表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/66

第20話.入部届を手にして

 


 あの後、クレアちゃんは私の右膝に丁寧に包帯を巻いてくれた。

 あったはずの傷が突然無くなると周りの人が心配になるから、だそうだ。確かにユナトはびっくりするかもと思ったので、私も任せることにした。


 クレアちゃんが医務室を去ったすぐ後に、ユナトが医者代わりのライルを引き連れて戻ってきた。

 自分で手当して包帯を巻いた、と言ったら、二人揃って「ダウト」とか失礼なこと抜かしてたけど……。



 こうして「クレアちゃんとユナト、桜の下で鉢合わせ作戦」は、予想外のアクシデントはあったものの大成功を収めたのだった。



 ユナトルートで発生する、次の大きなイベントといえば五月の新入生交流会。

 でも今は四月中旬なので、私はしばらくそのことは忘れることにした。

 だって四月末までに、決めておかなくちゃならないことがありますからね。




「リオーネ様、そこに段差があります! お気をつけて!」

「おいたわしや、リオーネ様……どうかワタシの肩にもっと体重を預けてください! さあ!」


 翌週の朝、私は二人の友人に肩を借りて、亀のような速度で教室へと向かっていた。

 お花見の会にて、私が怪我をしたと知った二人はそりゃもう大慌てだったのだ。


「私たちがリオーネ様の盾となり、足となります!」


 なんて言い出したときは、大袈裟だと笑ったけど……まさか本当に実践してくれるとは。


 しかも包帯だけじゃ危険だからと、右足にギプスまで装着されてしまった。

 これじゃ完全に骨折した人だよ! 朝から何事かという目を周りに向けられて、顔から火が出そうだった。


 それにこのギプス、石膏で出来ているからすっごく重いー!

 うう……筋トレでもしてるような気持ちになってくる……ぜえぜえ、はあはあ。朝から汗だくって、令嬢としてどうなのかなあ?


「リオーネ様、もう少しです頑張って!」

「あともう少しの辛抱ですリオーネ様!」


 私は友達思いの二人に励まされつつ、深く顔を俯けて羞恥心に耐えるのだった。もう少しの辛抱、もう少しの辛抱……。




 やっとの思いで教室にたどり着くと、待っていましたとばかりにクラスメイトたちに取り囲まれた。


「リオーネ様! この記事読みました!」

「やっぱりユナト様とリオーネ様こそお似合いのお二人ですっ!」


 ん? 記事?

 でもクラスメイトたちは疲労困憊の私たちの有様にかなり驚いたらしくズザザッ! と波が引くように距離を置いてしまう。

 中にはハンカチを手に涙ぐんでいる子もいるけど……ほんとに平気だよ? 骨折してないからね?


 席まで導いてくれたリィカちゃんが、クラスメイトの手から何かを受け取って私のところまで持ってきてくれた。


「これ、私の部が……時報部が発行している号外新聞です」


 私とシルビアちゃんに、見やすいよう新聞を掲げてくれるリィカちゃん。

 その瞬間、私は「あっ」と声を上げそうになった。



 一面にデッカく写っているのって――もしかしなくても、私とユナトじゃない!



 しかも転んだ私をユナトがお姫様抱っこして、歩き出したときのものだ。

 モノクロ写真だけど、背景に小さく桜の木も写っているから間違いないと思う。こんなの撮られてたの? ぜんぜん気がつかなかった。


 しかも見出しには「第二王子と公爵令嬢のアツい恋物語」なんて文字がデカデカと踊っている。

 さすがに名門校なだけあって、内容はおとなしめに書かれてはいるけど……これ、本当にゴシップ記事じゃないの。


 新聞をまじまじと眺めていたリィカちゃんが、確信を込めて言う。


「どうやらこの写真、ポイントSで待機していたメンバーが撮影したもののようです」

「ポイントSって?」

「桜のSです。あの桜の木の近くで密会する生徒が毎年居るものですから、茂みに隠れて交代で監視してまして」


 そうなの!?

 それじゃあユナトとクレアちゃんがそこで逢瀬を楽しむことにならなくて、正解だったかも? ユナトはあれで人気があるから、それがバレたら学園中の生徒からクレアちゃんが嫉妬を買ってしまいそうだしね。


 そんなことを考える間にも、クラスメイトたちはチラッチラッ……と私の顔を窺っている。野次馬根性丸出しだ。

 しかも驚いたのは、ほぼ全員の手に号外新聞が握られていること。この様子だと、ほとんど全校生徒の手に渡ってしまってる?

