がる。
転がりながら風の刃を避けるが刃は高瀬を追いかけ、切り刻む。
光の矢が飛び、黒人の防護円環に刺さる。刺さった箇所が光り、不可視の防護円環を浮かび上がらせる。更に立て続けに光の矢が飛んできて、浮かび上がった防護円環にひび割れが生じる。
「Shit!」
黒人は一言悪態をつくと壁の穴へ引き下がる。そこへ巨大な火球が落ちてきて爆発する。
周囲に煙が舞い上がる。
《強化開始。防護円環展開。おまたせしました》
「遅えよガーランド。だが間に合った」
高瀬は立ち上がり、口の中に溜まった血を吐き捨てる。
《これでもかなり努力したんですよ……ISスロット初期化完了、AAタスク起動しました》
黒人が壁の穴から出てきて杖を突き出す。
「Summon Air elemental」
《Yes, sir. Summon Air elemental》
杖の先端に埋め込まれた直径3cmほどの水晶が黄色く輝く。
「送還」
高瀬の声にガーランドのコアが明るく光る。
「What's happen!?」
《I don't know》
動揺する黒人を見ながら高瀬がガーランドに告げる
「氷矢」
《イエス、マスター。速攻魔術発動》
高瀬の周りに小さな氷の矢36本が生み出され、射出される。男の周りで矢は止まり砕けるが、同時に見えなかった防護円環がひび割れ空間に姿を表す。
《これは私からのプレゼントですよ》
ガーランドがそういうと氷矢が再び発動し、防護円環を割っていく。矢継ぎ早の発動に黒人の防護円環は最後の一枚まで割られ、氷の矢で貫かれていく。
高瀬は杖を拾い上げる。
「爆破」
《イエス、マスター。妖術展開》
杖のコアが砕ける。
《あまり気分の良いものではないですね》
「知性魔法装置にはどんな仕掛けがあるかわからんから壊すのが最良なのはわかるが……というところか」
《はい。マスターは人を殺すことに抵抗はないんですか?》
「魔王だからな」
高瀬は口の端だけ釣り上げる。右耳を押さえてしばらく佇んだ後、インカムのマイクに向けて言う。
「処理できたから謝罪はいい。解析担当と連携して調査してくれ」
高瀬は建物内に再び侵入。
「さて、邪魔するやつは轢き殺す。覚悟があるならかかってこい」
高瀬が大声で告げるとあちこちから人が飛び出し、逃げようとする。
「氷矢」
《イエス、マスター。速攻魔術発動》
小さな氷の矢が逃げようとする人々の足を貫く。つんのめり、派手に転がる。そこへ二の矢が刺さる。
「何だつまらん、一般人か。第一種戦闘にしたのは間違いだったかな」
高瀬は逃げ惑う人々へ氷の矢を降らせ、足止めしていく。徐々に生臭い匂いが場を支配していく。
高瀬はあくびを一つしてからガーランドに命じる。
「儀式」
《イエス、マスター。回収開始》
倒れ、呻く人々から光の塊が抜け出て高瀬に飛んでくる。光が抜け出た後、それは動きを止める。
「第三種戦闘、限定解除」
《イエス、マスター。モード変更完了のカウントダウンを行います。15、14、13……》
高瀬はしばらく周りを見回してから歩き始める。
ひときわ大きな扉の前で立ち止まり、軽くノックする。
「断る、と言っても入ってくるのだろう? 好きにしたまえ」
落ち着いたトーンの男声がドア越しに響く。高瀬はドアを開け中に入る。
60平方メートルほどの広さの部屋に大きなマホガニーデスク、その机に両肘を付き、組んだ手を口の前に置き、やや俯いた状態の初老の男性がいた。
「はじめまして、来栖誠さんですね?」
「ああ」
「源一郎に資金供与してくれてありがとう。おかげで俺のようなクソッタレが生まれたよ」
高瀬は来栖に微笑みかける。来栖は落ち着いたトーンで問いかける。
「愛生はどうしている? 抱いたか?」
高瀬は微笑みを消しゆっくりと男に近づく。
「いいや」
「愛生は少し胸は足りないが、なかなか美しく育ったと思うんだがね」
高瀬はデスクの右端に右手をついて少し身を乗り出す。
「櫻井への情報を絞ったのはなぜだ」
高瀬の言葉に来栖は初めて高瀬に視線を送り、そのまま哄笑する。
「なぜそう考えた?」
「実際に戦ってみてわかったが、あれはかなり上の魔術師だ。少なくともさっきのMTJの知性魔法装置持ちより上だ」
高瀬はそのまま巨大なデスクの端に腰掛け、右手を来栖に突きつける。
「疑問点は他にもある。AEGISにわざわざ愛生を送り込み、保護させ、殺させようとする。AEGISもなんで愛生にそこまでする義理があるのかわからないが、お前らの考えていることのほうがわからん」
「さて、私が答えると思うかね?」
「思わんね」
高瀬はそう言い捨てると立ち上がる。
「ならばこの会話の意味とは?」
高瀬は来栖を見ながら両手を広げる。来栖は高瀬をまっすぐ見つめている。
「人間ていうのは聞いてしまった言葉に思考が引っ張られる。ある種の呪いのようなものだ。思考は脳内を駆け巡り、僅かな痕跡を周囲に撒き散らす」
高瀬の言葉に来栖は一瞬目を見開いた。
「そしてそういう反応が痕跡を裏付ける。なるほどな」
「……なにが、だ」
「普段はここまでやらないんだ。疲れるから。だけど必要だからやった」
高瀬はゆっくりと回り込み、来栖の横に立つ。来栖は俯いて固まっている。
「まあ、今日はこれくらいにしておきましょうかね。もしかしたら義父になるかもしれませんし」
高瀬はガーランドを来栖の肩に置き、微笑みながら語る。
「覚悟があって仕掛けたんでしょう?」
高瀬は静かなトーンでゆっくりと微笑みながら問いかける。来栖は固まったままだ。高瀬はため息をつくと来栖から手を離し、肩をすくめる。
高瀬はしばらく来栖を見てからもう一つため息をつく。
「じゃあ、今日はこれで」
高瀬はそう来栖に告げ離れていく。ドアノブに手をかけたところで止まり、振り返る。
「ああそうだ。一つ忘れていました。私は平穏な高校生活に戻りたいんですよ」
「……善処しよう」
「感謝します」
満面の笑みを浮かべて一礼し、高瀬は部屋を後にした。




