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あの日も冬だったな、と、窓ガラス越しに重たく積もる雪を見つめて、彼は夢想した。
思えば、彼の思い出にはいつも雪が降っていたかもしれない。
目を閉じ、目蓋に焼き付く思い出の中の少年は、細い体を精一杯に抱きしめて雪上に腰掛け、凍ったように冷たい歯をカタカタ震わせていた。
どうして一人ぼっちで、生命が寄り付かないような極寒の地にいたのかは、彼にも理由が分からない。
ただ寒さに震え、幼いながらに命の灯火が一息で消されそうだと感じていたことだけを鮮明に覚えていた。
そんな衰弱していた彼のもとに、黒い軍服を着た人間が走ってやってきたのを見て、幼い彼は助けに来てくれた安心感でどっと眠くなってしまった。
がたいの良い軍人に抱えられながら、種子の有無はどうだ、とか、体温はどうだ、とか、命のやり取りがなされているのをぼんやり聞きながら、その軍の隊長らしき人物の顔を見て、彼は思った。
まるで、雪が解けて春になるような、暖かい顔をした人だと。
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星屑暦10XX年の大厄災について
6月30日未明、首都デラフに突如出現していた大樹、通称『ユグドラシル』が急成長。樹木として有り得ない大きさにまでなり、ある程度成長した瞬間に微細な種子を噴出、通常の大きさまで戻る。この種子を『ユグドラシル・ベイビー』と後に表している。
この種子は何らかの条件で、人体に知らずのうちに侵入。種子を持った人体は人間には不可能な能力を付与されることを確認。例として、自在に火を放出したりしている。除去は不可能であることも確認出来た。
また、大きな特徴として、種子を持った人体には「寿命」と呼ばれる暴走状態があり、見境なく人間を襲う。これを止めるにはまわたわああぅ、対象を殺害する他にない。加えて、死んだ際に花が散る様に死んでいくことが分かっている。
とある科学者によれば、まだ研究段階ではあるが、死に際に花人からは新たな生命への遺産のように、種子が放出されているのではないかとも考えられている。
このような事態を踏まえ、アトラス帝国では臨時軍隊を創設。種子を持った人体、通称『花人』の監視と必要に応じた処置を任務として与えている。また、花人たちはアトラス帝国の最北端、人体が住むには適さないとして領域外と設定した「ブリザヴ」に隔離することとした。
今も尚、増える花人。花人が関わると必ず相手も花人になるため、止める事は不可能に等しい。我々に出来るのは、人類の平和を守る為の人殺し、のみである。
著:カルダス・マークリオン
帝国図書館『星屑年暦』より