決意を胸に
ぐりんとしたツリ目。やや小さい灰色の瞳。ごわごわした天然パーマの、ダークアッシュの髪。肌の色は、お世辞にも白いとは言えない。
それが私。冴えないモブ令嬢の姿だ。
因みに今日は、リボン付きの白いブラウスにボルドーのジャンパースカート、という出で立ち。あまり似合っていないのだが、他の服よりはマシだった。
いつも母上がおしつけてくるんですが、ベビーピンクのきゃぴっきゃぴのミニドレスとか、パステルブルーの姫ロリ風ワンピースとか、ペイルグレーのビジューでキラッキラのサマードレスとか……。はい。出来れば着ることを遠慮したいようなものばかりでして。
「あなたまだ若いんだから、今の内よ〜?」
とのことで。
お願いですから勘弁してくだせえ。
私は、及びポーラ様やヒロイン達は、現在九歳。あと二年で、入学する。その四年後に、乙女ゲームのストーリーは始まる。
タイトルは「ドリーミング❥トリップ」。アプリゲームで、企業は不明、というか個人作成の可能性もあるようなもの。ストーリーのみでミニゲームもなく、背景もよく見たら素材であるような低コストなことが伺える作品だ。そして、攻略対象達は王道なのにヒロインと悪役令嬢に妙に気合が入っているという謎作品でもある。
ヒロイン、ディフォルト名はルナ。大きく丸いタレ目、ローズピンクの瞳、淡いピンクブロンドのふわりと楕円を描くセミロング……というデザインだ。性格は一見理想的な女の子、と言った風なのだが、ところどころ、その、気のせいかもしれないが腹黒さを感じさせる部分があった。ウン、気のせい気のせい。
馬車に乗り込みながら、図書館の方を振り返る。年季を感じさせる建物は、高い木々に隠れる様に囲まれて、静かに建っていた。元は何か別の施設だったのを改装して図書館にしたらしい。
記憶が戻ったのは一年前。母上が作った不味すぎたクッキーを食べたショックで記憶が戻った。謎すぎる。でも、戻った。多分戻りきってない部分もあるのだろうけど、大方は戻った。
決して毒性などは無いのだが、あれは不味すぎた。とてもそんなことは言えなかったけど。
家に帰ると、玄関でその母上が待っていた。
「キャサリン〜〜〜おかえりなさ〜〜〜い!!」
ガバッ、と抱きつかれる。
「お、うぉ、ただいまです母上!」
よろめきつつ応えると、不服そうな顔をされた。
「もう、何時まで経ってもそんな硬っ苦しい呼び名で……いいのよ、ママって呼んで」
「は、はい、ママ……」
「ああ、それよりね、貴方にニュースがあるのよ」
「え、何ですか?」
「なんとね、あなた。王子様の誕生日パーティーへの招待状が届いたのよ〜〜〜〜!!」
パーティー。
は。
また一つ、記憶が戻った。
そう。入学二年前のパーティー。
それは、攻略対象の一人であり侯爵家嫡男たる、ベネディクト・ナイトリー様の回想に出てきたエピソードだった。
彼はポーラ様の婚約者であった。二人はそのパーティーで出会った。優しく接する彼に、ポーラ様は依存してしまった。
それが不幸の始まりだった。
ベネディクト様はお人好しだった、だからポーラ様にも気を配っていた。でもヒロインが現れると、そちらに心惹かれていった。ポーラ様を重く思っていた部分もあったのだろう、徐々に離れていってしまった。
裏切り者め、許せん。
でも、それまで彼女を支え続けたのも彼なのだから、その全てを恨む気にはなれない。
じゃあ、私は、果たして彼女に何をして差し上げるべきなのか。
弾き出した答えは一つだった。
彼女に、貴方を思う人は一人ではない、そうお教えすること。
彼に依存したのは、側に居てくれたのが彼だけだったから。ならばその状況を回避すればいい。
だから、まずは応急処置的に私自身がお側に参る。次いで、ポーラ様の素晴らしさを皆に知らせ、彼女の周りがいつも賑わうようにするのだ。
成功するかは分からない。でもやるしかない。
ポーラ様などの身分の高い令嬢は強制参加らしい。
ならば。
私は、パーティーへ参加することを決意した。