 こんなこと知ったら、ユナトのことが大好きなクレアちゃんまで余計なショックを受けちゃうかも。


 ――しょうがない。

 ユナトとの噂が広がるのは私としても遠慮したいし、ここは一働きしましょうか。


「……わたくし、悲しいです」


 私が小さな声でそう呟くと、クラスメイトたちがハッ……と目を見開いた。


「ユナト様はただ、不注意で転倒したわたくしを助けてくださっただけなのに。それなのにこんな、揶揄するような記事を書かれてしまうなんて……」


 ああ、わたくしとっても悲しいわ……悲しすぎて涙が出ちゃいます。ぽろっとな。

 そっと濡れた目尻を拭う仕草をすると、その様子を見ていたリィカちゃんがギンッ! と鋭い眼光で周囲を見回した。


「この新聞は速やかに回収するわ。全員抵抗せずにすべて差し出しなさい! 逆らった者は、二度と太陽の光を浴びられない身体にしてやる!」


 あまりの威圧感にびびって震えるクラスメイト、もとい哀れな子羊たち。

 なすすべ無く、手にした新聞を供物か何かのように私の机の前に積み重ねていく。それを見ていたシルビアちゃんも、静かな――けれど迫力ある厳かな声音で言い放った。


「今から全てのクラスを回り、全ての新聞を回収しましょう。そして燃やします。……もちろん皆さんにも手伝ってもらえますよね?」


 コクコクコク! と顔を青くして激しく頷くクラスメイトたち。

 さすが私の頼れるお友達! 「ありがとう、二人とも」と笑いかけると、リィカちゃんたちは「当然です」と拳を握ってくれた。



 でもそのすぐ後、なぜかツェークラスを始めとする全校生徒が新聞片手に教室に押しかけてきて、私たちは唖然としてしまった。

 というのも、私と同じように新聞を手に迫られたユナトが怒ったから――なんだそうだ。声を荒げたわけではなく無言の怒気を放ったらしいけど、その気迫を前に何人かは気絶したとか何とか。

 さすがに王子の怒りを買うわけにはいかないと、ファンの女生徒たちを中心に、瞬く間にすべての新聞は回収されたというわけだ。


 記事を執筆したのは一年生で、お隣のデークラスの男子生徒だったそう。これはスクープに違いないと、大量に刷ってばらまいたらしい。

 リィカちゃんが笑顔で、「アニ様と一緒にお灸を据えておきますのでご安心ください」と言ってくれたけど……だ、大丈夫かな? 今後も太陽の光は浴びられるようにしてあげてね?



 騒ぎが収まった後、私はリィカちゃんからこっそりと、時報部の生徒全員分の情報を入手しておいた。

 それに彼らが巡回している主なルートなんかも教えてもらい、頭の中に入れておく。今後はすっぱ抜かれないように注意しないとね!


 しかし私はそのとき、大事なことを見逃していた。

 ユナトと私の特集のすぐ下に載っていた――とある小さな記事に気づかなかったのだ。




 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪




 放課後、私は意気込んで裏庭へと向かっていた。

 手に握っているのは入部届。昨夜の内に記入は済ませておいたので、あとは提出するだけだ。


 それとギプスに関しては、昼休みに医務室で取り外してもらった。

 だってクレアちゃんに怪我は治してもらったし、これだと何だかみんなに嘘を吐いてるみたいだしね。とりあえず膝の包帯はそのままにしておいたけど。

 リィカちゃんたちにももう大丈夫だと念入りに伝えておいたので、こうしてひとりで歩き回ることができているのだ。


 いつものように裏庭で作業している後ろ姿を発見して、私は迷わず声を掛けた。


「ディアナ先輩」

「あら、リオーネさん!」


 すぐに振り向いたディアナ先輩だけど、私の足を見遣ると痛ましげに表情を歪めた。


「その怪我、大丈夫? 転んだんだって?」

「ええ、もう平気です。周りの皆さんが大袈裟に心配してくださっただけなんですのよ」


 平気どころか無傷ですのよ。


「それなら良かったわ! それで今日はどうしたの? また見学に来てくれたのかしら?」

「いいえ。今日はですね、えっと……」


 私はそこで思わず口ごもってしまった。何だろう、ちょっと緊張してきちゃったよ。


 園芸部は攻略対象のひとりが在籍する部活だけど、その攻略対象のアグはわりと良い人だし、他の部員も優しい人ばかりだ。

 だけど公爵令嬢の私が入部すると言って、アッサリ受け入れてもらえるのかな? 面倒くさいと思われちゃったり……さすがに嫌がられたりはしない、よね?


