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テンションの崩壊

髪型はハーフツインテール───そのツインテールは細めで、やや後ろの方で結われており、黄色のリボンで結ばれていた─────で、髪色はターコイズアッシュ。

陶器のような肌は、白い、を通り越して最早もはや青白い。体調が悪いのでは?と不安になる程に。でも特に病弱であるといった設定はなかったはず、大丈夫なはず。

顔立ちは「人形令嬢」と呼ばれるのも納得な程に整っていて、作り物めいている。

また半分だけ下ろされた前髪によって右目が隠れている。しかしそれが彼女魅力を損なうことはなく、むしろその仄暗く気だるげな美を引き立てていた。


とりあえず、とんでもない美少女なのだ。それも、一定の人の性癖をえぐっていく系の。


彼女は乙女ゲームに出てくる「悪役令嬢」というポジションのキャラだった。ヒロインの恋路を邪魔する憎まれ役で、作中ではその見た目と性格から「人形令嬢」と呼ばれていた。

私はそんな彼女のファンだった。や、もちろん攻略対象達も魅力的だしね、好きっちゃ好きなんすけど、最推しはポーラ様一択で。無口無表情陰鬱美少女まじ推せる。


悲しいことに、彼女は皆から避けられていた。暗くて、何を考えてるか分からなくて、周りを意に介さなくて。それが魅力なのに、分かってませんな、いけませんな。

……理解出来ないものを恐れるのは人間の本能だし仕方ない事なのかもしれない。しかしね、だからって向き合おうともせず無闇に嫌ったり疎んだりするのは違うと思うんです。ですよね?


で、何故架空のキャラクターのはずの彼女が目の前にいるのかと言いますと、あのですねワタクシ、どうもその乙女ゲームの世界に転生してしまったようなのですよ。それも作中に登場すらしないようなモブに!モブ令嬢に!!

しかもポーラ様たちと同い年。

いやヒロインじゃなくて良かった。だって殿方を魅了してハーレム万歳だなんて柄じゃないですしおすし。

悪役転生じゃなくて良かった。ポーラ様はポーラ様であってこそポーラ様なのですワタクシめごときが中へ入るなど例え天が許してもこの私が許さねェ。モブ転生バンザイ。


「はぁとうと……ではなく、初めましてでございます!キャサリン・クラリスと申し上げまする!!」


緊張の余り、妙ちきりんな口調になってしまった。ついでに勢いで、《《つむじ》》が地面につきそうな程の礼もしてしまった。


「アッッ、ワタクシめはクラリス男爵家の長女なるものでございますです。この度はいきなりに押し掛け参り上げてしまいまして誠に申し訳御座りません」



駄目だハチャメチャだわだってしゃあねぇだろ語彙力なんて溶けるしかないだろこんな女神を目の前にしたら!!??いやまじパネェっすわ姐さん。

自分でも何を言っているのか分からなくなって来たところで、頭上からとても美しい音声が降ってきた。




笑っている。


あの冷淡な冷徹な御令嬢が、笑っている、だと。

くすくすと、お上品な小さな笑い声をこぼしている。ほんの少し口角を上げて、心なしか目を細めて、笑っている……!!


いやえ、現実?

もしかして私今死ぬ。

えまって死ぬ前にちょっと撮らせて下さい?神様激レアショットありがとうございます、ついでにビデオカメラも下さい。


少しすると、彼女はまた無表情に戻ってしまわれた。残念だとは思うまい、十分です、これ以上は過剰摂取で致死量です。ごめんなさい本音を言いますと少し残念です。


ところでこのゲーム、アプリゲーなんすけど、ガチャとかない代わりにボイスとかもなかったんすね。もちポーラ様のお声も想像するしかなかった訳で。いや想像以上に素晴らしいお声で、ワタクシめは今天にも登る心地であります。



「そう。クラリス男爵令嬢ね」


彼女のほっそりとした指先が、可憐な顎に押し当てられる。


「それが、なんのごよう」


あっっ、えっとですね、それはですね、



「私は、貴方様に一目お会いしてみとうございましたのです!」


おこがましいことながら!


「それだけなの」

「です!」


「そう」


短いご返事と共に彼女は、くるりと背を向けて黙ってしまわれた。おや……これ以上お話する気はない、という事でしょうか。それとも何かご理由が。



「おすみならおさがり。いつまでそこにたっているの」


「はっ?か、かしこまりました!」


慌てて礼をし、踵を返す。

部屋を出ていこうとしたところで、また慌てて振り返った。やべえ、テンパリ過ぎて本来の目的を忘れていた。



「あの、またお会いすることは可能なのでございましょうか!」



ポーラ様は振り向くことなくお答えになった。


「おかしなことを。学園にはいったら、あうこともあるわ」


それはそうですそうなんですけど。


「そうではなく、その、おこがましいことながら、」




貴方とお友達になりたいのです!!


叫ぶように発した言葉。ああおこがましい、余りにおこがましい。でもそれが一番の近道だから。


「や、でも、あ、やっぱ下僕でも……ごにょごにょ」



「そう」


そっけない返事。彼女はそれきり、押し黙ってしまった。

それはOKなのですか?それともNO?


……。

しつこく追及して嫌われたりしては意味がないので、後ろ髪を引かれつつも、ひとまずその場を後にした。

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