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捨てられ紅玉姫と蒼玉王子  作者: 口十 栂乃
3/9

保護

城は、数日前から騒がしい。

というのも長年因縁のあった隣国の王都を、先日無事に落とすことができた。その時の兵が帰ってきたため、国は英雄たちを讃えながら迎えた。勝利にわいた城は、しかしそれだけで賑わったのではない。

制圧の立役者でもあった第二王子が、隣国の姫を連れて帰ってきたことがまことしやかに囁かれていた。王族最後の生き残りの姫にやれ一目惚れしただの、やれ憎しみのはけ口にするためだの、そんな根も葉もない低俗な噂をするものは一定数存在した。

隣国の元第三王女レティーツィアの姿については厳重な箝口令が敷かれていたためだ。だからこそ、一目惚れしたなどという憶測が飛び交った。あの現場に居合わせた騎士たちからしてみれば、あの姿に、美しさを見出すものなど居ようはずもない、その一心であったが。

そんな憶測が飛び交うほどに厳重に、かつての第三王女は第二王子によって手厚く保護されていた。


「アーノルド。お主が連れ帰った姫の様子はどうじゃ?」

「まだ目覚めないようです。専属医師の見立てではあと1ヶ月が山場と」

王の執務室に居るのは王と第二王子、そして宰相の3人のみ。制圧した国を属国としてどう運営するのかの会議が終わった頃に、王はようやく切り出した。今この城で密かに話題になっている存在を。

「陛下、恐れながら申し上げます。殿下が連れ帰ってきたあの娘は、やはり処分したほうがよろしいのではないでしょうか?」

「宰相、そちもあの姫の存在は反対かね」

「はい。もしかしたらスパイやもしれませんし、影武者ということもあり得ます。なによりあのものを助けるメリットがこの国にはありませんから。」

「だそうだぞ?」

「陛下、そして宰相。この度の侵攻の褒美に、私にあの姫をいただきたく思います。」

「妾にでもするつもりか?」

「いいえ、そういったことは考えておりません。ですが、私はあの者と言葉をかわしてみたいと思うのです。」

「…殿下の御身に何かあったら一大事ですぞ。」

「宰相も様子を見られたならわかるはずです。あの者は無力です。1年ほどは起き上がり歩き回ることも困難な者に必要以上の警戒は不要です。」

「此度は全てアーノルドに任せておった。故にあの地で拾った命についてもお前に任せよう。褒美はそれで良いのだな?」

「陛下!」

「有難き幸せ。」

いままでなにか褒美をねだったことのなかった第二王子の、初めてといっていいお願いだった。王として国の損益を鑑みても、連れ帰ってきた姫の存在は微々たるもの。となれば父として息子の願いを叶えてやることにした。

これまでなにかに強い関心を持ったり執着することのなかった息子は、どうやらはじめて他者に興味を示したようだった。

これが今後、吉と出るか凶と出るかはわからないが。息子にとってよい出会いとなればいいと、そう王は願っていた。







ぼんやりとした意識のなか、ふわふわしたものに包まれているような感覚があった。

遠い昔、母に抱かれたときのようなあたたかさと柔らかさ。

2度と味わうことのできないそれを、夢の中だけでは体験できる。

このまま目覚めたくないなと、そう思いながら娘は眠り続けた。


もう、自分の名前すら思い出せない娘は、時折誰かに呼びかけられているような気がしていた。

けれど、そんなことはあり得ない。

それを数年の塔暮らしで思い知らされていたから。

勘違いだわ、と自分に言い聞かせ続けた。


そうして今日も、かつて姫君と呼ばれた少女はまどろむ。

間違いが在ったため修正しました 5/22

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