表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/66

第41話.再び作戦会議です

 


 七月一日。

 学園に入って()()()となるその日、私はクレアちゃんを部屋に呼んでいた。


「まさかまた巻き戻るとは思いませんでした……」


 部屋に来てもらうのは勉強会以来だけど、今日もあっさりとブリッランテ寮の壁をよじ登ってきたクレアちゃんは、私以上に巻き戻りへのショックを覚えている様子だ。


 それもそうだよね。私もすっかり∞ループの壁は乗り越えられたと思っていたもん。

 クレアちゃんは乙女ゲーム主人公としての魅力を駆使して、見事あのユナトのハートを射止めてみせた女の子だ。

 彼女の頑張りにより繰り返される春の季節は終わり、私達には弾けるサマーシーズンが到来したはずだったのに!


 でもその結果、九月三十日の後にやって来たのは十月一日ではなく、二回目の七月一日だったわけで。

 そしてこうなった理由について、頭脳明晰な私は既に推測していたりする。


 ――この世界が乙女ゲームのシステム通りに進んでいるとするならば。

 ――ユナトの攻略によってエンディングを迎えたわけではなく、一つのルートを終えただけの扱いになるなら。



 もしかするとこの夏は――アグ・チェインを攻略しないといけないのでは?



「本当に何でこんなことになったのかしら……!」


 私は思わず頭を抱えて呻いてしまう。

 だってこの世界が元々はゲームだったとしても、現実はゲームじゃない。

 ユナトとハッピーエンドを迎えたクレアちゃんに、また別の男を攻略してもらうって――倫理的にどうなんだ!?


 しかも、あんまり考えたくないけど……今回巻き戻ったということは【夏 ~アグルート~】を攻略できたとして、次は【秋 ~ライルルート~】、それに【冬 ~フリートルート~】が待ち構えてるってことだよね?


 何だそれ! クレアちゃんに季節ごと四股しろって言うのか?

 こんなに純粋で可愛らしいクレアちゃんに、さすがにそんなこと言えないんですけどー!


 私がもだえていると、クレアちゃんは落ち込んだ顔で話しかけてきた。


「リオーネ様、あたしがいけないんです。あたしが現状に満足してしまっていたから……」

「いいえ、クレアさん。最初に気づかなかったわたくしの責任よ」

「でも、あたし――おかげでやる気が出ました!」


 ……えっ!! 何で急に?


「春は春。夏は夏。そして秋は秋で、冬は冬ってことですよね!」

「……!?」


 クレアちゃん、私はまだ何も説明してないのに……なぜかゲームのシステムを完璧に理解している?!


「もっと勇気を出して、あたしも積極的に行かなきゃいけませんよね。この夏を新たなスタートだと思って」

「で、でも複雑でしょう? だってクレアちゃんは、その……」


 今もユナトとラブラブなんだし。

 するとクレアちゃんは軽く首を横に振り、私のことを燃えるような瞳で見つめる。


「いいえ、大丈夫です。あたし、ひたすら目の前の人だけに向かって頑張りますから!」

「!!」


 それってつまり――私が知らないうちに、もうユナトと破局していたのか!?

 何というスピード破局! そして早くも次の恋に前向きなクレアちゃん!! 最近の若者って皆こんな感じなの?

 まぁ、私は前世でも今世でも男の人と付き合ったことなんてないから、知りませんけどね。


 …………わ、私だっていつかはっ!


「分かったわ。それならわたくしも全力で付き合いましょう」

「リオーネ様……ありがとうございます!」


 瞳に涙を浮かべるクレアちゃん。私達は∞ループ打破の固い絆で結ばれている!

 というのも今回はユナトルートと違って、私に破滅の恐れはない。アグルートにはリオーネが登場しないからね。

 ある意味都合が良いことに、私は今回の攻略対象・アグとは同じ部活に所属しているし、春とは異なり今回は積極的にクレアちゃんのサポートが出来そうだ。




 夜も更けたのでクレアちゃんが窓から帰って行った後、私は久しぶりに『恋プレノート』を開いてアグルートで起こる大きなイベントを確認しておいた。



 一つ目――出会い。

 二つ目――校外学習。

 三つ目――夏休み。

 四つ目――料理祭。

 五つ目――エンディング。



 まず今回は一つ目のイベント……クレアちゃんとアグの出会いイベントか。

 ええっと、これに関しては……とノートを一ページめくって確認。


 二人が出会うのはドルチェ寮でのこと。

 寮の玄関に飾られた切り花を可愛らしく思い、じっと見つめる主人公。

 そこに現れたのがアグ。主人公は切り花を選んだのが彼だと知り、「素敵ですね」と飾り気のない言葉を伝えて微笑むんだ。

 今までは多くの人に見向きされなかったのに、とそれから主人公のことが気になってくるアグ。……うんうん、アグルートの良さはこういう素朴でもどかしい恋模様にあるよねえ。


 そういえば四月にアグとドルチェ寮でばったり会ってしまい、私も切り花のことで話したことがあったな。懐かしい。

 あの頃のアグは公爵令嬢の私が気にくわなかったみたいで、かなり素っ気なかったが……今では園芸部の先輩達の中でも特に頼れる存在だ。


 まぁ、それはいいとして。

「全力で付き合うわ!」とか言っておいた矢先に自分でもどうかと思うけど――これ、私がサポートするのは無理じゃない?

 だってドルチェ寮に行くなら、この前みたいに不法侵入するんじゃなくクレアちゃんに招いてもらうのが筋だと思う。

 そうしないと、前にアグに見つかった時みたいにドルチェ寮の人に不審がられてしまうから。クレアちゃんみたいに壁をよじ登るのは、運動苦手な私には無理な芸当だし。


 でも私、未だにクレアちゃんとそこまで仲良くないというか……学園内だとちょっと距離がある感じなのだ。

 というのも、以前私が公爵令嬢が平民の女の子に絡んでいると目立って、クレアちゃんに迷惑が掛かるから……みたいなことを説明したからだろう。その言葉を、今もクレアちゃんは律儀に守ってくれているみたい。本当はいじめっ子認定されないように予防線を張っただけなんだけど。

 こうなると、今さら「破滅は乗り越えたからいつでも仲良くしましょう!」とか言いにくいよね。私がどれだけ自分勝手なのかクレアちゃんにバレちゃうし。


 それにクレアちゃんだって、∞ループを乗り越えたいから仕方なく私と話してくれるだけなのかも。

 私はクレアちゃんのことをお友達だと思ってるけど……クレアちゃんはどうなのかな?

 うわー、何か考え出すと不安になってきたよ!


 というわけで勇気の無い私はベランダに出てお星様に願うことにした。

 アグとクレアちゃんが寮の玄関のところで偶然出会いますように。良い感じの雰囲気になりますように。三回唱えたら、明日の支度をしてお風呂に入って寝ようっと。



 そういえばクレアちゃんとユナトが別れたのって、フツーに考えて七月以降だよね?

 だとすると時間が巻き戻ってるから、ユナトはそのことを忘れちゃってるんじゃないかなぁ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 別れてはいません!付き合ってませんから!(笑) リオーネって何気にクレアの事、口説いてるよね?ww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