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対話

 高瀬はそのままリビングへ戻る。惨状を見てため息をつく。

《魔術でどうにかできればよかったんですけどね》

「そうだな」

 高瀬はスマホを取り出す。メッセージの着信を告げるポップアップが出ている。

『部長:承認。派遣する』

《どうしました?》

大砲(キャノン)に申請したクリーンアップチームの依頼が通った」

《それはよかったですね、マスター》

 直後、リビングに光が溢れた。光が消えた後、小柄な作業着姿の老人が立っていた。

「やあ、格闘家(グラップラー)

鍛冶屋(ブラックスミス)……なんで日本に?」

「やー、たまたまだよ」

 鍛冶屋(ブラックスミス)は部屋を見回して大きなため息をつく。

「こりゃあ、酷いね。で、死体(これ)はどうするんだ?」

 鍛冶屋(ブラックスミス)はしゃがみこんで櫻井の死体を眺めている。

大砲(キャノン)がよきように取り計らってくれるだろう。たぶん」

「そうか、じゃあ持って帰るとしよう。あとはこっちでやっておくから、部屋から出ておいてくれ」

 高瀬は鍛冶屋(ブラックスミス)に一礼し、リビングを出て来栖に割り当てた両親の寝室だった部屋に向かった。

 ドアをノックしても返答はなかった。高瀬はそのまま部屋に入り、壁に背を預ける。

 来栖はまだベッドの上で気を失っていた。腕を組んで高瀬は目を閉じる。


 来栖がゴソゴソとベッドの上で動き、吐息を漏らす。高瀬は片目を開け、来栖を見る。

「気がついたか?」

「ん……はい……」

「気分はどうだ?」

 高瀬が声をかけると、来栖はゆっくりと起き上がった。

「はい、大丈夫です。アリス……さんは?」

 高瀬は微笑み右手でサムズアップをする。

「魔術師はあの程度では死なない。大丈夫だ」

「私の……せいで……」

 来栖はうつむく。高瀬は来栖へそっと近寄る。

「違うな。源一郎のせいだ。あいつが」

《マスター!》

 ガーランドが割り込む。

「……そうだな。死んだ人間のことをとやかく言ってもしょうがない。アリスは無事だし、傷跡も残らない、というか残させない。お前も無事。それで十分だろう?」

 来栖は高瀬を見上げる。高瀬は微笑みながら来栖に手を伸ばす。

「さあ、お嬢様。もう少し横になって休んでおくといい」

 高瀬は来栖の頭を軽く右手でなでる。

「あの……櫻井は……」

 来栖の問いに高瀬は手を止め、その右手で自分の右目と額を覆い、うつむいて首を振る。

「死んだよ。俺が殺した」

「なぜ!」

 来栖が叫ぶ。高瀬は右手を外して広げ、来栖をまっすぐ見て、言う。

「そうしなければ! お前も! アリスも!」

 そこで高瀬は大きく息を吐き、再びうつむいて右手で右目と額を覆う。

「そうだな。俺の罪だ。堕落した()()()である俺の。嫌ってもらっても構わんが、お前の命は保証する」

「違います! 私の命を狙っていた櫻井をここに招き入れてしまって、そしてアリスさんにひどい……怪我を……」

「気にするな。それが俺達の仕事だ」

 高瀬は右手で顔を覆ったまま答える。

 そこでドアがノックされた。

「私だ」

 鍛冶屋(ブラックスミス)の声が聞こえる。高瀬は来栖を見てから無言でドアを開ける。

「ちょっといいかね?」

 高瀬を手招きする。高瀬が来栖に視線を送ると来栖は頷く。高瀬は部屋を出てドアを閉じる。

「なんだ?」

「これを」

 鍛冶屋(ブラックスミス)は高瀬に櫻井の懐中時計を渡す。それは血溜まりに落ちていた形跡は全く残っておらず、綺麗になっていた。

強化(リインフォース)魔法具(アーティファクト)? 俺には必要ない」

「違う。蓋を開けて裏蓋を見ろ」

 高瀬が蓋を開けると赤子を抱いた女性の小さな写真が入っていた。高瀬は目を見開き、ため息をつき、蓋を閉じる。

