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プロローグ (※修正しました)
その人は、薄暗い片隅に、幽霊のように佇んでいた。
そこは図書館の一角だった。
伽藍とした高い天井、黒ずんだ梁。ざらりとした漆喰。剥き出しになった柱の、その少し高い所に、大きな鋲が打ち込まれている。そこにはアンティークな真鍮の洋燈ランプが掛かっていたが、今は点いていないようだった。
カーテンの無いゴシック調の窓。木目の目立つ古びた本棚。
差し込む僅かな光と静やかに舞う埃。
その中、少し霞んで見える姿は、宗教画にも似た厳かさを纏っていて。
私が一歩踏み出すと共に、床が軋んだ。華奢な肩がぴくりと震える。小さな人は、彼女は緩慢な動きで振り返って、白い手は読みかけの本を窓枠に乗せた。
薄桃色のガラス細工のような唇が、微かに動く。
「だあれ」
すこし掠れた柔らかい声。
言葉と共に首を傾げる動作が、ひどく愛らしい。
伏しがちの目の中、温度の無いライムグリーンの瞳が、私を捉える。
ポーラ・オリヴィエ伯爵令嬢。
ずっと会いたいと願っていた人が、そこに居た。