「リオーネさん?」

「えっと――わ、わたくし、園芸部に入部したくてっ!」


 ええい、ままよ!

 私は後ろ手に握っていた入部届を、勢いよくディアナ先輩へと差し出した。

 それを受け取ったディアナ先輩が大きく目を見開き……



「みんな、集まってー! 新入部員よ!」



 ええ!? いきなり!?

 というか、そんな集まってもらうほどのことでは! と私が慌てている間に、周りにはどんどん園芸部の面々が集合してきてしまった。


 緊張でガチガチになる私に、ディアナ先輩はそれは楽しげに笑いかけてくれた。


「園芸部にようこそ! リオーネさんが入部してくれて、アタシ本当に嬉しいわ!」

「い、いえそんな」

「アグからも、リオーネさんは食虫花を育てるエキスパートだって聞いているわ。ウチの部は食虫花に詳しい人は居ないから、ぜひリオーネさんには新たな分野で我が部の道を切り開いてほしいと思ってるの」


 おい、アグ! 先輩になんて余計なことを!?


 ディアナ先輩は軍手を脱ぐと、私にその手を差し出してくれる。

 おずおずと握手を交わすと、


「アタシのことは今後は、良かったら部長って呼んでね」


 なんてウィンクされて――私はすっかり感激してしまった。

 歓迎されてる。私、今すっごく歓迎してもらってるよ!


「はい! ディアナ部長! それに皆さんも……これからよろしくお願いいたします!」


 私が頭を下げると、先輩たちはみんな笑顔で拍手をしてくれた。

 うわあい、嬉しいよう! なんて盛り上がっていたら、そこにアグが作業着姿でやって来た。

 私たちの様子を見遣り、不審そうな顔つきをしている。そんなアグの前に、ディアナ部長が私の肩を抱いて飛び出した。


「ちょっとアグ、聞いて。リオーネさんがね」

「わたくし、園芸部に入部しますの!」


 えっへん、と胸を張ってそう教えると、アグは口を半開きにして呟いた。


「……そっか」


 そっかて! それだけ?

 顔に不満が出ていたのか、アグが慌てて言葉を付け足す。


「ち、違う! まさかリオーネが入部するとは思わなかったから……」

「つまり、嫌だということですか?」

「だから違うって。……歓迎するよ。おれが言うのも何だけど、ここは良い部活だから」


 アグが照れくさげに言うと、ディアナ部長が「珍しく素直じゃない!」とからかう。

 ……あ、そうだ。いいことを思いついたよ。


「では今後は、アグ様のことをアグ先輩とお呼びしようかしら」

「えっ!」


 他の部員達のことも、私は先輩と呼んでいるからね。アグのこともそう呼んだ方が自然だよね?

 しかしアグがぎょっとしているので、私は試しに呼んでみた。


「アグ先輩。アグせんぱーい。アグせんぱい?」

「…………や、やめろ。なんか落ち着かない」


 適当に小首を傾げながら呼んでみると、アグは困ったようにそっぽを向いてしまった。あれれ?

 そこにニヤニヤしたディアナ部長が参戦した。


「そうなんですか、アグ先輩~?」

「部長までふざけないでください!」


 あっ、逃げた。

 しかもしっかり如雨露片手に畑に逃げてるよ、抜かりないなあ。私は小さくなっていくアグの背中を見て、思わず笑ってしまった。



 『恋プレ』だと、リオーネはどこの部にも所属していなかった。だから園芸部での活動は、私にとって知らないことでいっぱいだ。

 まだまだ∞ループとか、追放or殺害フラグとか……強敵だらけだけど、きっと園芸部での活動は楽しくなるに違いない。


 えへへ。今後の活動が待ち遠しいな!

 ……とりあえず期待を裏切らないためにも、食虫花についてキチンと調べておこうかしら?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「アグ先輩」って、いいですね……照れてるアグ様がたまりません!(ツンデレ、大好きです!)『……や、やめろ。なんか落ち着かない』なんて、どうしてそんな私の好みどストライクな発言をしてしまうんで…
[一言] 園芸はいいねぇー。 時報部…恐るべし(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