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捨てられ紅玉姫と蒼玉王子  作者: 口十 栂乃
2/9

発見

「殿下、王宮の制圧と掌握は全て終わりました。」

「ご苦労。」

「残りはあの塔だけにございます。」

声をかけてきた側近と空を見上げる。雲へ伸びるように灰色の塔が目の前にそびえ立っている。

「あそこに引きこもっている、と奴らは言っていたな。」

「第3王女…レティーツィア姫ですね。」

王宮で王と王妃と側妃、王子と王女など王族を捕らえ終わった、と思っていた時にやつらが喚いていた言葉を思い出す。

『す、すべて悪いのはレティーツィアよ!!あの子が全て悪いの!』

『塔にひとりだけ引き込もって逃れようとしている王女が残っている!』

『この戦もこの国の衰退も!あの女が全て悪いのです!逃げたあの女を殺し、そしてどうか!!どうか私達の命はお助けください!』

醜く命乞いをする奴らが吐いたのは最後の王族の行方。レティーツィアという名の第3王女らしかった。

「一人だけ逃げようとするとは。王族の風上にも置けん。さっさと行って引きずり落とすぞ。」

「はっ!塔の内部はかなり狭いようですので近衛騎士を5名ほどお連れください。お気をつけて。」

「現場の監督は任せた。」

「承知いたしました。」


そうして部下を引き連れてたどり着いた塔の最上階。

声をかけても返事は無く。再度の呼びかけにも応えが無かったため痺れを切らして扉を蹴破った。

そこで見たものに、居合わせたものは皆、思わず絶句するしかなかった。


王族が居るとは思えないほどのみすぼらしい石造りの部屋、糞尿のすえた臭い。王族が一瞬でも逃げ込む部屋にしても酷い場所だと思いながら、警戒しつつ歩を進めた。

この部屋に唯一ある本棚。その前に古びた本が並べて積まれている上に、何かがのっていた。

ボロボロの布、ベタついたモサモサした何かと、細い棒のような何かと、それに絡みつく足枷。


まじまじと見て、そしてようやく、己が見ているその物体が“ニンゲン”であることに気がついた。


尋常じゃない足の細さに慌ててボロ布を剥ぎ取りその下の“ニンゲン”を確認した。

「殿下!我らが確認を!」

「いい。私がやる」

布の汚さから遠巻きにしていた騎士たちが慌てて寄ってきた。そして、布の下にあったものを一様に眺め、そしてまた絶句した。

「…っ!これは…」

「………レティーツィア姫、だろうな」

「まさか?!魔術でも使っての偽装では!?」

「…違うな。この身体から魔術の気配はしない。」

「…では、」

「奴らが喚いていたのは大嘘、ということだろう。数日逃げただけでこうはなるまい。…おそらく」

「…長いこと、監禁、されていた、と?」

「…扉を蹴破ったときも、違和感があった。あれは長らく開けていない扉の感触だった。それも数年単位で、だ」

「!?」

気付いたあまりの惨状に息をのむ。

この部屋の様子を見るに、風呂も入れなかったのだろう。手を伸ばし皮脂でベタついた髪をのける。出てきたのは骨が浮き、不健康なまでの青白さをもった顔だった。かろうじてどうやらまだ息はあるらしい。

「…連れて行くぞ。お前は先に降りて医者を用意しておけ」

そう指示を出しながら、足枷に繋がれていた鎖を剣で断ち切った。

「…お助けになるので?」

「あの馬鹿どもの被害者だろう、こいつは。…私達の敵では、ない。」

「…わかりました。」

医師の手配に消えた騎士を見送ってから、着ていた上着を脱ぐ。そして、目の前の少女にかけて横抱きにした。

「殿下!御身が汚れます!我らが運びますから!」

「いい。お前らはこの部屋の捜索…といっても何もなさそうだな。降りるぞ。」

残った4人の騎士は、一瞬、憐れみと困惑の表情を浮かべて腕の中の姫らしき人物に視線を送ったのち、黙って付き従った。



「どうだ、姫の様子は」

「目覚める気配は、まだ…それにあまりにも痩せ過ぎております。これではいつ死んでもおかしくはありません…」

自国から連れてきた専属医師もまた、この娘を見た瞬間に言葉を失ったものの一人だった。

「…見立てのほうは?」

「…おそらく、最低でも5年以上はあの塔に。」

「…そうか。引き続き、治療と経過観察を頼む。あとで世話用の侍女もつけよう。これが目覚めたら私を呼べ」

医者には、なぜこの娘を自国の王子が助けようとしているのかがわからなかった。確かに不憫な扱いを受けたのだろうが、この地の王族は既に皆処刑された。この娘も放っておけばいずれは死ぬ。なのに、王子は助けろと言う。

「…殿下、この娘をどうされるので?」

「…話を聞きたい。」

「おそらく、会話はしばらくは無理でしょう。それに、ここでは満足な治療はできませぬ。」

「では城に送る」

「殿下!この者を連れて帰るのですか!?」

「捕虜として…どこかで使えるやもしれん。」

「…こんな扱いを受けた姫を?」

「確か第3王女は小国の姫を母に持っていたはずだ。」

「……ですが、この体では国までの長距離移動は保たないでしょう。」

「私が転移魔法で連れて帰ればいい。」

「殿下!」

「一週間ほどで兵をひき一度帰還する。それまでに手を尽くせることはやっておいてくれ」

「……御意。」

なぜか、殿下はこの娘に関心があるらしい。同情か憐憫の情かと思えば、どうやら違うようだ。殿下の瞳に浮かぶ感情は読み切れず。ただ命に従うべく準備に取り掛かった。



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