「軽く見てみたが、使用制限に奇妙な仕掛けがある。さらにムーブメントには魔石(セービングボックス)が組み込まれている。これにもおかしな仕掛けがあるようだ」

 高瀬は目を閉じて懐中時計を握っている。首を小さく左右に振り、頷く。

「やはり、な……わかった。預かっておく」

 ジャケットのポケットにねじ込む。

「じゃ、掃除は終わったから帰る」

「あ……その……あの死体(さくらい)だが……丁重に弔ってくれ……あれは……」

 鍛冶屋(ブラックスミス)はしばらく高瀬を見つめ、そして頷いた。その後首から下げている小さなハンマー型のペンダントヘッドを右掌に載せ、顔の前に置く。

「Activate」

 ハンマー部分が白く光る。

「Transfer」

《Yes, sir. Invoke a Sorcery》

 巨大な魔術陣が投影され光が爆発すると鍛冶屋(ブラックスミス)の姿は消えていた。

 高瀬はしばらく鍛冶屋(ブラックスミス)の居た場所を見つめた後、ドアをノックし、返事を待って来栖の部屋に入る。

 来栖は俯いて膝の上で組んでいる手を見つめている。

「済まなかった。話の続きをしようか」

 来栖は手を見つめたまま言う。

「そう、ですね……依頼は、私を殺せ、だったのでしょう? なぜそれに抵抗を? 私を殺せば、それなりの報酬が得られるはずです」

 高瀬はじっと来栖を見る。

「上層部の決定だから俺にはわからん。だが来栖と手を切りたかったというのはあるだろう。AMPと、それに連なる」

《マスター!》

 ガーランドがコアを点滅させながら声を上げる。

「……ガーランド。愛生はAMPにつながっているんだ。多少はいいだろう」

《ダメです》

 高瀬はため息をつく。

「秘密があるのですね。わかりました。それと、その……」

 来栖は視線を上げ、高瀬を見る。

「なぜ、私を愛生と呼ぶのですか?」

「名は、親からの最初の贈り物だ。俺にしろお前にしろ源一郎(クソッタレ)の計画のもと生まれた子だが、親は願いを込めて名をつける。その願いを叶えるために、俺は生きている。実際には様々な(しがらみ)がそれを難しくしているが、それでも、だ」

「私は……愛に生きる……?」

 来栖は高瀬を見つめ、つぶやく。

「生まれたときは皆祝福されている。生まれてきた生命はその祝福の最初の贈り物として名前を受け取る。愛生の両親は」

《マスター!》

「黙れガーランド‼」

 高瀬は苛ついた表情で吐き捨てる。ガーランドはコアを激しく点滅させる。

 ガーランドの点滅が徐々に緩やかになり、消える。

「愛生の両親は源一郎(アレ)の計画の犠牲になっている。それでも娘には愛されて生きて欲しい、そう願ったのだろう。俺はその想いを実現させる。たった今、そう決めたんだよ」

「……なぜ……ですか……?」

「……俺が櫻井秀徳を殺したからだ」

 高瀬は顔をしかめてそう絞り出すように言った。

 来栖はしばらく高瀬を見つめている。

 高瀬は来栖から背を向ける。

「当面はうちで生活だ。アリスと仲良くな」

 軽い調子でそれだけ言うと高瀬は部屋を出て、リビングへ移動する。

 リビングは戦闘前の状態に戻っていた。高瀬はソファーに体を投げ出し、大きなため息をつく。

《マスター、ため息一つで幸せが一つ逃げると言いますよ?》

「別に、俺は幸福でありたいとは思っていない。平凡でありたいがな」

《何を持って平凡とするかは非常に難しい問題ですが、ただ、その希望は随分と困難なものであるというのは理解できます》

「回りくどい」

《端的に言えば、無理ですね、それ》

「……わかっている。が、努力するから人間だろ」

 ガーランドはコアをゆっくりと明滅させる。

「疲れた。少し休む。警戒強化。あとは任せた」

《イエス、マスター。しばしの休息を》


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